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恋愛ドレイン



 題名通り砂吐きそうです。


 何か2人でイチャイチャしてます。








 とりあえず帰っては来た。



 充電器は買った。電池も買った。


 …財布は軽くなった。



 と、いうことで、暇になった俺は嵐の後みたいな部屋の片付けをしているのであった。



「…腹減った」



 …そう言えばアイツ、『徐々に血液以外からの栄養がとれなくなる』…とか言ってたな。



 じゃあ今の俺は普通に食えるって事か?


 …おいしくないんだけどな。




 真っ二つのテーブルとか粉砕した椅子とかを部屋の隅に集めるわけだが、それが結構重労働。




 だって重いし。


 ホウキも無いんだもん。




 一番重かった最後のテーブルの左半分を片付け、遂に全てが終わった。

「終わった…けど、」



 すっからかんになった部屋を見回す。




「…ホントに何もねーな」



 どこから調達してくる気なんだ?



 …まさか…このままじゃ無ぇよな。



「いや、有り得るかも…」




 アイツならやりかねない。絶対に。


 催促してみるか…。




「腹減った!」



 どうしてこんなに遅い!

 悠二さん家ってそんなに遠くないぞ。





「早く帰ってこいよバカぁああ!!」


「―何だ、そんなに私が恋しいか」


「ギャス!!!」



 背後のドアからアイツの声がして、急いで振り返った。




 腕組みをして、ドアに凭れる様に佇んでいるのは金髪のアイツ。



「な何でお前はそう神出鬼没なんだよ!!」


 声が裏返った。



「神出鬼没に感じるのはお前の尺度で私を計るからだ」


「じゃなくてぐうああぅ!」




 余りの苛立ちに身悶える。



「じゃあ…!じゃあ!! お前が俺の尺度に合わせろよ!!俺はお前の丈なんか知らねえ!!」



「生意気な事を言う奴だな。傲慢に私に要求するのか?」



 だって…それはそうだよ。


 俺にはお前の事なんて何も分からない。






「そうだ、俺腹減ったよ」


 ペッコペコだ。


「…それは当然だろうが。お前は丸2日間絶食状態だからな。むしろ良くここまで保ったものだ」



 …ああ、そう言えば家出てから何も食ってねぇや。


 どうにも、コイツに咬まれてからは時間の経過が分からない。





 家にいたのが遠い昔の様に感じる。


 短期間に沢山の事があり過ぎた。



 でも―振り返ってみるとやっぱり2日位しか経ってないんだろう。




「…と、いう事は」



 下心丸出しな顔で、桜助がにやりと笑った。




「―私の血が欲しいか」


 …不服ながらそういうことだ。



「…そうだよ」


「欲しいのか?」


「っ、そうだよ!!」



 何の謂れか恥ずかしくなって叫んだ。



 何で何回も訊くんだ!!



「そうか、欲しいか」


 至極楽しそうに、最早にこにこ顔で訊いてくる。


 …前言撤回。にこにこじゃなくてニヤニヤ。



「馬鹿!! な、何で何回も訊くんだよ!! 欲しいっ言ってんだろが!!」



 何で恥ずかしがる、俺!




「そうか、素直でよい子だな。よしよし」


「あ、あったま沸いてんじゃ無ぇの!? い、一体何がしたい!」



 頭なんか撫でるな!!




「って、うぇあっ!」


 そのままの勢いで髪を掴まれる。


 でもヤツの顔は妙に優しいままで、もう訳が分からない。



「ちょ…!?なんだよ!!何が―うむっ!!」





 急に顔を引き寄せられた。


 むに、


 …と、唇に知った事のある感触。



「ふう゛ぅんっ!?」



 驚いて吸った息。鼻からのそれが生暖かくて。


 見開いた先の視界がぼやけてるのは……近すぎてピントが合わないから。


 吸う息が苦しいのは、新鮮な空気が手に入らないから。



 唇があったかくてぷにぷにしてるのは、




 ……してるのは、…もういっこ、合わさってる唇が―有るから。



 これは―



「…ぁ……?」



 …俺から離れた瞬間の、桜助の顔があまりに色っぽくて、


「…、…よしよし」



 …それで、また妙に優しく頭を撫でた。



 俺は…思考が凍結しちゃって呆然とするしかない。




 …だって…この顔は、可愛いい孫を溺愛するおじいちゃんの顔だ。



「さ」



 それで、抱き寄せられて、



「―召し上がれ」



 頭を首筋に押し付けられた。



 ―鼻先にあるのは白く筋張った首筋。




 ―息が乱れる。


 欲しい。

 これが欲しい。




 堪らず、かぶりついた。



「……く、」



 しょっぱくてあったかい血。


 舌が満足感に溺れる。


「は…、ぅあ―」


 喘ぐように、桜助が俺の服にしがみついた。




 ごくり、




 一口飲み下す度に、味わった事の無い幸福感が込み上げてくる。



 幸せだと―


 何でか…そう噛み締めた。




 確実に腹に溜まっていく質量。


 胃が重たくなる。


 何故か気分が良くなる。




 感覚的にも精神的にも十分満足した俺は、口に啣えている物を離した。


「―、つ…」



 途端に垂れてくる鮮血。


 それが凄く勿体無いような気がして、俺はそれを舌で嘗め取った。



 幾度か繰り返していると、俺の咬んでいたもの―桜助が、不意に俺から離れる。





 陶器みたいに白い頬を僅かに上気させ、首筋を押さえて俺の方を見る。


 ―それで、いつも通り―嫌味に笑った。



「―お粗末様で。」




 …俺は一体どんな顔をしているんだろう。


 きっと、とんでもない程のアホ面に違いない。




 …だって、余りにも目の前の男が色っぽかったから。


 桜助は艶めかしく首を傾けて、甘そうな息をゆっくり吐いて、





「―…私は、寝る」




 俺の脇を通り抜けて、ベットに寝転がった。


 壁際を向く形で、俺に背を向けて。







 ……うわぁ、どうしよ…。




 今更になって状況に実感持ってきた。




 お、俺…コイツとキスしちゃった…。


 別に…、別にキスでビビる程、俺だってピュアじゃない…と、思う。



 でも俺、今ドキドキしてる。



 …どうしよう。


 何で男とキスして、こんなんなってる?



 …いや、それは俺がコイツに惚れてるからだけど。


 どーやら脳だけじゃなくて、脳髄の内の更に中心部まで、完全にイカれたらしい。




 ―だって、好きなんだ。





「…寝たかよ」


「―いや。」


 俺は桜助の寝ているベットに寄り掛かり、下の床に座った。



 恥ずかしすぎて顔なんか見られない。




「…こ、この部屋、俺が片付けたんだ」


「そうか」


「大変だったんだぞ、ホウキも無いし!このすっからかんな部屋模様、一体どうするんだよ」


「そうだな」



 重いポケットの中身を取り出す。

 ベットの上に居る奴に渡そうと、少し手を伸ばした。



「……こ、れ―」



 ずっと返そうと思っていた物。


 今返さないと永遠に返せない気がした。



「―部屋にあって、その…成り行きで持ってた」


 重たい、金属の時計。


「―それは」


「…オウスケって、お前の事だろ?」



 どんな顔をしていたのかは見ていないので分からない。


 とにかく、手の平が軽くなった。



「…そうか、持っていたのはお前か」


 ―代わりに、そんな重い声が返ってきて。



「…うん」


「―…この名前、見たんだな」



 …そりゃあ見たくなくても見えるだろう。


 何か見ちゃマズいんだろうか。



「…見たけど」


 大きく溜め息をついて、桜助は寝返りを打った。



「あれは別に私が刻んだんじゃないぞ」


「え、違うのか?」


「違う!私はそんな自分を溺愛したような真似はしない」



「……そ、そうか」


「…あれは師匠が書いたんだ」



 …師匠?


 …えっと、こいつに吸血鬼を伝染うつした奴か。




「どんな奴?あんたの師匠って」


「……それは…凄い人だったぞ、…色々と」




 心無しか声音が違う。

 …何だ、変人だったのか?



「どんなどんな?」


 興味をそそられ、振り返る。



「大概奇天烈な人だったな。…本当に、何というか予測のできない人だった」




 …え、分かんない。



「話せ!」


「はあ?」



 思いっ切り嫌そうな顔で見られた。



 それで、目が合って、

 やっぱり気まずくて恥ずかしくて、急いで逸らした。




「…何だいきなり」


「べ、別に…別に何でもないぞ。別に別に、ホントに別にとんでもなく平常状態。」


「別に…何か在るんだな」


「無ぇから!!」



 …ってか気付けよ。

 どんだけ鈍感なんだ、コイツは。


 お前の所為だよバーカ。



「…其処まで言うなら追及はしないが」



 面倒そうに、桜助が溜め息をついた。


「では今度こそ本当に寝る。何があっても、どんな事があっても―絶対に私を邪魔するな」




 …そんなに念を押されても。



「…へいへい、解りやしたよ、二度と起こしてあげませんー。随分寝てばっかですねえ、桜助サーン?」



 だってさっき起きたんだぞ。


 どんだけ寝るんだよ。睡眠時間長すぎだろ。

 俺そんなに寝たらアタマ痛くなっちゃうんだけど。



「…あーあ、つまんね」



 本当に退屈になってしまった。


 俺はベットに寄り掛かったまま、天井を見上げた。



 ひび割れたコンクリート。剥き出しにぶら下がった、電気か何かの配線。



 俺がヴァンパイアになって、初めて見たのはこの天井だった。



 ―思えば、



 俺はあの時から、こいつが好きだったのかも知れない。





 初めて触れた。抱くように覆い被さられた時。


 この匂いを綺麗だと思った。


 麻痺した頭で、心地よいと思った。




 初めて見たこいつの笑った顔を、


 妖しく、嫌味に笑った。そんな笑顔を、―美しいと思った。





 …今更じゃんか。


 ずっと熱を上げて、浮かされて、




 でも、人を、今までの生活を失った恨みが先に立った。


 嫌い嫌いを連呼した。…こんな色は、それに塗り潰されてた。



 だから、今更になって気付いたんだ。



 俺はもう恨んじゃいない。

 人に戻るって決めたから。なんとか実行してみせるんだ。



 …こいつと居るのも、悪い気はしないし。





 確かに嫌味な奴だけど、俺が反発ばっかしなければ…まぁまぁ良い奴なのかも…とか、…最近思ったり。




「あ~…じゃなくて…」


 ……此処にいるとつまんねー事ばっか考える




「…どうせなら、わざわざ考えてみるか?つまんねー事」



 どうせコイツが起きるまでは暇なんだ。




 考えてやるよ。つまんねぇ事を。




 俺は振り返って、


 そこにあった桜助の寝顔を眺めた。



 いつもの厳しさが無い寝顔は、普段よりも幼く見える。





 もし夢が覗けるなら、是非とも覗いてみてぇモンだな。



 …もっと知りたいから。あんたの事。




 あんたは何も教えてくれない。

 …さっきは少しでも教えてくれて、嬉しかったんだ。




 いつ生まれたのか、とか。

 どんな人生を送ってきたのか、とか。





 …もっと下らない事でも良い。


 血液型?好きなもの?好みのファッション?


 何でも良いんだ。



 両想いなんて言わない。望まない。


 ただ側に居られれば。



 …人に戻るという事は、こいつから離れる事だけど。





 それまでの時間、ここに居ても良いかな。




 …俺、もしかしたら無能だから。



 ―ここに居るだけでも。





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