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されど神に感謝すべし(夏合宿編)  作者: 近衛モモ 
Someday My Prince will come
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扇兵衛のチャンネル


 石灯籠を横目に進み、目の前には大きく拓けた砂利敷の空間が出てくる。


 その奥に拝殿。歪んだ柱が支える先に、かろうじて賽銭箱と、麻縄を垂らした鈴が見えている。鳴らすと悲鳴を上げて落ちて来そうだ。


 狛犬は最初に出迎えた巨大な石像と違い通常サイズ。しかも、ここの狛犬は垂れ耳で可愛い。


「ここが神社の中心…、本殿だね。」


 チリーンと遠くから鈴の音。澄んだ響きだが、場にそぐわない。大福が何気なく振り返り、手元のリモコンでシャッターを切った。


「何か見えましたか。」


 カシャッとシャッター音に扇兵衛が気がつく。


「誰か後ろからついてくるのよ。」


 サラッと怖い発言の大福に、


「帰ってもらってください。」


 扇兵衛の無茶振り。


「まだ気配が遠くてよくわからないや。ここって、霊がいないわけではないんだけど…、きゃっ!


 …すごく全体的に静かだなって。ごめん、扇兵衛くん。」


 話の途中、砂利で綺麗に横滑りした大福さん。扇兵衛が手を取り支える。


 履いてるのは厚底の紐付きスニーカーだ。いざという時に逃げることより、おしゃれを優先しました。


 その点、扇兵衛は下駄履きなので、おしゃれより慣れた履物で実用性を優先している。


 このチャンネルの視聴者からは、『下駄彼氏』の名を与えられています。


「だから、今まで行った心霊スポットとかと違って、ガヤガヤ?ワヤワヤ?みたいな感じがしないんだよね。あそこに何かいるな〜って、たまに気が付くだけで、距離があるっていうか…。」


「霊が弱い…違うか。気配が弱いんか?」


「違うんだよね。なんて言えばいいのか…。」


 喋りながらも、視聴者を退屈させないようにと、大福はくるりと回って周囲の様子を撮す。


 建物のある位置から少し離れた雑木の中に、チラッと白い建物の屋根が見えているのはお手洗い。反対側、逆の方向には駐車場に続く小道があり、奉納石柱が並んでいる。


 その小道からさらに枝分かれした道の先には、大木があり、神官が精霊などを喚ぶ為の『招霊の木』とされている。


「霊にとっても人間にとっても、そんなに居心地のいい場所って感じじゃない。静かだけど、重たくて…。イライラした気持ちとか、狡猾な…偽り…?」


 自分で言葉を選びながらも、耳元で囁かれる誰かの小さな叫びに引っ張られたりもする。


 大福はまだ中学生なので、人より多くのものを感じ取ったり、見たり聞いたりするこの力を上手く使いこなしてはいない。


「今の上手くまとまって無かったね。ごめん…。」


 しょんぼり大福。


 自分の語彙力にもどかしさを感じています。


(狡猾な偽り…それに対する苛立ち…。近付いている気配がする。)


 そんな大福の前で扇兵衛は、自身の個人的な思惑に確信を強めていた。


 この心霊チャンネルは、全国の心霊スポットを検証するだけでなく、扇兵衛がある場所を探す為の旅であると言ってもいい。


 扇兵衛がその悲願を達する時に隣に立つ為に、大福もその旅に同行している。


「いや、でも十分伝わりました。言葉に出来るかじゃなくて、大福ちゃんのカンを信じてるから。もーちょい、進みましょう!」


 純黒の鳥居から、鬼灯に埋没した舞殿や手水舎を巡り、異様な空気を醸す拝殿へ。



 撮影は順調に進んでいるが、肝心なこの廃神社の正体は、何一つ掴めていない。



 と、ゆう訳で。



 噂の全容を確かめる為に、二人はこの廃神社の敷地の更に奥を目指します。


「進む…? まだ先に…?」


 大福ちゃんが眉間にシワッと皺を。


「実はここ、奥に崖下まで下りれる道があって、海に出られる。らしい!」


「あーっ! へぇ〜、行きたい!」


 皺を寄せたけど、すぐに笑顔に戻る大福。やっぱり女の子は廃神社より海よね。


「今いる場所って、海に面してる崖の上やん。で、丁度この崖の下に洞窟があるらしくて、」


「おぉ~新情報〜。」


「そこにも御神体が放置されているという噂なので、それを! 見に行きます!」


「見に行くんだ。」


「見に行く。」


 冷やかしで見に行くチャンネルです。


「でも何で崖下の洞窟に御神体があるんだろう? それって、洞窟も含めて全部この神社の敷地っていうか…所有地ってことなの?かな?」


「そう。そして、そこが所謂、霊能力の修行の場みたいなところだったのではないかと。」


「祈祷とかするとこかなぁ?」


 色々な噂がある場所なので、はっきりと用途が特定出来ない謎のスペースが多々ある現場。


 心霊検証特化の『廻向チャンネル』が、もちろん現場に検証しに行く。扇兵衛の袖の中に入れていた懐中時計で、時刻は深夜一時を回ったところ。


 怪奇現象をカメラに収めるのに、いい感じの頃合いになってきた。


「まぁ、いっか。行けばわかるよね。だいふくちゃん、頑張ります。」


「よし、ほんなら張り切って行ってみましょう!」


 先程、お手洗いの建物が見えていた雑木の方へ進む二人。


 よく見ると砂利の道が細く続いている。方向的には少し進んで、途中うねるように道が曲がり、来た道の方向へ引き返していく。


 しかし、通って来た道と合流する事無く、道はそこから西へと逸れていく。


「迷いそう…。これ、迷わすように作ってない?」


 そもそもの道の成り立ちまで疑う気持ちが湧いてくる大福。場所が場所なので疑心暗鬼に。


「人払いの目的とか…うーん、あるかもな。」


 扇兵衛の読みは正しい。砂利道は凹凸が多く、整備が行き届いていない。横から飛び出ている枝等もあり、進むのがやや困難だ。


 あと、羽虫。たまにカメラを横切って行く。誰かが「気をつけて」と声をかけてくる。若い女性。


「あっ。はい! 気をつけます。ありがとう…。」

「アカン。誰かと喋ってるわ。」


 大福はたまに知らん人と喋ってます。


 やがて周囲の木々が途切れて視界が開けると、急に足下が剥き出しの岩場になる。


『廻向チャンネル』、崖っぷちに到着する。





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