夢回帰―淡々
師匠との生活は楽しかった。
血液を飲むという行為には抵抗が有ったが、どうしてか直ぐに慣れてしまった。
『―唐突ですが師匠様、その喋り方は変ですよ』
『…Why? …変って何が』
『それです! その外国語が変です』
『…え、そうなの? …じゃあ直そうかな』
『それは妙案ですね。是非』
月日は自分を残して過ぎていった。
顔見知りの人間も、元の主人だった男も。
何時の間にか老い、何時の間にか消え去ってゆく。
『師匠様ー、長髪の放置はだらしないですよ? 纏めたら如何でしょうか』
『ん〜、そうかな? …ああ、チェリーは一つ縛りだもんな』
『僕が結びますから、少し屈んでください』
『チェリーは小さいからなー』
『放っといてください!!』
吸血鬼には二種類あって、師匠はそのふたつの混血なんだそうだ。
『チェリー? ちょっと色薄くなった?』
『…?、いや、分かりませんけど』
『ちょっと赤毛になったよ。かんわいー!似合うよ』
『あああああ…そんな露骨に愛でないでください〜…』
その頃、桜助という少年は、小梅という少女に出会った。
『なぁに? アンタもばんばいあなの?』
『そう。―お前もそうなのか』
『そーよ。…もとは遊郭に居たんだけどね、師匠に拾って貰ってね。…アンタは?』
『…私は甘味屋で働いていた。名は桜す―』
『チェリー! 悪い悪い置いてきぼりにしちまって!! …ってあれ、彼女はガールフレンドかい?』
『違いますから! それと他人の前で僕をその名で呼ぶのは―』
『あれまぁ、随分甘ったれなんだねェ。『僕』だって』
『ああ…違くて―、…はぁ…』
二種のヴァンパイアは元来仲が悪く、大昔から争いを繰り返してきた。
戦期は人間間の戦争と被ったようだった。
それに、私も参加した。
…何より、私の意志で。
『―戦…ですか』
『ああ。…悪い、止められなかった』
『…其れにしても何故戦などを』
『ん〜…。よく解らんが昔っからだよ。ま、互いに邪魔なのさ』
『…それは大規模になりそうですか』
『多分な。…大丈夫だ。ストップ掛けられなかった責任は果たすよ。―俺、ちゃんと戦うから』
『…―無論。師匠様が戦うなら僕も』
その時から居たのはロスヴィータという女。そして彼女が慕っていた男。
現在のあの少年は知らない。恐らく、新入か何かだろう。
当時の奴らも、シンボルマークに薔薇の刺青を彫っていた。
『―クリスティ、私達を裏切ったのね。…そんな外道な種族に味方をする為に』
『ふん。所詮愛には何者も勝てないって事さ。オーケィ?』
『―I don't,no!』
…当然、全力を尽くした。
―だが、師匠は戦いの最中―…帰らぬ人となってしまった。
ギリギリ、勝ちはした。だが、私は少しも嬉しくなんか無かった。
私は沈んだ。
あの人のの居ない勝利になど、意味がなかった。
何年、そうして居ただろうか。
どうでも良い世界で、どうでも良い様に自堕落に生きていた。
人間の戦争も何時の間にか終結していた。
『なー、あんたオレらとは違うよな? 何てェの?』
『五月蝿い糞餓鬼。気安く話しかけるな』
『わりーなー。オレ偉いとか偉くないとか良くわかんねーの。しんいりだから』
『―……』
『なあ、何でお前金髪なんだよ。…アメリカ兵―とか―?』
『お前とは違う種のヴァンパイアだ』
『の割にこっちに居るよな? オレ祐二ってんだけどオマエは―』
『黙れ』
その後。国の中がある程度安定してきた頃。
感染ヴァンパイアの中で、師匠を馬鹿にした奴が居た。
だから、殺した。
そうしたら、当然の事ながら、私は彼等の『敵』になった。
攻撃だってされた。
『…注意だけはしておく。死にたくないなら素直に帰れ』
『―誰が、帰るかよ…。ここにいる奴らに、そんな脅しが通用すると思ってんのか…』
『―一応言ったからな』
『!? な―止め―!!』
私は孤独になった。
何度か討伐隊を返り討ちにしたら、面倒事は来なくなった。
…祐二―もとい悠二だけは、しつこく『友人』を続けていたが。
『私に構うなと何度いったら解るんだ』
『多分一生わかんねーからいい加減諦めろって、一体何回言ったら分かるんだよ』
『……分かった。諦める』
『いぇい。勝った。』
何時の間にか悠二もでかくなり、何時の間にか年号が昭和から平成に変わっていた。
…―そして、私は
拓夜に出会った。