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旅の前

「眠れませんか?」

「ああ。お前もか」

 記憶を失い、見知らぬ者と雑魚寝をすることになった。

 次期王として生まれ育ち、王となった我が身に起こるべくもないことが、今起きている。

 途方に暮れるか、すぐにでも王宮へ向かうべきなのだろうが、不思議と気持ちは()いでいた。

 隣にいるこの不思議な男。

 コーヤの笑い声を聞いた時、記憶のどこかが刺激された。何かはわからない。悪感情ではないのに、ザワザワとする。

 治療師の義務というだけでなく、私のことを心底心配し慕う気持ちが伝わってくる。だが嘘は言わないと言いながら、話していないことがあると本能で感じていた。

 信じても良いものか。

「もう寝ますね。明日また相談しましょう、おやすみなさい」

「ああ」 

 明日からは過酷な現実が待っているのだろう。パドウや配下の者が誰一人いないこの異常な状況が物語っていた。

 埋もれてしまった記憶の中に、今の私では知り得ない、大事なことが沢山あったはずだ。

 隣で目を瞑り休む男を眺めながら、(かす)かにでも呼び覚ませるものならと、記憶の糸口を探し続けた。


 翌朝は曇り空で、今にも雨が降りそうだった。

 昨夜というより今朝方に寝入った割には、昨日意識がない間に休めていたためか、目覚めは良い。

 朝食を摂りながら、これからのことを相談することになるが朝食とは。

「王様の口には合わないかもしれませんが」

 コーヤがそう言って出してくれた食事は、貰った差し入れのパンと、野菜が少しだけ入ったスープだった。質素で、決して足りる量ではなかったが、恐る恐る食べてみる。

 温かく美味かった。力が湧いてくるようだ。

 全員が食べ終えるのを待ち、私の考えを2人に伝えた。

「これからのことだが、当然私は王宮を目指すことになる。だが、昨日の話では、辺境伯や隣国の動向についても、ましてや味方のパドウと王宮の状況についても、今現在どうなっているかが全くわからない」

 真剣な目で私の話を聞くコーヤに向かって話しをしているが、自身にも言い聞かせていた。

「もしかしたら最悪、既に味方が、王宮さえ、辺境伯の手に落ちている可能性も考えねばならない」

 ヒュッとコーヤが息を飲むのがわかった。

「そんな……」

「万が一だ。それを考慮するなら、堂々と王として道中進むのは危険を呼び寄せることになるだろう。だから、コーヤとエリックとは、ここで別れようと考えている」

「……何故ですか?まだ俺達を信じられませんか?王様を1人でなんて行かせられません」

 コーヤの声は静かだが、悔しさと怒りを滲ませていた。

 エリックがオロオロとコーヤの顔色を伺っている。彼にも聞いたことのない声色だったのだろう。

「私はフォルトラの王位継承者として、どんなことになろうとも受けて立つ覚悟だ。

 だがお前達は私を守る騎士ではない。私が守るべき国民だ。命の危険がある中、同行する必要はない」

 キッパリと2人のために決別の意思を伝える。

「残念でした。王様は忘れているかもしれませんが、俺はフォルトラ国民じゃありません。日本という国から来た異世界人です。王様の言うことは聞けません」

 な?とでも言うように、エリックに同意を求めるコーヤの勢いに押されて、エリックもうんうんと頷いている。

 はぁ……。

 せっかく手放してやろうと思っていたのに。

「では、お前達も、私と一緒に王宮を目指すのだな?命の保証は出来ないぞ」

「はい。王様こそ、命さえあれば俺が助けますから命だけは大事に、無茶はなさらないでくださいね」

 先行きは不透明だったが、こんなにも心強く思えることはない。

 今まで、王としての責任と重圧で押し潰されそうになりながらも、国民と臣下を(まと)め上げるために国政を恣意、努力もしてきた。

 頼れる存在となるべく生きてきたが、頼ってもいいと言ってもらうことが、こんなに嬉しいことだとは。

 やはり不思議な男だ。一見凡庸な男に映るが、その実、意思の固そうな瞳で、私の気持ちを易々と変える力を持っている。

 コーヤの顔をまじまじと見つめると、何か思い出せそうで思い出せない、胸の騒めきがまた襲ってきそうになった。

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