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熱発

 数日、診療をしては、記録を確認、検討するという日が続いた。まだ原因究明には至っていない。

 そんなある日の朝食時、メイリーンの侍従が慌てた様子で治療団の部屋に飛び込んできた。

「失礼します。メイリーン様が、食事も摂られず伏せっておいでです。すぐに一緒に来て下さい」

 まだ若い侍従は、走ってきたスカートの裾を整えながら息を切らしている。

「わかりました。すぐ行きます。コーヤ、ダレス行くわよ」

 今朝の担当のマリアンとダレスと共に、記録用の冊子とペンを抱え、急いで侍従の後ろををついていく。


 居所を通り過ぎ、寝室に足を踏み入れる。

 いつもは、今通り過ぎた居室での診療だったから、この部屋に入るのは初めてだった。

 もちろん貴族の女性の寝室自体入ったことはなく、貴族以外の女性の部屋にもなかったが。

 普段からパステルカラーのドレスを好むメイリーンの寝室は、意外にも重厚な調度品に白を基調としたファブリックの、清潔感がある部屋だった。

 その、白いベッド周りの布の一部を手で開いた侍従長が、こちらへと目と手で合図を寄越す。

 マリアンと俺は、頷いて返し、ベッドに近づこうとしたが足が止まる。

 侍従長の他に、布の陰にもう1人居る。チラッと見えた着衣の袖には金の刺繍が煌めき、肩から下がる上質なマントが揺れていた。カルレイン王らしい。

 横からヒョイっと手が伸び、記録用具はダレスの手に渡る。ダレスはベッドサイドに入らず記録を取る体勢で、早く行けとばかりに俺を押す。この数日で何となくダレスの行動がわかるようになるのだから、この場では不謹慎だが面白い。

「私に構わず、診療を急げ」

 いつまでも近づかない俺達に、痺れを切らしたのだろう。小さなしかし鋭い声の催促がある。

 マリアンの方が現実に戻るのが早かった。

「メイリーン様、失礼致します。治療団のマリアンです。食欲がないのですって?他には何か症状はありますか?」

 閉じられていた長いまつ毛が震え、ゆっくりと開く。

「少し胸の辺りが苦しくて……コホコホ」

「そうですか。咳も出てますね。今朝から?」

 咳込みが辛そうだ。

「はい。昨夜は出ていませんでした」

 侍従長が代わりに答えた。

 小さい体を横向きにしたまま、咳込む姿は痛ましかった。早く良くしてあげたい。

「熱を測るので、お顔に触れても?」

 微かに頷くメイリーンにマリアンと位置を変わり、額に手のひらを当てて熱を見る。

「少し熱がありますね」

 本当は、少しどころじゃない高熱だ。だが、本人に伝えるとぐったりしてしまう人もいる。

 記録中のダレスにだけわかるように、額の手と反対の手の指で温度を知らせる。

「もう一度、失礼して、今度は治癒魔法をかけます」

 額の手の位置を少しだけ調整すると、目を瞑り神経を集中させる。モンデプスの教えどおりに、力を集めて優しく流し込んだ。

 本来、熱は身体が抵抗する証なので無闇に下げない方が良い。だが高熱は別だ。弱い人の体力を奪ってしまう。だから少しだけ下がるよう調節する。

 苦しそうだった呼吸音が、規則正しくなったのが確認できると、その場の全員がホッとする。

「今、少しだけ下げました。出来るだけ水分を取ってもらって、食べれるようならパンがゆや果物などを。後で薬もお持ちします」

 侍従長が感謝の意を込めた表情で見つめてくる。

「ありがとうございました」

 侍従長にはその場で頭を下げて見送られ、続きの間を通り終えるまでに、何人もの侍従にも頭を下げて見送られた。

 居室から廊下に出る寸前で、後ろから長い脚のカルレイン王が追いついてきた。

「治癒魔法の使い手とは聞いていたが、大したものだな。どうだ、メイリーンは」

「後で薬を調合して来ます。魔法でいっぺんに下げるより、原因がわかりませんので、メイリーン様の力を高めてくれる薬の方が良いかと思います。」

「そうか。原因究明も期待しているぞ」

「はい」

 陛下の周囲にはどこから現れたのか、側近や護衛が取り囲み、陛下を中心とした一団は颯爽と俺達より先に廊下へ出て行った。

 マリアンは、陛下の直々のお言葉に、何かを耐えるような顔をしたまま、無言で俺やダレスの肩をバシバシ叩いてくる。

 公務で忙しい中、妹想いの王様に感動するのは同意だが、叩くのはやめてくれ。普通に痛い。

 俺達の今できることをするために、ダレスと共にさっさと団室に急ぐ洸哉だった。

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