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 馬の背に揺られながら、まだ人の声がする宿の敷地から出ると、人の(まばら)な街中をゆっくりと抜ける。

 辺境伯の城から王宮へ向かった時を思い出すが、あの時とは違い、後ろで手綱を引くのはカルレイン王だ。

 馬を操り、人が歩くような速度で進ませているのは、散歩のつもりだからなのだろう。

 食後だからだけではない、汗ばむ体温に夜風が気持ちいい。

 街中でも宿屋や飲み屋の一画からだんだん離れ周囲にあった建物が草や木に変わると、急に静かになってきた。

「コーヤは馬に乗り慣れているのか?」

 静けさを破り、頭の後ろからと同時に、密着する背中から声が響いた。

「いいえ。辺境伯の城を出た時に初めて乗りました。今も緊張しています」

 頭だけうごかして返事をする。

「そうか。誰と乗ったのだ?」

 話しかけられるたびに、背中がくっついていることを伝わる振動によって思い知らされる。

「近衛兵のナージャです。彼は小柄なので馬に2人乗せても負担が少ないとの配慮だと聞きました」

 ナージャは、今どうしているのだろうか。馬の脚をも心配する彼のことだ。王様のことではさぞや心を痛めていることだろう。

「この馬は、俺と王様を乗せて大丈夫なんでしょうか。何なら俺降りて歩きますが」

「この馬は、騎士の乗る馬と違い、速くは走れないが、荷物を運ぶのに適した馬だ。速度も落としているし、私たち2人くらい平気だ」

 脇から、手綱を握り横から俺を支える腕に力が入ったのを感じる。

 そんなことある訳ないが、まるで俺が馬から降りようとするのを阻止しているかのようだった。

 密着しているからか、変なことを考えてしまう。

「それなら良かった」

 重い2人を乗せて頑張る馬の首に、手を伸ばして撫でてやる。これで王様との距離も確保できた。

「明日は、地方都市のムンダまで行く。先王の時代からの忠実な臣下であった、ハルスト侯爵が領地に戻り暮らしているはずだ」

「ハルスト侯爵様のことを信頼なさっているのですね」

「ああ。暫く会っていないが私が子供の頃は、よく父王と共に狩に出られ、夜は酒を酌み交わし政治論を戦わせたと聞いている。力になってくれるだろう」

 王様が頼りにしている方なのならば、安心だ。今夜も安宿だし、昨日は床だった。きっと眠れていないに違いない。明日はしっかり休んでもらいたかった。

 静けさの中、馬の足音だけが響いていた。

「月が綺麗だ」

 王様がポツリと呟いた。

 日本人の俺はドキリとする。

 王様は何の気なしに見たままを口に出しただけだろうが、返答がすぐに出てこない。

 慌てて月を見上げる。この世界の月は青白く光っていた。

「あぁ、本当ですね。本当に綺麗だ」

 何ともつまらない返ししかできなかった。

 もしこれが愛の告白なら、俺もですと言いたかった。でもこの位ならいいだろうか。

「王様と、今度は王宮でまた一緒に見たいです」

「そうだな」

 それきり黙ってしまった王様は、また馬を操り帰路に向かった。

 宿に到着するまでお互い無言だったが、馬の前にいた俺は、赤面を見られずに良かったと安堵していた。

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