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短編

新説:白雪姫

作者: 流あきら

「白雪パンチ!」


 魔王は私の拳の一撃で倒れ、二度と起き上がらなかった。


「おお、白雪様」

「さすがは女王陛下」


 ほめたたえる家臣たちの声。

 だが私の心は晴れなかった。


 魔王を一撃で倒すなど、今となっては造作もない。

 だが本当にこれが自分の望んだことだったのだろうか?

 

「さぁ、魔王は倒されたわ。帰りましょう」


 それからの私は女王として、国のために一生懸命働いた。

 水路を整備し、新しい農法や作物を普及させた。

 病院や学校を作り、識字率を向上させた。

 国はどんどん豊かになった。


 臣下も国民も、建国以来の名君であると、こぞって私をほめたたえた。

 素晴らしい理想の人生なのだろう。


 結局私は結婚せず、甥を養子にむかえて後継者とした。

 だが私も不死ではない。

 ある日病に倒れた。


「大臣たちの言う事をよく聞いて、民の事をまず第一に考えてね」

 

 甥は涙を流してうなずいていた。

 

 これでいい。

 これこそが運命に流されず、己の力でつかみ取った白雪姫の人生だ。

 だが心の奥にある、この思いは何なのだろう。

 そこで私の意識は途切れた。



 ふと気づくと何もない空間にいた。

 七つの光が見える。


「そなたに三度の生を与えると約束したな。こちらの不手際ゆえ。今度の生はどうだったかな?」

「ありがとうございます、神様」


 そう。

 私は日本からの転生者だった。

 神の摂理の不具合により、三度の生を与えると約束され、白雪姫として生まれ変わった。

 

 私は童話の世界に不満を抱いていた。 

 ただ運命に流され、王子様を待つだけの白雪姫に。


 そして私は白雪姫として転生したのだ。

 雪のように白い肌、血のように赤い頬、黒檀のように黒い髪を持つ少女へと。


 私の美貌を妬んだ継母が、森の奥へと私を追放した。

 私の部下となったのは、神の眷属たる七人の小人だった。

 私はひたすら己を鍛え上げ、神から与えられた力を磨き上げた。


 継母が差し向けた暗殺者の魔法の紐も、毒のついた櫛も、私の体を傷つける事はできなかった。

 愚かな事に継母は、毒のリンゴを私に食べさせようとした。

 

 私は陰謀の証拠をそろえ、父王に訴え出た。

 私の行う神の奇跡に、父も臣下たちもひれ伏した。

 継母は処刑され、私は女王に即位した。

 そして継母に余計な事を吹き込んだ鏡を破壊し、背後であやつっていた魔王を倒した。


「私はひたすら良い女王になるため努力してきました。白雪パンチは海を割り、白雪キックは山を砕きます。ですが私の心に残るのは、例えようもない虚しさだけなのです」

「ふむ。それはそなたが己の真の望みをかなえておらぬからかもしれぬ」


「私の……真の望み……?」

「そなたが女王として行った事はすばらしい。だがそれは結局、他人が成功だと思う価値観に沿って生きておるに過ぎぬかもしれん」


「なるほど」


 私は自分の心を見つめ直す。

 私の真の望み、真の願いとはなんなのだろう。

 それを探り当てるのは難しい。

 いつの間にか周囲からの考えや価値観に影響されてしまうのは仕方ないことだ。


 だがやはり、私は白雪姫の世界で生きたい。

 白雪姫として生きたかった。


「神様。私はもう一度やり直したい。もう一度白雪姫として生きたいのです」

「ではちょうどよい。ここに二人の女がおる。どちらも白雪姫の世界に転生を希望しておる」


 一人の女性が言った。


「私は白雪姫の継母になりたいのです。彼女の破滅の運命を変えたい」


 もう一人の女性が言った。


「私はメルヘンの世界で、子育てしながらのんびり生きたいですね。白雪姫の王子様の母親とかなら」


「どうじゃ。よければ彼女たちともう一度白雪として生まれ変わるか?」

「はい。彼女たちともう一度白雪姫の世界に転生したいです」


 そして私は白雪姫の世界へと再び転生した。

 物心つき、転生の記憶を思い出す頃には実母は亡くなっていた。


 雪のように白い肌、血のように赤い頬、黒檀のように黒い髪。

 まさしく私は童話の白雪姫だった。

 

 だが義母が私に意地悪をすることもなければ辛く当たることもなかった。

 私と彼女はいつも一緒だった。

 彼女は私に本を読み聞かせ、一緒に遊び、私の髪をすき、可愛いとほめてくれた。


「おまえは白雪に甘すぎる」


 そう父王が義母に苦言を呈するほどだった。


 しかし少しは白雪姫の童話っぽい事をしなければならないのではなかろうか。

 例えば、「この国で一番美しいのは誰なの?」と鏡にむかって聞くような。


「そんな事を聞かなくても、うちの娘は世界一美しいわ」


 義母は艶やかに笑う。


 そして時はたち、私は十歳になった。

 そんなある日、隣国から王子が留学してくる。

 歳は私と同じだった。


 優しく穏やかで、良い顔立ちをしている。

 だがまだひ弱で線が細い。


 傍らには金髪の女性がいた。

 王子の母親だという。

 もちろんそれが誰だかは、私と義母にはすぐにわかった。


「お久しぶり」

「あれ以来ですね」


 私たちはよもやま話に花を咲かせた。

 ふと王子の母が眉を曇らせながら言う。


「うちの子は優しい子なんですけど、どうも今一つ頼りなくてねぇ。中々子育ても難しいですわ」

 

(これは鍛えがいがありそうね)


 私は王子を見つめる。

 ただ優しいだけの王子を、強さと決断力をそなえた男に育て上げるのは、三人の女の力を合わせたとしても苦労するかもしれない

 

 だがそのような苦労なら、望むところだ。

 私の身体は充実感に満たされていた。


「では私が白雪に毒リンゴを与えて眠ってしまったという体で」

「そこでうちの息子が、白雪さんを救うために国を旅立つわけですね」

「お願いしますわ、お二方」


 いずれ彼は成長し、私に会いに来るだろう。

 白雪姫は王子様に救われて結婚し、いつまでも幸せに暮らすべきなのだから。

読んでいただき、ありがとうございます。

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