表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義執行  作者: 凡人
5/14

やさしいひと

 町を走る警察車両のサイレンは、その音だけで街の空気を変えてしまう。まるで、その日だけ気温が違うかのように。藤崎蒼一は取材の帰り、車のラジオから流れる速報に耳を傾けていた。


「白岡第三小学校近くの住宅地で、第三の遺体が発見されました。捜査関係者によると……」


 また、事件が起きた。三件目。それはもはや偶然ではなかった。


     ※


 現場は旧市街の空き家だった。築四十年は経っている古い平屋で、窓ガラスは曇り、屋根の一部にはブルーシートがかけられていた。中に入った刑事が吐いた言葉が、報道関係者にささやかれていた。


 ──今度は、「書かれていなかった」。


 第一と第二の事件では、それぞれ被害者の近くにメッセージや意図的な演出が残されていた。だが、今回はなかった。ただ、被害者の体だけがそこにあった。しかも、布団にくるまれていたという。


「まるで、誰かに“やさしく”殺されたみたいだった」


 そんな噂が、現場にいた記者たちの間で広がっていた。


 藤崎は近くの交番で以前世話になった若い警官に顔を出し、無理やり情報を引き出した。


「今回の被害者……なんか、知ってる名前だった」


「知ってる?」


「ああ。数年前、ネットで大きな騒ぎになったやつ。ネットの書き込みで相手を自殺まで追い込んだ男子高校生。だけど、告訴は取り下げられて不起訴だったとか」


「……なるほど。今回も“裁かれなかった罪”か」


 その言葉に、警官は一瞬、目を伏せた。


 藤崎はしばらく何も言わなかった。


     ※


 その夜、藤崎は久々に美優の寝顔を長く見つめていた。電気スタンドの薄明かりの中で、彼女のまつ毛は小さく震えている。


 もしも、自分の正義が間違っていたら──

 自分がまた、誰かを傷つけてしまっていたら──


 その問いが、心のどこかで膨らみ続けていた。


 寝室を出て、リビングに戻ると、玄関のポストに何かが入っていた。封筒。それも、名前も住所も書かれていない真っ白なものだった。


 中には一枚の紙と、写真。


 紙にはただ一言、手書きでこう記されていた。


「この街の“正義”は、どこにあるのか」


 そして写真には──公園でブランコに乗る美優の後ろ姿が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ