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喧嘩スレイヴ



 桜助が情け無いです。


 そして悠二がお兄さんです。











「…ついに来ちまった」




 こんなにドア開けんのを躊躇ったの、初めてだ。



 何だって俺はあんな事ほざいちまったんだろうか。



 …勢いだけで喋るからだ…俺の馬鹿。




「―な、今帰りたいって言っても…ダメ?」


「…え…!? い、今更ですか―」



 今までの会話でこいつの名前が優太だという事が分かった。



「…いや、冷静になればなるほど後悔しか募らないって言うか…」



「―だ、大丈夫ですよ多分」


 ここに着くまでに色んな事をグチャグチャ考え過ぎて、陽向に怯えることすら出来なかった。



 この優太って奴も一応日陰を選びはしていたが、それほどこだわってはいないようだった。



 今のところ何の支障も出ていない所を見ると、俺には問題無いようだ。




「…じゃ、あの…開けますからね?」


「―え、ちょ―待っ」



 俺が居たとこのドアに負けず劣らずボロい金属のドア。


 ―が、耳障りな音で





 …開いた。





「悠二さん…? 今帰りましたー…」



 小声で優太が言ってから、目を丸くした。


「…あれあれ、起きてたんですかぁ?」


「桜助が寝かしてくんねぇんだ」




 …や、…やっぱりいるんだ…。





「……優太?」









 その声に、戦慄にも似た緊張が走る。




 このどっかの俳優みたいな声はアイツしか居ない。




 恐る恐る上げた視線が―










「連れてきたのか、其奴そいつ







 ―ぴったり、合致した





 こいつ笑ってやがった。


「……っっ」



 どうしよう。どうしたらいい?






「わざわざ自分から来るとはな」



「…っ違う!!」



 …何がだよ。


 わざわざ自分から行ったくせに。



「一晩も留守番が出来ないとは思わなかったな。寂しくて来てしまったのか?」


「ば、ばっかじゃねーの!! 何で寂しがらなくちゃいけねぇんだよ!!」



 寂しかったくせに。




「―…あの、桜助さん。拓夜さんがあなたに言いたい事があるって」


「ちぇすとーお!!!!」



 いつの間に知らない誰かに寄り添っていた優太に右ストレート。


 ぱしん!



 その誰かに止められたが、それ所じゃない。



「ゆ…ゆゆ、ゆーた君? そーゆー事言っちゃう訳? おまえって奴は」

 緊張と焦りと驚きで変な汗が滲む。



「だ、だって…『行って話してやる』って言ってたから―」



 言ってたよな、俺。



「だけどさぁー、そう言うのは何つーか俺が覚悟決めてからじゃない?」


「覚悟って…何の覚悟ですか?」




 覚悟…か



 …何だろう。


 だって言うことなんか無いのに。


 何を言おうとしてたんだ?

 何に覚悟決めようとしてたんだ?



「よう拓夜」


「?」




 俺の振り下ろした拳を受け止めた人が、笑う。


「会いたかったんだ。どんな奴か。…お前が拓夜だろ?」



 右手を離し、ニカッと笑う。



 ―これがアイツの友達?



「…あ、あー…」



 何と答えたら良いのか分からなかった。


「―ってか、お前らホント合わねーな」



 そう言う2人はべったりだ。



 桜助の友達だって話の…悠二だかなんだか。は、アイツと違って現代人っぽい感じがした。

 髪もブリーチじゃないし、放置したロングなんかでもない。



 赤気味のブラウンの短髪をワックスか何かでセットしている。


 ピアスや指輪とアクセサリーも何気に身に着けていて、その時点でファッションって物に無頓着そうなアイツとは大違い。


 レザーのジャケットに黒のタイト気味なズボン、裾はブーツイン。


 …で、無意味なベルトやチェーンが多い。



 ……よく言えばロック調。…悪く言うと中2病…なのか?




「……あの、えっと―」


 訊くまでも無さそうな事だが、こんな人が―…いや、悪い意味ではなくて。


 こんな普通そうな人が吸血鬼だなんて思えない。



「…悠二さんもヴァンパイアなんですか?」



 俺が言うと可笑しそうに悠二さんが笑う。



「―何で?威厳無いから?」


「あ、いや、違うです。何つーか、ヴァンパイアって皆あんなんだと―」


「あんなんとは何だ」



「あんなんばっかじゃ精神保たないって。アイツ俺等ん中でも異質なんだぜ?」



「悠二、お前まで言うか」


「そうなんすかー…。俺はてっきりああいうとんでもないのばっかだと…」


「お前、とんでも無いとか―」



「まぁ…初めてがアレじゃあなぁ…」



 どうしよ、この人とは仲良くなれる気がする。



「髪とか―染めてんですか?」


「ん? あぁ、ほっとくと白髪になっちゃうから」



 …へ?



「し、白髪?」


「俺のレベルじゃ中途半端に色抜けててさ、格好悪いから染めてみた」




 …色、抜けるのか。



 あれ?

 じゃあ…何であのベットでふんぞり返ってるのは金髪なんだ?



「んー? アイツ?」




 視線で言わんとすることを察された。



「アイツは―」



 そこで悠二さんはアイツをチラリと見て、言葉を区切った。




「…いや、…やっぱ本人に訊け」


「…何で―」



 俺も視線を向けてみるが、目線が合った瞬間に目を逸らされた。




 …こンのくそ野郎が


「…っの野郎…」




 …くっそ、何でコイツはこんなに神経を逆撫でる天才なんだよ。


 無駄に腹立たしい。



「…ホンット仲悪りぃな、お前等は」



 仲良くなった事なんて無かったと思う。


 俺は最初からコイツが嫌いだった。


 …きらい…―







「…そうだ、そこの拓夜」


「この拓夜以外に誰か居るかよ、拓夜が」


「せっかく私のために来たのに残念だが今は帰れないぞ」


「はぁ?お前の為じゃねぇし。つれて帰ろうとか思っても居な―」



 上げた視線の先にはにやついたヤツが居て。


 意地っ張りな俺の頭は一気に沸き上がった。



「…ってめェ―!! 何だよその顔は!! 何が言いてェ!!」


「―いや? 素直さの無い奴だと思ってな」



 すなおさ?

 お前相手に成れるかンなモン。


「…っメェなァ…。―人に言う前に自分を省みてはいかがでしょうかねぇ?」


「私のことを言っているのか? …ふん、私は素直だぞ」



「確かに素直かもな!」


 言いたい放題だもんな。



「じゃあ遠慮とか覚えろよ!…何でもズカズカ言う事は素直とは違うぞ」


「私は同じ事をお前にも言いたいがな」



 …はい?


 …俺はある程度考慮してる……のかな…。



「気を使えなどとよくもその口で言えたな。その無自覚さには敬意すら表するぞ」


「テメェ…! 大人しくしてりゃあ好き放題―!!」



「む、また喧嘩か? 全く、そんな有り余る体力があるなら体でも鍛えたらどうだ? 今よりは増しに成るだろう」


「―ふざけんな!!」



 あのスカしたツラを一発…


 …いや、取り敢えず気の済むまでぶん殴ってやろうと胸ぐらを掴み、拳を振り下ろす。


 スカ。軽く避けられた。死ね。


 ヤツが妖美に笑う。…と、思ったら―




「だ―…わっ!?」



 振り下ろした腕と胸ぐらを掴んだ左手首を掴まれ、かと思うと世界が反転する。



 耳元でスプリングが激しく軋み、背中に柔らかい感触があった。



「な…何…」



 目を開けると真上から見下ろすアイツ。


 両手はがっちり掴まれている。



 腹の辺りが重たいのでこれはつまり―…乗っかられてる。



「だから鍛えろと言ったんだ」



 再び頭が沸騰した。


「っめェ―!!」



 膝を振り上げアイツの背中に膝を入れ―


 ―られない。あっさり受け止められた。



 諦めないぞ俺は。




 開いた左手でヤツの後頭部…正式には後頭部の髪を掴む。


 初めてコイツがハッとしたような顔をした。気分が良い。



 そして思い切り腹筋で起き上がり、


「ッらァ!!」




 頭突き。



 そればかりは予測できなかったらしく…と、言うよりは両手が塞がっていて回避出来なかったようで、見事に額に直撃した。



 ……平等に俺も痛いんだけどね。



 だけどこの際コイツにダメージを与えられれば何でも良い。例え―



「ッつあ―っぐ…」


「っ…! …貴様…頭突きとは馬鹿か。どこなら痛くないかも知らぬくせに」



 …俺のダメージの方がでかかったとしても。




「―ふ、弱い割に私に挑むからだ愚か者」


 負けない。負けないぞ。


 そうだ、これをひっくり返し―


「ストーップ!!!」



「うひっ!?」




 悠二さんだった。


 一瞬怯んだ俺をヤツは再びベットに押し付ける。



「ぎゃっ!」


「…全く、その無謀さは直した方が良い。命が足りんぞ」


「…ふざけんな…!!ってか…離せ…!!」



「ストップ!! 聞こえてんのかこの野郎!」



「でっ!!」


「…!」



 各自一発ずつ殴られた。




「…何だよ、お前らずっとそんな調子なのか?」



 …返す言葉が無かった。




「…桜助。そんなんじゃ、そりゃあ拓夜も怒るよ…」



 は?何で?って顔でヤツが悠二さんを見上げる。



「お前挑発しかしてねぇぜ。拓夜も十分ケンカっ早いけど」



 今度は俺が見上げる番だった。





「…ほんと反り合わねーなー…お前ら…」




 呆れたように溜め息をつかれる。



 …それってさぁ…。

 それって、合わないって事でしょ…。




 再び俺はヤツ…桜助を見上げる。


 桜助は俯いて何やら考え込んでいた。







 ―あれ、この体勢って…





 クールダウンした俺は、今更な状況にやっと気付く。



 ……この体勢って、…うわ…これってこれって…。




 こここ…こ、これは…




「…む?何を赤くなっているのだ」


「は…、は、離せよ…」



 目を丸くする桜助。誰の所為だと思ってんだよ白々しい。




「………お前」



 神妙な声で呼ばれて、直視出来ないながらも横目で顔を見上げた。




「…いやらしい奴だな」


「うるせェ!! 誰の所為だ!!!!」



 も…何なんだコイツ。


「…いいから退けよ!! つかこの手を離せッ!!」


 暴れてみるが何気に力が強く、びくともしない。


「嫌だ」


「はぁ!?」


「手を離したらまた私に襲いかかってくるだろうが。」



 …うわー。確かにぶん殴ってやろうと思ってたけど。



「それとも、私を一発殴ればお前は気が済むのか? ならば構わないが」


 いや、それ以前に退こうよそこを。


 この体勢じゃあその台詞だってただの被虐趣味者ですよ。





 ……しかし、退いてくれてなおかつ通常なら無理臭い一発を許してくれるなら―…結構良い話じゃね?



「……わーったよ。一発で済ますからとりあえずそこを退け」



「―そうか。なら退いてやろう」




「……ちょ、待てよ桜助。それ本気で言ってんのかよ?」



 悠二さんが心配そうに止めに入る。


 …そーだよな、そんな上手く行くわけ無いって。



「―それで納得するならそれ位訳ない。こいつに後々まで騒がれるのも面倒だ」



 あれ?…ウソ。


 ………コイツ、以外にバカなんじゃねぇの?


 あれ、チョロいぞ?


 ウソウソ、ほんとに?



 桜助はすんなり跨っていた俺の上から退いて、変わりにベットの上に腰掛ける。



 自由になった体を起こし、飛び上がりそうに嬉しいのを堪えながら冷静を装う。




「身構えんじゃねぇぞ」


「私はそんなにみみっちい男ではない」



 格好を付けているのかはたまた本物の天然なのか、静かに目を閉じて言う。


 俺は、大きく深呼吸して、




 ―げはははは!!


 油断したな勇者よ!!


 この時を待っていたぜ!!



 この時とばかりに、俺は桜助の鳩尾を思いっ切り殴り上げた。



「…は…!?―っぐ、ぁ…ッ!!」




 …あ、あれ?


 …うそ…マジで…?




 コイツの事だからメチャメチャ腹筋固めてると思ったのに。


 …すごく…完全に入っちった…。




 やば…どうしよう…。




 ぐらりと倒れかかった上体。


 ―と、突然腕が伸び俺の肩を掴む。



 ……も、持ち堪えた…。




「…き…様…!!」


 呻くような声が絞り出される。


 それは、俺にとって冗談なんかじゃない声。



「誰…っが…!! 急、所を…狙っ、ても…良いと言った…!」




 すげー、喋れてる。…とか思う余裕なんか無くて、



 桜助の苦痛の中から滲み出る激怒の感情が、俺のいつだかの意味不明な心理を呼び起こす。





 ―それは、底知れない―恐怖。



「…ご、ごめ…なさい」




 口が勝手に言っていた。



 それ位、…理由もわからずに怖かったのだ。



 思わず手を引き、後退りをしていた。



「…貴様!!」


「―…っごめんなさぃ」


 語尾が弱くなってしまう。


 そうだ、これはコイツと初めて会話したとき起きた。



 命令に逆らったとき。



 ―無条件に、理性とか理論とかそんな表面的な事を超越しての恐怖。




 あの時は直ぐに冷静になれた。



 ―でも、今は―



 現在進行形で発される怒りが怖くて、まるで―


 ―奴隷の主人に対する恐怖の様な―




 これは、怯え―?





「―この!」



 両足で挟むように捕まえられ、ベットに引き戻され再び倒される。




 さっきの様に両手首を捕まれて。




「ひっ―」


 引き攣った様な声がでた。



 …怖い、怖い…止めて…。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 …許してください。



「お前な―」


「―桜助!!」



 誰かがぴしゃりと言った。



「止めろよお前!」



 そう言いながらこの人を引き剥がす。



「……そう本気では無いのだが」


「知ってるよ。別に怖くもないし。……でもちょっとマジだっただろ」



 恐る恐る身を起こす。

 恐怖は少しずつ遠のいていき、変わりには疑問符が残る。



「では何故―」


「なぜ? 分かんなかったのかよ。今カンペキ怯えてただろうが」



 まだ指が小刻みに震えている。それを強く握り締め、そんな原因を考える。




「わかってんのか? お前ぐらいすごい奴になると暗示の効果も半端じゃないんだからな」




 ―アンジ?


 何となく聞こえた単語の意味。



 …アンジって…あの暗示?




「……お前はもう少し自覚を持て。もうヴァンパイアの階段なんか登り詰めてるんだから。お前は俺達とは違うんだし」



 …暗示の効果?


 …??



「頭冷やせ馬鹿野郎」




 そう言って悠二さんが桜助をベットに突き飛ばした。



 溜め息をつきながらこっちへ来る。



「…お前、拓夜」



「…なんすか」



 手を引っ張られ立たされた。








「…お前、何も知らされてないんじゃないのか?」



 …何の話だろう。


 基本的に何も知らないから何の事だかわからない。




「ったく、とんだご主人様だな。厄介で自覚も無ぇ」



「悠二、私は―、っ!」


「お前は黙ってろ」




 悠二さんは桜助の顔をベットに押し付け、黙らせた。


 …すげー手練れてる。



「本当は主人に教わるのがベストなんだけど…この調子じゃ無理そうだからな」



「…ちょ、ちょっと待て!! 悠二―」


「あ? 俺が待ったらお前はどうするって?」



 珍しく焦ったようなヤツの声。


「大丈夫だ! 私が一から十まで―」


「―教えてなかったからこうなってんだろ」




 …友達って本当なんだ…。



「なぁ、桜助。何でなんにも教えなかったんだよ。お前の『師匠』はそうだったか?」


「……違った」



 話が読めない。


 そんなに重大な事か?教えるって―何のことだ。




「…もういい。しょうがねぇ、このへっぽこご主人サマの変わりに俺が基礎知識ぐらいは教えてやるよ。こんなの見てらんねぇ」



 …もしかして同情されてる?




「―待て。…待て、悠二」



 桜助が悠二さんを止めた。



「私が言う。…もう分かった」


「―本当に?」






「……分かってはいたんだ。いつか言わねばならないと」



 それを聞いて納得したのか、悠二さんが身を引いた。



 ベットにうつ伏せに倒れていた桜助が起き上がる。





 その目はいつもの百倍くらい真剣で、



 ―綺麗だった




 何でだろう、緊張する。


 ふと突っ込んだポケット。指先に硬い物が当たる。



 それはこいつの懐中時計だ。

 …持ってきちゃった。

 …渡すタイミング完全に逃した。



 綺麗な唇に魅入られたように凝視する。


 何故か、その唇が開かれるのが―



 ―少し、怖くもあったから。












〔名前〕

藤堂直夜

〔性格〕

頭が良く素直 強引

〔髪色〕

淡茶

〔瞳色〕

濃茶

〔趣味〕

ノーマル?

〔種類〕

人間

〔国籍〕

日本

〔武器〕

空欄

〔戦闘力〕

兄と五分程度(自称)

〔主人〕

空欄

〔愚属〕

空欄

〔得意〕

柔道

〔所属〕

藤堂家次男

〔身体的特徴〕

取り立てて無し






 …特に需要は無いプロフィールでした。






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