落着アフター
薄いGL的内容が含まれています。
でも含有量はごく微細なものです。安心してお召し上がり頂けます(笑)。
「わぁぁあぁ! はわわわわっ!? ―あてっ!!」
「「…は……?」」
耳鳴りがするくらいの緊張感を突き破った、とてつもなく間の抜けた声。
突進してきたそいつは、爪先で独楽みたいに反転し、べしゃりと倒れた。
「…いたいぃい〜…」
黒髪をツインテールにした、ゴシックな服を着た幼女。
…本物の、ゴシックロリータ。
…じゃなくて。
いや、何で?
呆気にとられ、唖然とした俺と優太。
―と、ついさっき開いたドアの向こうから、
「―もう、駄目な子ね。気を付けなさい?リト」
―声。
その声は、あまりにも俺の想像した調子とはかけ離れていて、
「―こ、」
だって、どうして
こんなにも飄々と、こんなにも颯爽と
まるで何事もなかったかのように―
「小梅さん!!」
俺の前に現れるんだ―
「…あらま、拓夜サン?―どうしたの、そんな顔して」
「はれれぇ? ―知り合いですかぁ? プラムさあん」
ドアを通して見る小梅さんには、何だか現実味を持てなくて、
―それより何より、小梅さんのゴスロリはボロボロな上に血塗れで、
なのにこの人は何ともないようで、
―俺の頭じゃ付いていけない。
「小梅さん―、小梅さん!!」
色々感極まって駆け寄ると、ちっちゃい方のゴスロリが通せんぼをした。
「だめ、だめです! 小梅さ―じゃなくて、プラムさんはリトとラブラブなんです!!」
「…あ〜、リト。あんたはあんたで愛してるから、ここは感動の再会を許して頂戴よ?」
「いやですっ! ―だいたいぃ!! なんですかプラムさん!! リトのことは放ったらかしにして、うわきしてたんですか!?」
普段、余裕綽々との表現がぴったりな小梅さんが、珍しく困ったような顔をした。
と、
「はは、愛されてるじゃないかよ小梅〜」
「ひょえあっ!? ちょ―、降ろしてください!! せくはらで訴えますよ!!」
これまた何でもないように、幼女は担ぎ上げられた。
片腕にロリを抱え、ドアに寄り掛かっていたのは
「…悠二さん―」
「おう優太。…待ったか?」
「―…いいえ。全然?」
出て行ったときと何ら変わりない、悠二さん。
通せんぼのロリが居なくなって、早速小梅さんが口を開いた。
「―アタイが帰ってきたのがそんなに意外かい?」
軽く片肩をすくめ、余裕気に赤い瞳で笑う。
…格好いい。
「…違―、そんな…だって無事で帰ってくるなんて―」
「だから言ったじゃないのさー。アタイに任せなさいーって」
自慢気に小梅さんが胸を張った。
…ただ、さぁ…。
…その胸のあたりは布が破けて、いゃぁん、あはぁん、セクシィー!! …な、状態になってまして…。
目の遣り場に困る所存でございます。
「…でー…小梅さん、何でそんな格好なの」
「うん? 何でしょうか、一回怪我したからかな?」
それは血塗れだから何となく分かってましたが。
…ん?
「あれ、それなのに今は無傷じゃないですか」
「それはリトが助けに来てくれたからね」
…?????
え、何で?
分かんねぇ。
悠二さんの腕でぐったりしなびていたロリが、急速に水気を取り戻した。
「そうですよね!! やっぱりプラムさんはリトがヒツヨウなんですよね!!」
「そうよー、必要よーリト」
「えへへへへ…」
分かりきった棒読みの台詞に、幼女は照れて笑う。
「ま、リトを呼びに行ったのは俺なんだけどな」
「ちょ―…っ悠二さん!? ソレさえ言わなければリトの手柄だったのにぃ!!」
「あー、大丈夫よリト。ちゃんと分かってるから」
「そ…っ、そうですよね!! プラムさんですもの!分かってくれてますよね!!」
「まあ、色んな角度でね」
…なんだこの会話。
それに、冷静になると結構異様ってかシュールな光景だぞ。
血塗れの女と幼女抱えた男が平然と喋ってる絵面って。しかも幼女は大した抵抗もしないし。
…ああ、何か真面目に考えるのがバカバカしくなってきた。
「―てぇゆーか悠二さん!! そろそろ放してくださいよ!!
まだリトにおっぱいはありませんよ!」
「ああ、俺両刀だけど幼女の胸とか興味ないから」
「―リトも悠二さんのゴツゴツしたカラダにはキョウミありません。
プラムさんが良いです、むっちむちです!
チェンジしてくださいチェンジ!」
「チェンジ不可。だってお前捕まえてないと邪魔すんだもん。邪魔しないってちゃんと約束したら放してやるよ」
「……。…邪魔シマセン、コノイノチ掛ケテ誓イマス」
「はーい、交渉決裂」
…この二人、案外仲が良いのかも。
「…え、どうしてコイツが助けると小梅さんが無傷?」
「ん〜、そうね。
ヴァンパイアの唾液には止血作用があって、血液を摂取すると怪我が回復するから、かな?」
…あ〜、なんか成る程。
……おっと?
…ていうことは、あのロリにキズを舐めて貰ったって事?
うわぁ……エロっ
「ちょっと待ちなさい!そこの目付きの悪い子供!!」
「…え?あ、俺?」
…ってか子供に子供って言われたんだけど。
コイツどう見ても小学生なんだけど。
「今っ!今アナタ不埒な事考えたでしょう!!」
ぐはっ!?
な…っなぜバレる!
「な…ち、違うし!! 別にR指定な映像なんか見てねェし!!」
「アナタ! 今すぐにそこに直りなさい!!
良い度胸ですねプラムさんとリトの18禁妄想をするなんて!!」
「だってしょうがねぇだろ!!
考えちゃうだろさっきの描写からすると!!」
「大丈夫だ拓夜。その映像、真実だから」
更に駄目じゃねェかよ!!
何だよ、この性格破綻者の集まりは。
…もしかして、わりかしマトモな方なんじゃないかな。アイツ。
「さーて。…悠二ぃ?もうリトの事解放しても良いわよー」
「あいさー。合点しょーち」
幼女を抱えていた手が離され、ソイツは床に落っこちる。
「うきゃあ!!」
「任務完了であります」
「ん、ご苦労」
「…よし。―優太あ〜っ!!」
「悠二さん、お帰りなさい。悠二さんのお陰で小梅さんが助かったんですよね。…この子を呼びに行ってたんですか?」
「そーだよ。俺が単品で行ったって強いっこねェもん。
戦いの方は小梅を信じといて直行してきた」
「うわぁん!! プラムさぁぁあぁん!!」
「ああ、よしよし。ごめんね無視して」
「そうですよぉ! ヒドいです〜っ!リトが居たからプラムさん助かったのにー」
小梅さんに抱き付き上目遣いに訴えていた幼女が、じっとりと悠二さんを睨め付けた。
「…リトが居たから〜」
「あっれー、聞こえないなぁ」
カップルが二組。
…俺、邪魔かな…。
少し帰りたい衝動に駆られてきた。
一件落着したし、俺はそろそろおいとましようかな。
「…でも、アイツを倒した訳じゃない。」
「―へ?」
完全に帰るモードになっていた俺は、思いつきもしなかった言葉に間抜けた声を上げた。
「アタイじゃあアイツに勝てないわ。アイツは帰った。アタイに用は無いからね」
小梅さんが、芯のある声で言う。
こういう時、この人は本当に格好良い。
「またアンタを狙ってくるでしょう。
気を付けなさい」
…そっか。
また狙ってくるなら、俺もそれなりに応戦出来るように成らなくちゃ。
「…ありがとう、小梅さん。悠二さんも」
「俺はちょっぴり走っただけだよ」
「気を付けて帰って下さいね。せめて、桜助さんに会うまでは」
アイツに頼るのは何か嫌だが。
「それよりリト!! リトに感謝してくださいよぉ!!」
…俺この子供知らないし。
「―リトは御頭李兎です! プラムさんのコイビトですよ!! 覚えておきなさいです!」
「…お、おー。俺は藤堂拓夜だ…けど、えっと」
「桜助の恋人?」
「ちっ違いますよ!!」
好きっちゃあ好きだけどまだそんなんじゃ…―って予定があるわけでもないけど!
「ま、リトは拓夜のセンパイですから、じゃんじゃん頼りにすればいいですよ」
…ウゼェ。
だけど何だろう、ちょっとコイツ可愛いぞ。
「ああ。せいぜい頑張れリト」
「なんで上から目線っ!?」
目を剥く幼女は放置して、俺は踵を返した。
「…じゃあ、お世話になりました」
「おぅ、桜助と仲良くなー」
「リトはセンパイなんですからね!拓夜さんアナタ分かって――!!」
幼女は無視して、ドアが閉まった。
そろそろあいつも起きてるかなー、なんて考えながら、俺は薄暗い空の下、帰路を急ぐのだった。