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夢回帰―出逢




「…ん?何だお前」



 目の前にいたのは金色の髪をした―西洋から渡来した…らしい人。


 …それにしてはあまりに言葉は流暢だった。



 でも、『僕』は未知の者が怖くて―

 怯えて後退した。



「Wait! 俺は怪しい奴じゃない!」


「―っ!?」



 肩を掴まれた。


 ―屋敷…及び店での、嫌な記憶、恐怖。…それが、瞬間的に蘇る。


 体の震えが止まらない。

 夏だと言うにも関わらず、奥歯がかちかち鳴った。




 それに―十分怪しいだろう。


 外国人と言うだけで怪しさは無条件に添付されるのだ。



「…いや、すまない。まだ言葉に馴れなくてな。…不自然じゃないか?」


「…す…すみま、せ…―」



 それが精一杯絞り出した最上級に必死な応え。


 質問内容なんて理解できなかった。


「……。…何だかよく事情が分からないんだが―…。俺って嫌われちゃったみたいな感じなのかな?」



 溜息の気配がした。



「Okay.―わかった、俺だって不審者にはなりたくない。……いや、もうなってるか?」



 夜に出歩くんじゃなかった。

 あわよくば人斬り等に出会って斬り捨てられれば…などと、心の隅で願ったりしていたのだが。


 …最悪だ。


 『僕』は鬱に似た自分の心情に、心底嫌になった。



「…それにしても―こおんな時間に出歩くなんて随分とお前もfunkyだな」


 茶化すように言われて、少し緊張や恐怖が解けた。


 言っている意味はまるきり分からなかったけれど。



「嫌な事でもあったかー?」


「うっ…!? っそ…それは…」


「realy!? ……もしかして、これって図星?」



「………」



 …嫌なことしかない。


 むしろ、良いことなんか有っただろうか。



 …普段から落ち零れの足手纏いの無駄飯食らいで、生きているだけで鬱々とした気分だった毎日。


 嫌な事は続くもの。


 居場所のない日々に、とどめを刺したのは今日。



 …御主人様に、きっと悪意は無い。


 『僕』は怖くて、普段の僕が申し訳なくて、人形のようにされるがままだった。



 この感情の遣り場が分からない。

 誰が悪いのか。誰に当たればいいのか。


 誰かに当たっても解消されないのは百も承知。

 だから当たりはしない…けれど、心の許容範囲はそろそろはち切れそう。



「…死にたいです」


「―Why?」



 何故か何かが可笑しくなってきてしまって、笑えてきてしまって、


 ふふ、と鼻の奥で笑った。



 ―自分を嘲って。



「もう、私は死にたいです。浮き世は辛く嫌な事ばかりです。…あなたは私を、殺してはくれませんか―?」


「…Will、I….…まさか、こんな子供が―」



「…おかしいですか。……そうでしょうね。―私のおかしな憂鬱を分かってくれる御仁など…きっといないでしょうから」




 とっくに確信していた。


 『僕』は存在することが間違いだと。



 卑屈で嫌な奴だろう。―それでもいい。


 美しく有ろうという精神など、とうに擦り切れていた。




「…こんな世界に生きていたくありません。…もう、死んで消えてなくなってしまいたい」



「―Yes tha's、light.…それは常にこの世の真理だ」



 予想外の言葉が返ってきて、思わずはっと見上げてしまった。


 真剣な金色の瞳は、綺麗な満月みたいだと思った。



「…いろんな事全部、嫌になったり逃げたくなったりするさ」


 知ったような口を利く見ず知らずの外国人に、やたらに腹が立つ。



「俺にはお前に何があったかなんて分からない。…だから俺は頑張れとも、弱音を吐くなとも、ましてや励ますようなことも言えないよ」


「―…」



 怒りが、一瞬にして浅葱色に冷めた。



「…まあ、俺なんかがひとつ言えるのは―…今の内って事かな」



「…―え?」


「死のうと思って死ねる。お前はそうなんだろ? それに何も今死ななくても、後半世紀も経てば何時の間にか逝ってるさ」



「…そ、それは…些か乱暴では―」



「ひひひ、俺はそういう奴なんだよ」



 と、その男は笑った。

 気楽そうな人だと思う。



「…この先の五十年に耐えられる気がしません」


 明日すら危ういと言うのに。


 …怖いのは先の人生じゃなくて、…明日から始まる『僕』の日常。



「―ここで逃げちまったら一生後悔するぜ」


「死んでしまえば先はありません」



 ふぅ、…と男は溜息をついた。




「―分かった。…さぁ、go!子供は家に帰れ」



 この方は話を聞いていたのか。

 若干唖然とした。



「―とりあえず行ける所まで行ってみろ。

……それで、どうしても堪えられなかったらもう一度ここに来い。

お前を違う現実に逃がしてやるから」



「……?」



「ただ、その逃げた先がお前の居る現実よりもマシかどうかは保証しないぞ?

俺は違う道を提示するだけだ」



 意味の分からない『僕』の背を、男が押した。



「…頑張りすぎるなよ」


「―と…!? わ!」



 つんのめる形で転びそうになって、着物越しの手の温かさが肌の中に残って、



 振り返ってみても、…もうその暗がりには誰もいなかった。




「…僕」



 夢のように去った時間。

 空の月は丁度満月で、



 あの人の髪と瞳によく似た色だった。








 桜助の師匠って人の喋り方が笑える。(←オイ





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