表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

待受ツイントーク




 ―俺は走った。

 走った。走った。


 口も喉も目もカラカラになった。でも走った。



 …逃げている訳じゃない。俺は、助けを呼びに行くだけだ。


 そんな風な言い訳を―自分自身に言い聞かせて。




 桜助を起こすなんて考えはハナから無くて、呼びに行ったのは悠二さんだった。



 縺れる脚で階段を駆け上がり、乱れた息で必死に叫んだ。





「―っ悠二さんッ!!」


 本気で呆けた顔で悠二さんが振り向く。



「…はい? …あ、何よ拓夜じゃん。―ってうわ!! 何だよそのキズ!!」


「ヤバいです悠二さん!!どうしよう! 小梅さんが―俺の所為で―!!」


 とうとう完全に足が縺れて、それに逆らう力も無くて、…俺はズルズルとへたり込んだ。



「…おい!」


「―れの所為で…あぁ…どうしよう…悠二さん―!!」


「落ち着け、拓夜。ちゃんと説明してくれないと分からないだろ」



 俺は悠二さんの言う事もやっと理解して、おずおずと頷いた。



「…いま…今…小梅さんが戦ってるんです…。…俺を、…逃がすために―」


「誰とだ。小梅は誰と戦ってる」



 そうなんだ。それがいけないんだ。

 どうしよう。逃げ出した俺はどうすればいい?



「…小梅さん、は…―。小梅さんは、…純血の、ヴァンパイアと…。…リラ―!リラっていう…!!」


「―!!」



「やっぱ…!! やっぱり俺行かなくちゃ―!」


 立とうとした俺の肩を、悠二さんが抑え付けた。



「―悠二さ…!!」


「お前は待ってろ。小梅は必ず無事で来る」



 何を言われても、多分俺は首を振ったと思う。


「拓夜!!」


「って…だって―」


「―信じてやれ」



 信じる?

 誰を?何のことを?


 俺は、…だって、だって―



「―優太、拓夜と一緒に居てやれ」


「…え、悠二さん―まさか!?」


「―ちょちょいっ〜と様子見てくるだけだよ」



 ―そんな、


「……本当に、行っちゃうんですね?」


「―小梅は友達だからな。妬くなよ優太。優太が一番だよ」



 優太が少し笑う。


「―当たり前ですよ。早く帰ってきて下さいね?」




 悠二さんが困ったように笑って、開きっぱなしのドアの向こうに消えた。



 ―俺は、


 …俺はまた、何も出来ない



 待っているだけ。見ているだけ。

 行動を起こせず、起こしても役立たず。




 結局俺は無力なまま。



「…拓夜さん?」


「…ごめん、優太…。悠二さんを危険な目に遭わせちゃって―」



「大丈夫ですよ。悠二さんだって、小梅さんって人だって、僕らみたいに簡単に死んじゃったりはしないだろうし…」


「…俺は、力には成れないのかな…」




 俺が人間に近いから?


 …だとしたら、俺は早くヴァンパイアになってしまいたい。



 自分勝手だけど、小梅さんや悠二さんみたいに―桜助が危険に晒されたときに、こんなに無力じゃないように。



「…僕は、ここで待って少しでも癒しになれたら―って、思うことにしてますよ」



 つい、優太を見やってしまった。

 優太は愛らしく笑う。



「僕も思いました。戦争が始まるって聞いた時に。

…僕は力になれない。僕はどうしたら良い?…って、ね」





 俺より小さい身体に、きっと俺より深い年月を詰め込んでるんだと思った。




「それで、僕には悠二さんを癒すことしか出来ないって…気付いたんです。

だからずっと待ってて……帰ってきたら、少しでも悠二さんと楽しく幸せに過ごさなきゃ」




 割り切って考えた、その答えが優太はコレだったのだろう。



 …俺には出来ない。じっと待っているだけなんて。




「それに、信じてますから」



 また、―信じるなんて



「信じるって、…何を?」


「戦いに行く人達、みんなを。そしてみんなの帰還を。です」



 信じる…。


 小梅さんを、信じる。


 悠二さんを、信じる。



 ―信じて、待つ。




「戦争が起きたら、優太も戦うのか?」


「もう起きてるんですよ。…ただ、表面化していないだけで」



 その一角が、俺が襲われたこと…か。



「僕は…わかりません。もし、悠二さんが死んでしまったら…僕は生きている意味なんか無い…」



 悠二さん…


 そう、優太は呟いた。



 信じると言いながらも、心配が滲み出ている声で。





 ――その時、



 ドアが開いた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ