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第六話 さるものおう

 「掛けまくも畏き聖の大神、高天原に神留り坐す天照大神、お嬢ちゃんの仕へ奉ること許されあらなむば、第参刻のもと、祓えたまへ、清めたまへ、神ながら守りたまひ、幸えたまへと白す事を聞こし食せと恐み恐みも白す」


 虎がそう言うと、一陣の追い風が恵の服をなびかせ、その後、体がぽかぽかと温かくなるような感覚に陥りました。

 

 「ありがとうございました、虎の門番さん」

 「おう、まあお嬢ちゃん悪い奴や無さそうやしな。 ところでわしで何回目なん? 猿はまだけ?」

 「ええっと……蛇さん、うさちゃん、牛さんだから……4回目ですね。 お猿さんにはまだ会ってませんね」

 「そうか、猿は注意しといたほうがええで」

 「そのお猿さんって、どんな人なんですか?」

 「おう、そこでお嬢ちゃんの財布を物色しとるやつや」

 

 恵が振り向くと、そこではニホンザルが恵の財布からお金を抜き取ろうとしていました。


 「チッ、3文銭しか入ってねーじゃん。 こいつ本当に徳積んだのかよ……」

 「えっ、……あっ、財布無くなってる!!」

 「おい猿、お前この前もわしのおやつ盗ったやろ。 返せ」

 「うおっやべ。 捕まってたまるか! 油断してる方が悪いんだぜーっ!」

 「あ、待たんかいコラーーーっ!」

 

 そう言い捨て、猿は神社の方へすたこらと逃げていきました。それに続いて、虎は猿を追いかけ出しました。


 「えっ、あっ、まってーっ、私の財布も返してーーっ!」


◇ ◇ ◇


 「まってーーっ!!」

 「待てやーーっ!!」

 「うおい、早いなこいつら……。 これでも食らえぃ!」

 

 すると猿は、二人に砂を投げつけてきました。


 「わーっ、目に入ったー!」

 「じゃかしいーーっ!」


 虎は砂を全て吹き飛ばしました。しかしすでにそこに猿はいませんでした。


 「気ぃ付けや。 あいつ何でもかんでも投げつけてきおるし。 この前はパイナップルとか投げられたからな」

 「はいぃ……」


◇ ◇ ◇


 「くぉらーー、おやつ返さんかーーい!!」

 「んなもん、とっくに食っちまったよーっ!」

 「ほなその金で弁償しろーー!!」

 「落ち着いてーーっ、あれは私の財布ですーーーっ!!」


 すると猿は、二人に沢山の石と、ほうきと、キウイと、こんにゃくと、蛇を投げつけてきました。


 「なんか色々飛んできたーーっ!?」

 「な、なんじゃーーっ!?」

 「なんかもう、見境なくなってきとるな……」


 虎は石を全て弾き返し、恵は右手でほうきを、左手で蛇をキャッチし、蛇はキウイとこんにゃくを丸呑みにしました。しかしその隙にまたしても猿には逃げられてしまいました。


 「うう……あいつ、わたしのこと思いっきり投げつけやがって……次あったら殺す……」

 「蛇さん、大丈夫?」

 「だいじょばない……、キウイ丸呑みしちゃったから、喉がもさもさする……」

 「こいつはほっといても大丈夫や。 それよりお嬢ちゃん、あの猿捕まえられるかもしれへんぞ」

 「えっ、そうなんですか?」

 「おう、ちょっと耳貸して……」


◇ ◇ ◇


 「おう、追い詰めたで」

 「くっ、しつこいなあんたらも……」

 

 二人は猿を本殿の屋根の上に追い詰めました。


 「こうなったら、『とっておき』をやるしかねぇ……!」

 「!?」

 「食らえ! これがあの鬱陶しい蟹どもを一撃でぶち殺した……」


 猿は大きく振りかぶり、二人に向かって柿をとてつもない勢いで投げつけてきました。


 「『超豪速球・柿』だーーっ!! くたばりやがれ人間めーーーっっ!!!!」

 「今やお嬢ちゃん!」

 「は、はいっ!」


 そう言われた恵は剣道のように自分の顔の前にほうきを構え、思いっきり振り下ろしました。すると柿はほうきにジャストミートし、柿は猿に向かって勢いそのままに帰っていきました。

 

 「え、うそ!? ぎゃああああああああ!!」


 柿は猿の顔面に直撃しました。


 「やっぱりな。 人間のこと見下しとるお前のことやし、どうせ避けられへん顔面デッドボール狙ってくると思ったわ」

 「だ、大丈夫!?」

 「しゃーない、因果応報や。 ……まあちょっとやりすぎたかもしれへんけど」


◇ ◇ ◇


 「くそー、この俺が人間如きにー……」

 「もうっ、他人のもの盗んじゃダメじゃないですか!」

 

 猿はそっぽを向きました。


 「ほな罰ゲームや。 このお嬢ちゃんのこと認可しろ。 こいつお前の球打ち返したぞ」

 「はあ!? なんでオレが人間なんかに……」

 「ほなおやつ返せ」

 「うむむ……ちくしょう」


 そう言うと猿は右手を嫌々恵の方に向け、ぶつぶつと呪文のようなものを呟き始めました。


 「掛けまくも畏き聖の大神、高天原に神留り坐す天照大神、この人間の仕へ奉ること許されあらなむば、第玖刻のもと、祓えたまへ、清めたまへ、神ながら守りたまひ、幸えたまへと白す事を聞こし食せと恐み恐みも白す」


 猿がそう言うと、恵はマイナスイオンに包まれたような気がしました。それと同時に、体がぽかぽかと温かくなるような感覚を覚えました。


 「ええーい! おい人間! もうこうなったらお前のことめちゃくちゃこき使ってやるからな!」

 「え、あ、はい、よろしくお願いします……」


 そう言うと猿は、ぴょんぴょんと屋根を降りていきました。


 「もっと怒ってもよかったのに」

 「まあでも、これから私がもっと認めて貰えるように頑張るので……」

 「おおう、なんやええ子なんやろうけど、なんかそのうち痛い目見そうな気ぃすんな……」


 こうして恵は猿からも認められたのでした(?)。はたして他の神使たちは彼女を認めてくれるでしょうか?


 「あっ、財布返してもらうの忘れた!」

 「ほらな」


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