干し薬草
治療院での仕事は忙しい。朝から患者が訪れるため、処置やら薬の調合やらをしながら、合間に薬草を育てている。薬草の管理も大事な仕事で、刈り取った薬草を分類して、洗ったり干したりの他にも、煮たり煎じたりの作業もある。
薬問屋からの仕入れだけで賄う治療院が殆どだが、モンデプス院長の方針で、この治療院では、希少な薬材を僅かだけ仕入れる程度だ。
その分、治療代が安く、街の民が治療を受けやすい。
今日も助手の力も借りながら、手の空いている治療師で、干した薬草の収納をしていた。
「暗くなってきたな。コーヤ、もうそろそろ終わろうか」
治療師の中ではモンデプス院長の次にベテランで、実質的にこの治療院を取り纏めているセリラージが言う。
「セリラージは皆と先に入っていて。これだけ仕舞ってから俺も入るから」
せっかく干した薬草だ。夜露に当てないよう治療院の裏にある倉庫に持って行くのに、あとは自分1人で充分だろう。
「じゃあ頼んだよ。道具は片付けておくな」
「よろしくお願いします」
セリラージはよく日に焼けた顔に、薬草作りの農作業で鍛えた筋肉が目立つ身体つきだ。
治療師のローブを着ずに、作業に適した庶民服だけを身につけている今は、眉尻に笑いジワが特徴の、朗らかな農家のお父さんにしか見えない。
暗くなる前に終わらそうと、残りの薬草を縛り終えると、洸哉は両肩にかつぐつもりで、束を勢いよく持ち上げた。
ところが持ち上げたはずの束が、いちまでも肩に落ちて来ないと思ったら、いつの間にか立っていたローデンが、自分の肩に束の1つを乗せて目の前にいる。
「さっさとしろよ。1つくらいなら自分で持てるだろ。早くしないと日が暮れちまうぞ」
ローデンはクルッと向きを変えると、肩に薬草を担いだまま倉庫の方に向かって歩き出した。
「ローデン、ローブが汚れちゃう。俺1人で持てるから、こっちの肩に乗せてくれる?」
慌てて残りの束を担ぐと、ローデンの背中に声をかけた。
「いいから、さっさとしろ」
ローデンは振り向きもせず、長い脚を動かし歩いて行ってしまった。
後ろから小走りでローデンを追いかけ、倉庫でやっと追いついた。
「結局、持ってきてもらっちゃったね、ありがとう」
既に倉庫の中に自分で持ってきた束を下ろしていたローデンは、洸哉の肩からももう1つの束を取り上げて山の上へ積み上げると、用は終わりとばかりに1人で戻って行ってしまう。
「あ、ありがとう。助かったよ」
倉庫に施錠をしなければならない洸哉は、ローデンの背中に向けてお礼を投げかけた。
何のリアクションもなく去るローデンを見つめ、何でだかやっぱり嫌われてるんだろうな、と寂しく思う洸哉だった。