無成長―口癖
先週は大変申し訳ありませんでした…。
資格試験があったので…。
それに、今回は(も?)とんでもなくぐだぐだです(笑)
次回からは定期更新に努めたいと思います、まる。
まだ夜は明けない。
仕方無いので私はまた友人の元に居る。
予定は変更だ。
帰ったって結局追い返されるだろう。
そんなのは無視して素知らぬ顔でやり過ごせばよい話なのだが、気になる消化不良は早く処理してしまいたい。
全く…、何故私が私の家に帰る事を躊躇わねばならんのだ。
「…で?何でお前は悩んでるんデスかー?」
面倒くさそうに頬杖をついて話を伺う悠二だが、間違い無く私の所為なので文句は言えない。
「……拓夜が」
一言目に奴の名前なんて、惚気ているようですごく不快だ。
「―あいつが、急に不機嫌になるから」
私には理解できない。
あれこれ考えてみたが、やっぱり解らなかったのだ。
「……あのさ、一概には言えねえけど、たぶんそれおまえが悪いぞ」
「一概に言えないならそう簡単に原因を特定するな」
悠二のブロンズのピアスが照る。
「相談してんのはお前じゃ無ぇのかよ」
…それは、そうだが。
反論が出て来ずに黙ってしまった。
「お前は鈍感で人の気が分からない所があるからなぁ〜…」
その実感を掴めないところが鈍感なのだろうか。
「何か空気読めなかったとかさ、いけないこと言っちゃったとか、そういうのじゃ無ぇの?」
心当たりなんてないから訊いているのだ。
「分からない」
あ〜あ、と、悠二が呆れたように溜め息をついた。
「…ちゃんと考えた?」
「…自分を省みずに人に尋ねるほど私は愚かな人間ではない」
だよなぁなんて、もう一度溜息。
ざっと辺りを見回して、初めて気付いた。
「…お前の愚属はいないのか?」
「…え? …あぁ、優太?」
あの背の小さな華奢な少年。
引け腰で、気弱な性格だった事を覚えている。
「出掛けた。…どこにいるかは知らねぇ」
「……随分と自由なんだな」
「………はぁ?」
そんな怪訝な顔をされる意味が分からない。
「…お前、束縛し過ぎだろ」
「そんな事は無い。恐らくは」
「そうなんだよ。だから嫌われちゃうんだって」
―嫌い
…あいつは、私が嫌い
例え私がどんなに想っても。
届かない。
―届く気がしない。
好きだ。大好きなんだ。
だから何処にも行かないで欲しい。ずっと手元に居て欲しい。
私の知らない事が有ると不安になる。行動も思想もすべてを知っていたい。
だから、自由にさせるのは怖くて強わない。
それで私が嫌われるというのならば
―そんな分かり易い悪循環、どうして解消できないものか
「……ふ、」
自嘲して、笑った。
解消するのは容易い事だ。私が縛らなければ良い。
―そんな『簡単な事』が出来ないのは、私が根性無しだからだ。
結局は、私の所為か。
…滑稽だ。
……あぁ、なんだろうか。…もう、面倒臭い。
…考えるのが嫌になった。
私に自覚がないのなら、考えたとしてもそれはただの情報としての結果にしかならない。
実感と反省を伴わないならば、結果は意味を持たない物だ。
諦めた。
次にでも、原因が分かる時が来るだろう。
その時に究明すればいい。
「…そーだ、お前。その拓夜って愚属はさ、いつになったら顔見せてくれんの?」
「…は?」
思ってもみなかった問に、思わず間抜けな声が出た。
「は?じゃねぇよ。何その連れてくる気なんてさらさらありませんけど? …みたいな態度は」
もちろん更々ありませんでしたが。
「連れて来いよ。気になんじゃん」
「一体何故気になるんだ」
「……んな、理不尽な…」
その言い種は無ぇんじゃねえの?…と、悠二は整髪料でセットされた髪を掻いた。
言い種も何も、連れてくる気なんて端から無い。
受け答えは適当な言い訳だ。はぐらかせればいい。
…のだが、はぐらかせなかった様だ。
「いーから連れてこい。はい、決定」
「決定も何も私はもともと―…」
「聞こえない聞こえない聞こえなぁ〜い。おーすけ君? 往生際が悪いんじゃないの〜?」
…コイツ…。
殴り飛ばしてやろうか。
一発くらいなら構わない気がする。
「…っつぅのはアレなんだけど、とにかく連れてこいって。悪いようにはしねぇから」
「…何故そこまでして紹介を強請るんだ。…自分のことでもあるまいし」
悪戯小僧のように笑う。
「―おめーの愚属だぜ?てめぇのことなの。俺が気になるんだもん」
…それは
…それ…は……
………。
「待ってますよ〜、さぞかし心待ちにして。――まだ平和な内にね」
平和な内に―
―つまり今直ぐにでも…連れて来いと言うのか、…お前は。
「……拓―…彼奴は、友達を欲しているだろうか」
悠二がしたり顔でほくそ笑んだ気がした。
「―そりゃー、お前にだって俺っていう友達が居る訳だし?…寂しいんじゃねぇの?」
彼奴がそんな珠だろうか。
「家族や学校とも縁切ったんだろ?だったらよけーにそうだよ」
…あぁ、そうだ。
家族からは引き離した。
私には親も兄弟も居ないので想像に頼るより他に無いが―
家族と引き離されるという事はとても辛い事なのだろう。
―想像の域を脱せはしないが。
そんな事が薄ぼんやり判るだけ。
「……ここでなんやかんや言っていても何も変わらないだろう。……そうだな?」
さぁねー、と、とぼけた態度。
懐中時計を忘れた。
どうにも急を要する時には、ああいった小物を忘れっぽくて仕様がない。
…―まぁ、時計など見るまでも無く、夜なんて明けているだろう。
…もう火傷は御免だ。
「…明日まで此処にいる。気は進まないがな」
「うっわ!桜助が!? …どうした、腐ったモンでも食ったか?」
「…私は正常だ。腐敗した食物などに手を出すほど餓えても居ない」
「こないだハラペコだったじゃん」
「………」
こいつが言うことは的を射ていて腹が立つ。
―とにかく、決定事項だ。
正直すごく嫌なのだが仕方あるまい。
「…で、泊まるのは良いとして、ハラペコ桜助君はいつ帰るの?」
本当に殴りたい。
「日が沈むなら今すぐにでも」
「太陽は敵だからなぁ」
悠二くらいになると既に太陽には弱いらしい。
死にはしないが、後で大変なことになるのは目に見えている。
「帰ったらまた喧嘩すんじゃ無ェの?」
「…ここに連れて行くということを伝えるが」
友人関係を許可するのだ。
…感謝して欲しい。
「………知らねーぞ、俺ァ…」
「?」
悠二は目を逸らして呟いた。
「…そういうのがダメなんだよ」
何の事か判らないが。
「まぁ…、…分かったから。気の済むまで泊まってけ。」
お前なら何でもいーや、と、悠二が椅子に仰け反った。
…全く。
何故私がこんな苦労を。
……駄目だ、彼奴と一緒になってから『何故私が』が口癖に成っている気がする。
彼奴が居ると調子が狂ってしまう。
自分で手元に置いておきながら…本当に、自分勝手。
今頃何をしているだろうか。
何をしていても良い。…そのくらいの自由は渡してやろう。
…だから、どこか私の知らない所に消えたりしないでくれ。
我が侭な私の見えない所にだけは行かないでくれ。
…この手元から、
―逃げないで。
狂った独占欲を満たさせて
間違いは分かっている
だけれど
それ以外に答えが見付からない
―目的も無く生きるだけ生きて
気が付いたらこんなにも時間が経っていた
私は変われていない
昔のままだ
もしかしたらお前よりも幼いかもしれない
―こんな形でそんな事を言うのは可笑しいか
そんなにも私は変わってしまったのだ
―外見だけが
お前もそうなる運命だと知ったら―
お前は自分の境遇に悲観するか?
耐えられるか?
自分を残して何もかもが朽ちて変わっていく事に
…だから言えない
言わない
いつか、
そんな全てにお前が気付く時が来るまでは。