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思考ループ





 夢を見た。


 抜け出せない息苦しさの中、何を求めるでもなく


 ただ足掻いてはその手足を絡め取られる。


 其れの果てなど想像もできなくて。




 抱えている物を捨てれば楽になる


 そんな事は分かっていた。



 それでも抱え込んだそれを捨てきれない。




 そして沈んでいく。



 …そんな夢。




 首まで沈んで泥沼にはまって


 もう無理だって。



 ありったけ叫んだとき




「っぶはッ!?」




 …目が覚めた。





「は……、あ…息…」



 あんなに苦しかった呼吸は正常に戻って、無意識に空気を貪っている。



 汗だくのデコを抱えた。



「…らしくねぇ…暗ぇ夢」



 案外それも俺の頭ンなか通りなのかも。


 正直すぎる自分に嫌気がさした。




 片手の中に硬くて重い物。


「…ん?」




 見ると、古暈けた時計で、


 英語綴りで、OSUKE。




「……そういえば寝ちまったんだったな」




 何かこんな寝方してる自分がオトメンみたいで、すんごく最悪。



 時間が気になる。


 丁度良かったんで懐中時計を開く。壊しやしないかとビクビクする。


 あ、開いた。



「…あ〜っと、3時」





 …3時だと?


 それって夜中の?それとも昼間の?



 俺の腕時計もアナログだから判別がつかない。



 寝ちまったのが夜だったから…


 多分、昼間。




「…寝てばっか」



 学校でもそうだったけど。


 ここまで寝まくってると寝坊助とか言う次元じゃ無ぇよな。


 笑えねぇよこの冗談。



「ウケる〜…」



 呟いてはみたが誰かが応える筈なんて無い。





 …なんか…寂しい。






「…アイツ…どこ行っちゃったんだろ…」



 目覚めたら居ると思ってた。


 それはそれは確信じみて。




 …そんなの、自惚れだ


「…帰ってくるよな」



 確信は嘘みたいに揺らいでくる。



 もう既に、帰って来ないかもなんて嫌な想像が膨らみ始めてて。




 時計を無意識に握りしめた。





 帰って来ないのは今が昼間だからだ。



 日が暮れたら来てくれる。



「…嫌いだからな、一応」


 一応ね。







 やる事も無い俺は、何も考えず真上の天井を見ていた。







 コンビニでのアイツの言葉が蘇った。




 …身体能力…か。




 そんなもん上がんのかな?


 つか…何か気づいたけど、本格的に吸血鬼な奴らって色素が薄い気がする。




 日光に当たんないから?

 モグラみたいなモンなのかな。





 …しかも身体能力のアップに、人間の血も薄れていくって…



 一世代にして進化と退化してないか…?





 ……何でそんなダーウィンをハブったような生き方を…。


 頑張って考えたのに。進化論。




 …っにしてもこの時計古りぃよな…


 何でも鑑定団とかに出したら高値が付きそうな…


 いつ頃のだろー…。





「…あ~ぁ」




 …俺も変わっちゃうのかな



 それは…いやだな…。




「………言っても…俺一人じゃあどーにも」



 出来ないんですよ。





 どっちみちアイツが帰って来なきゃ…










「……ん?」



 がばっ、と身を起こした。


「―…足音だ」




 頭を掠めるのはアイツのことで―


 嬉しいんだか嫌なんだか、複雑な気持ちになる。


 …もしアイツだったら…



 ……どうしようか。




 急いで時計を投げ捨てた。



 何をするでもなくて立ち上がってアセアセしてしまっている。


 分かり易い俺に大嫌い。





 ギギ…って、蝶番が軋んで、




 今度は焦ってベットに腰掛けた。




 一体何がしたいのかも分からない。




「…あのぅ―」


「テメェ!今更どのツラ下げて―!!…って、え?」

「ひゃあっ!!」



 咄嗟に怒鳴り返してから、相手がアイツでない事を知る。



「…わ…!!わわわ…!! 起きてた!! どうしよう―」


「…は…? 誰だ?お前」


「ごご…!ごめんなさいぃっ!!」



 そこにいたのは、背の小さい短髪の少年。



 …少年?


 同い年かな…?



「お…起きてるとは思わなくて…!」


「…いやいや、寝てたら入っても良いってのかよ」



 ついツッこんだ。



「…そ、そう言う訳じゃないです。…そ、そうなんですよね、本当に…」

 …あれ、何だか本気マジ




「…何か…どうしたの、お前。ガッコーサボって真っ昼間の肝試し?」




 確かに地震になんかひとたまりもないビルだけど。


 悪かったね。

 人住んでて。




「…ち…!違います! ……学校には…行ってない、です…」



 …プータローですか?


 高校浪人?それともまだ中学生なのかな。




「……あの…僕、…悠二さんに、拓夜さんの様子を偵察に行けって…」



「……偵察?ってェと…」



 ユージって誰だろう。


 …あれ?これって結構由々しき事態って奴なんじゃないの?




 う〜ん…叱れない。



「あ…、言っちゃった…」


 わあぁ可愛い。

 

 …どうしよう叱れない。


「…なに、偵察? 何だってそんな事」


「…あ、の…。桜助さんが…」


「桜助!?」



 過剰反応している俺がいた。



「…あ…はい。…それで…あの…悠二さんに行ってこいって…」


「悠二って誰?」




 知らない人間がいっぱい登場しすぎて状況が読めない。


 ―それに、俺は少し苛立っていて、



「誰だよ、そいつ」


「あ…主様あるじさまです。僕の…」


 ―違う。



「そうじゃない。悠二って奴はアイツの何だ」


「…し、親友…だって言ってました」



 親友?


 ……友達の所で遊んでるわけ?アイツ


 ―俺のことはほったらかして?




「―で? お前に頼んだんだ、アイツが」


「ち、違います…、僕にお願いしたのは悠二さんです」



「『親友』だろ?」




 何だろう、コイツが悪い訳じゃないのに。


 どうしようもなく苛々する。




「…あのぅ…誤解してません…か?」



 はぁ?


 そう、最悪の態度で言ってから後悔した。



「桜助さんと悠二さんはそう言う関係じゃない…です、」



 何でそんな事言えんの?



「…その……」




 そう言って、そいつは顔を赤らめた。



「…ゆ…っ悠二さんが好きなのは…ぼ…僕、なので…」










 …うん?




 ああ〜、うんうんうん。










 ……なるほどね。









「……な…なので…、桜助さんと悠二さんが、う…浮気とかは…、ナイ、です…」



「あ〜…いや、うん。何か…ごめんね? 俺ちょっと勘違いしてたみたいで…」




 自分の笑顔が張りぼてなのが分かる。


 だってアレでしょ?


 …悠二って男でしょ?




 ……そう言うことなんでしょ。





「…っでも!」



 目の前の少年は勢い良く顔を上げた。



「桜助さんも拓夜さんが大好きですよ!!」



 …は?




「心配していました!何してるんだろうって。 居ても立っても居られないって言って、…僕が来たんです」





 ちょ…っと…。



 嘘、うそうそうそでしょ






 顔が熱くなっていくのが分かる。


 制御なんか出来ない。



 …馬鹿野郎


 収まれよ…俺―!!



 今赤くなったりなんかしたら…っ!!




「反則だ…」


「は…はい?」



「…ばかやろー…」




 どうしたらいい?


 上辺だけの罵倒しかできない。




「…っそんなに心配なら!!」




 俺は少年に向き直った。


「そんなに心配だっ言ぅんなら自分で来やがれってんだよ!!」


 明らかにこいつは困っている。



 …けど、無理。


「何で分かんねぇの!? 俺が本気で嫌ってるわけ無ぇじゃん!!」




 ……そうだったのかな。



 きっと、



 そうだったから、嘘くさかったんだろうな。





「―俺を連れていけ」





 気が付いたらそう言っていた。



「直接話してやる!」


「…つ、連れて行きますか…」


「ああ行ってやるよ!言って話してやるよ!!」




 …俺は後悔することになる。








 だって話す事なんて無いんだもん。






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