第十一話 いのいちばん
「そういえば、猫くんはなんでここ来たの?」
神様は猫に尋ねました。
「ああ、そうそう。 ウリちゃんにちょっと用事があって来たのよ。 ウリちゃんどこ?」
「あー、あいつなら今俺の頼み事で出かけてるわ。 しばらく帰って来ないんじゃない?」
「えー、せっかく来たのに……」
「あ、私、今手が空いてるので、行って来ましょうか?」
そう恵は申し出ました。
「ほんとに! ありがとー♡」
「じゃあ行き方教えるね。 場所は……」
◇ ◇ ◇
「久しぶりに通ったなあ、ここ……」
恵が神様に言われた通り雲の道を進んでいくと、一軒のボロ小屋がありました。恵が扉を叩くと、中から一匹のイタチが顔を出しました。
「こんちわっす。 あれ? どちら様っすか?」
「ええっと、神様の使いで伺いました、恵みと申します」
「おお、それはご苦労様だったっすね。 たしかあそこ20キロくらい離れてるでしょ」
「ええ、まあ。 あの、ウリちゃんさんおられますか?」
「ああ、ウリさんならさっき帰ったっすよ?」
「え、そうだったんですか! 行き違いになっちゃったのかな……」
そうして恵は、イタチに別れを告げ、足早に帰路につきました。
◇ ◇ ◇
「ただいまです、門番さん」
恵は神社に帰って来ました。
「おう、おかえり、お嬢ちゃん」
「あの、ウリちゃんさん帰ってます?」
「おう、さっき帰って来たけど、また出てったで」
「ええ、なんで!?」
「あんたが探してるって言うたら、探しにいく言うてイタチんとこ向かったで」
「そうですか、ありがとうございます……」
そうして恵は、肩を落としながら、イタチの元へ向かいました。
◇ ◇ ◇
「あれ、どうしたっすか? 忘れ物っすか?」
「いえ、あの……ウリちゃんさん来ませんでした?」
「いや、来てないっすよ?」
「ええ……、もしかして、追い越しちゃった……?」
のべ60キロメートル歩いた恵は、明らかにぐったりしていました。
「だ、大丈夫っすか?」
「あ、大丈夫です……。 あの、今からもう一回探しにいくんで、ウリちゃんさん来たら、引き留めておいてくれませんか……?」
「り、了解っす……」
「ありがとうございます……」
そうして恵は、ふらふらになりながら帰路につきました。
◇ ◇ ◇
「一歩一歩確実に……自分のベースで……でも、さすがに片道20キロはきついかも……」
そう言うと恵は、帰り道の途中にあった焦げ茶色の岩に腰掛けました。
「ふぃー、ちょっと休憩…………ん?」
「ぐおー、ぐおー……」
「何、この音。 近くから聞こえる……、いや、私の下から聞こえる!?」
「うーーん……」
すると突然、焦げ茶色の岩は膨らみ、恵みは転げ落ちてしましました。
「ひゃー!?」
「ふぁぁ、よく寝た。 ……ん? なんだいアンタ」
「い、猪……?」
岩の正体は、昼寝中の猪でした。
「あ、すみません起こしてしまって……」
「あ? ああ、いや、あたいもそろそろ帰ろうかと思ってたから気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございます。 あの、つかぬことをお伺いしますが、ウリちゃんさんと言う方をご存知ありませんか……?」
「? あたいになんか用かい? ていうかなんであんたがその名前知ってんだ!?」
「え、あ、え、え、もしかして、ウリちゃんのウリってウリ坊のウリですか!?」
◇ ◇ ◇
「そうかい。 なんか迷惑かけちゃったみたいで悪いね……」
「いえ、大丈夫です。 疲れますよね、片道20キロもあると」
「あんただって、20キロが3回だから、ええと………………………………とにかくすごく走ったんだな。 なかなか頑張り屋さんじゃあないか」
「いえいえ、そんな」
「なかなか気に入ったよ、ちょっと面貸しな」
「え?」
そう言うと猪は鼻を恵に向け、呪文のようなものを呟き始めました。
「祓えたまへ、清めたまへ」
猪がそう言うと、恵は体がぽかぽかと暖かくなる感覚に陥りました。
「……え、終わりですか? なんか短いような……」
「あんなまどろっこしいの、いちいち読んでられっかってもんだ」
「はあ」
「それよりあんた、あたいに何の用だい?」
「あ、そうだ。 猫さんがあなたに用事があるって……」
「なんだって!? それを早く言ってくれよ! 仕方ない、乗りな!!」
猪がそう言うと、恵は猪の背中に乗りました。そして、猪はものすごい速さで走り始めました。
「は、速ーーい!?」
「しっかり捕まってな!」
(あれ? もしかして速すぎるから、すれ違っても気づかなかった……?)
こうして恵は猪からも認められたのでした。はたして他の神使たちは彼女を認めてくれるでしょうか?




