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薬草畑

 薬草畑は、治療院から山に向かって歩いて体感15分ほどの川沿いにある。

 1人で景色を楽しみながら路を歩く。自動車はないが、たまに貴族の馬車や、急ぎの馬を走らせる騎士がいる。

 舗装された道に慣れた足が砂利に躓きそうになるのにも要注意だ。今でこそ慣れたが、こちらに来た早々はよく転びそうになったものだった。

「院長〜モンデプス院長〜!」 

 畑で作業をする院長を見つけ、大きな声と両手を大きく振って、声を掛ける。

 手を止め、手のひらで日差しを遮った院長が洸哉に気づいた。

 この世界に来てから、季節や時間に違和感がない。気候は若干穏やかだが季節の変化があり、暦と時間は12で分けられている。

 ちょうど日差しの強い、7時頃だろう。以前でいうと14時だ。

「おー、洸哉。待ってたぞ」

 最後は小走りで院長に駆け寄った。

 田舎の親戚に会いに来た気分になる。

「セリラージに言われて来ました。どの種類を運びましょう」

「農作業で熱が籠る患者が増えそうだからな。体の熱を取るこれと、消化を助けるこれもそろそろ少なくなってただろう」

 院長に指示を受け、収穫した薬草を、持参した大カゴに詰めていく。

 カゴが一杯になった頃、ローデンが現れた。

「院長、王宮から使者が来てる。急ぎだそうだ。後はやっておくから先に院へ行って下さい」

 ローデンはモンデプスを呼び戻しに来たようだ。院長には若干の敬意が感じられるものの、言いたいことを言うのは性格なのだろう。

「通信切らないでっていつも言ってるだろ。忙しいのに呼びに来る手間がかかるんだから」

 ぶつぶつと文句も忘れない。

「そうか。じゃあ先に戻るとするか。コーヤ、これローデンと一緒に運んでおいて。頼んだぞ」

「わかりました。片付けもやっておくので、早く行ってください」

 農作業から離れたがらないモンデプスを送り出し、さっと片付けると俺はカゴを持ち上げようとする。だが持ち上がらない。ムム。

 採れたばかりで水分の多い薬草は、根の薬も含まれ重い。

 奮闘する俺を眺めていたローデンがため息をつく。

「貸せ」

 筋肉の違いか、ローデンはカゴを簡単に持ち上げるが、嵩張るので持ちにくそうだ。

「ローデンがそっち持ってくれたら、俺こっち側持つよ」

 買い物袋を2人で持つ要領で、カゴの両側をそれぞれ掴み、一緒に運ぶことで落ち着く。

 ローデンとカゴを挟み歩いているなんて珍しい状況だ。いつも避けられているから話しをすることもなかった。この機会に仲良くなりたい。

「ローデン、俺に合わせてゆっくり歩いてくれてるんだろ。悪いな」

「……脚の長さが違うからな」

 くっ。

「ローデンとは歳が近いって聞いてるけどいくつなんだっけ。ちなみに俺は27」

 ローデンの歩みのペースについて行くために、足元を気にしながら必死に歩いていたが、ローデンは余裕があるのか、チラッとこっちを見る。

「……25」

「えっ、そうなんだ」

 歳が近いことだけは知っていたが、まさか年下だったとは。

 見上げる背丈で身体全体に筋肉をまとい、落ち着いた雰囲気のローデンが年下とわかると、普段の態度も何だか可愛く見えてくるから不思議だ。

 治療師としてローデンが先輩なのは変わらないから、年上風を吹かせないようにしよう。

「ローデンは学院を出てすぐモンデプスの所に来たの?」

「……いや、俺は国立の医師養成院に2年行ってから来た」

 スゴイ。医師養成院に行くには、適性と貴族の推薦が必要だと聞いた。優秀な上に家格かコネもあるんだ。

「ローデンは優秀なんだね。じゃあ王宮や貴族専属の医師にもなれたんだろう?」

 突然ローデンが足を止めて、洸哉の顔を見て問う。

「お前は王や貴族相手の医師になりたいのか?」

 真剣なローデンの表情を見て、洸哉もよく考えてから答える。

「命は万人にあってどの命も大事だと思うから、今できる精一杯で人を助けたいと思ってるよ」

「……そうか」

 思案顔でそれだけ返事をするとローデンはまた歩き出す。

 少しだけ話しができて距離が縮まった気がしたが、その後はいつもの、少しぶっきらぼうな受け答えだけを返すローデンに戻って、治療院に着くとそれぞれの仕事に取り掛かった。

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