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散歩

「ローデン。君の見立てでは、どうだい?」

 ローデンは、マコーミックをチラッと見ただけで、首を竦めてみせる。

 口に食べ物が入っていて喋れなかったわけではなさそうだ。

「まだ、何もわからない」

「そうよね。あれだけの情報じゃね」

 医局での引き継ぎの後、治療師の面々は、食事をしに場所を移って来ていた。

 食事をとると言っても、王族の使用するダイニングとも、使用人や執政官の使う食堂とも違い、王族の健康という機密を扱う治療団のために用意された、医局に行く前に集まった一室だ。

 広い部屋は中で区切られ、今後はここで、治療方針を相談したり、薬の調合もできるように、火が使える設備まで整えられいる。

 王宮内に、個々の部屋の他に、与えられたこの部屋の広さや豪華さを見ても、治療団には破格の待遇が与えられていることがわかる。

 余りのプレッシャーに身が引き締まる思いを感じているのは、俺だけじゃないはずなのに。

「取り敢えず、パドウに会えたから頼みごとを伝えられたし、今日の仕事は終了かな」

 ローデンと同じ医療養成院出のネロだったが、だいぶタイプが違うようだ。

「明日はいよいよメイリーン様にお会いできるのね」

 ウットリと、推しに会う期待感を出すマリアンも不思議だ。初対面では頼れる姉御風だったのに。

「初日は全員でお目通りできても、次からは大人数というわけにはいかないだろうね。どう別れて診察するか決めとかないと」

「最初は治療院ごとでいいんじゃないか」

 ローデンは俺と組むより、他の治療師と組みたがると思っていたため、素直に嬉しかった。

「同じ治療院出身者で固まっていたら、治療団としてのメリットを活かせないんじゃないかしら」

 マリアンの意見に各々思案顔となる。それは確かにそうだと思った。

 情報を秘匿することはないだろうけど、治療院間の風通しは悪くなりそうだ。

「どんな頻度で診察させて貰えるのかも、明日パドウにお聞きしなくては」

 今後病状によっては当直も必要だし、出席可能なメンバーで朝夕食前の1日2回は進捗を確認し合うことが決まる。

 食事をしながらのディスカッションはその後、お茶の時間まで続き、明日も朝食前に会うことになったので今日はもう解散となった。

 それぞれの部屋も近く、何となく皆一緒に部屋に戻ろうと歩き出した一団から俺だけ距離を取る。

 王宮の料理は美味しかった。だが昨夜からの怒涛の1日と、いつもより重い食事に、腹ごなしの散歩がしたくなっていた。

 俺は、部屋まで寄り道をしながら帰ることにした。

 1人になると、凝った額縁の絵画が飾られた、派手な色の絨毯が敷かれた廊下をゆっくり歩く。

 慣れない景色に、映画のセットに迷い込んだ錯覚に陥るが、これが今の現実だ。

 前の世界でも休みの日には、たまに近所を散歩をした。もちろん屋外だが、散歩は頭の整理に最高だ。

 彼女でもいたら休日はデートってことになるんだろうけど、奥手の俺は学生時代の恋人と別れて以来、浮いた話はなかった。恋人をあまり必要としていなかったのかもしれない。

 会社員の友人とは休みが合わず、夜勤明けは寝ていたかったから、合コン参加率も悪かった。

 短い人生だったから、もっとしたい事をするべきだったのかもしれないが、好きな仕事につけて、そう人生悪くなかったよな、と考えていた。

 知らぬ間に、廊下の壁が片方だけ庭に面した開けた空間に出た。途中曲がった角で知らぬ路に迷い込んだようだ。引き換えそうと、クルッと方向転換をする。

 その時、庭の茂みから、急に出てきた男と目が合う。

 男も俺が振り向くとは思っていなかったのだろう。驚いた顔をしていた。

「うわぁっ」

 思わず叫びタタラを踏み、足がもつれた。

 危ない、転ぶ、と思ったのは一瞬で、手は空を掴み、衝撃を予感した俺はギュっと目を瞑る。

 しかし、身体のどこにも痛みは訪れず、気付いたら何故か、庭の茂みから出てきた男に包み込まれるように体を支えられていた。

「大丈夫か」

 先に冷静になった男が、耳元で尋ねた。

「あ、ありがとうございます……。おかげで助かりました」

 恥ずかしさと、思いがけず近くから聞こえる落ち着いた声に、赤くなっていくのが自分でもわかる。

「驚かしてすまなかった」

「いいえっ俺が勝手に転びそうになったんです」

 やけに動悸がし、テンパって言葉もままならなくなっている。おかしいな、心臓大丈夫か。

 距離を取ろうと男から一歩離れて見上げた。

 男は、上質な上に勲章や宝石まで付いた衣装に身を包み、とても身分のある人に見える。

 それだけでなく、金髪に青い瞳、整った顔立ちには何となく見覚えがあった。まさかな。

 感じる危険信号をあえて見て見ぬふりをした俺は、そそくさと姿勢を正し、必要もないのに衣服を払い皺を伸ばす。

 頭を深く下げて急ぎ足でその場を立ち去った。

 角を曲がるまでずっと背中に視線を感じたが、怖くて振り向けないでいた。

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