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シーン6 ~疑わしいのは、誰か~

スグシヌンジャナイ氏の、痛々しい首無しの遺体には、薄い毛布がかぶせられてあった。シン・ハンニン神父が胸で十字を切り、静かに祈りをささげていいる。


イロケスゴイ夫人は意識を取り戻したが、精神的ショックが激しいため、別室で横になって休んでもらうことになった。


ボンクラー警部補は、その場にいた全員を屋敷の大広間に集めて、状況説明を行っていた。


「、、、というのが、これまでの事件のあらましです。それからもう一つ、悪いニュースがあります。」


その場にいる人間は皆、不安げな表情で話を聞いている。ボンクラー警部補は、ふぅとため息を一つ吐いてから、言葉を続けた。


「、、、地元の警察に連絡したところ、この島に、すぐ駆け付けられる住み込みの駐在は、いないとのこと。隣にある大きな島から、捜査員がフェリーに乗って来ることになりますが、一番早くて明日の朝になってしまう。しかも、天候がこのとおり嵐に近いですから、明日船を出せるかは、分からないとのことです。」


「それってつまり、、、いつ警察が来るか、分からないということですか?」


ミスリード氏が、不安げにいった。


無理もない。人が一人、残虐な手口で殺されているのだ。しかも犯人が誰なのか、どこに行ったのかも分からないときている。


分からない事といえば、他にもあった。そもそも犯人にとって、殺害の動機はなんだったのか。怨恨か、それ以外の何か理由があったのか。さらにいえば、首を切断後に、持ち去った理由も不明。トランプのカードを置いていったのも、何のためなのかよく分からなかった。


絶海の孤島、ゼッカイ島はいまや、不気味な殺人事件の現場となってしまった。島から逃げ出すこともできず、しばらくは警察が助けに来る見込みもないということを、その場にいる全員が理解した。


「、、、先ほどもご説明した通り、私は警察のものです。皆の安全を確保し、事件解決に努めたいので、しばらくは、私の言う通りにして頂きたい。まず今後、殺人現場には一切立ち入らず、遺体にも手を触れないで下さい。明日以降、鑑識係の人間が到着しますから、それまで現場をそのままにしておきたいのです」


捜査員が、指紋の採取等、ドラマで見たことのあるような作業を行うのだろう。人々は頷いた。


「それから、今晩ですが、、、なるべく一カ所に固まって、皆で過ごすのがよいでしょう。それぞれ変な動きがないか、妙な物音がしないか、今夜一晩は、見張りをたてて過ごすべきでしょうな。」


「こんな場所で一晩すごすなんて、冗談じゃない! わしは帰るぞ!」


銀髪の初老の男性、ツギノーギ・セイナル氏が声をあげた。


ツギノーギ・セイナル氏は、亡くなったスグシヌンジャナイ氏の友人の画家、ということだった。年齢はおそらく、50歳ぐらいだろうか。目つきが鋭く、かなり気が強そうな顔をしている。


提案を否定されたボンクラー警部補は、ちょっと眉をしかめて言った。


「お言葉ですが、それは危険です。スグシヌンジャナイ氏を殺害した犯人は、どこに消えたのか、分かっていません。そして外は、すでに暗い。そんなところを一人で帰って、襲われでもしたら、、、次の犠牲になるのは、ツギノーギ・セイナルさん、あなたかもしれませんぞ」


「ふん、変な奴がきたら、わしがぶっとばしてやるわい」


「もう一つ、皆さんに残って頂きたい理由があります。ーー玄関で受付していた屋敷の使用人によれば、停電があった時間以降、『外に出て言った人間は一人も居ない』とのこと。さらに調べたところ、屋敷の窓は全部、中からしっかりと鍵がかかっていました。つまり、停電の中でスグシヌンジャナイ氏の頭部を持ち去った、何者かが、、、まだ、屋敷の中に潜んでいる可能性がある」


そこでボンクラー警部補は、ちょっと言葉を区切った。


「もっと言うと、」


ぐるっと聴衆を見渡してから、言った。


「、、、今、この中にいるのかもしれない。」


その場にいる人間は、一様に探るような視線で、お互いの顔を観察し合った。


「皆さんは、『重要参考人物』です。その意味でも、ここに残って頂きたい。」


「わ、わしらを疑っているのか? この中に犯人がいると?」


ツギノーギ・セイナル氏が目を白黒させて言った。それから声を荒げて言う。


「わしが犯人で、うまいこと言って、屋敷から逃げようとしている、とでも言いたいのかね!?」


「そうは、言っていません。」


「ふん、あんたが警部補だっていうのも、あやしいもんじゃないか! ひょっとしたら、あんたが犯人で、全員殺そうと思って屋敷から出さないでいるって可能性も、あるんじゃないのかね!」


「まあまあ、皆さん落ち着いて下さい」


メイタンテーヌが人差し指で、たらりと垂れた前髪をかきあげながら、しゃしゃり出てきた。


「なんだ、お前は、すっこんでろ」


「うぐ、、、私は名探偵の、メイタンテーヌで、、、」


「ただの『自称・探偵』だろ、一般人だ。警察でもなんでもないじゃないか」


ツギノーギ・セイナルに痛いところを突かれて、メイタンテーヌは心が折れそうになった。しかし、なんとか顔をあげて話し続ける。


「、、、今のところですね、一番あやしいのは間違いなく、行方不明になっているユクエ・フメイナル氏です。スグシヌンジャナイ氏が殺害される直前、フメイナル氏とスグシヌンジャナイ氏が、二人で何ごとか話し込んでいたことが目撃されています。そして殺人事件がおき、、、フメイナル氏が消えた。さらに、」


とここで言葉を切って、メイタンテーヌは得意そうに情報を付け加えた。


「その少し前に私と会話したとき、フメイナル氏は『もうすぐ、まとまった金が手に入る』、、、と、意味ありげなセリフを言っていました。彼は、スグシヌンジャナイ氏から、お金をもらえる算段でもあったのでしょうか。」


ほう、と皆の視線がメイタンテーヌに集中した。


「それなら、フメイナルとか言うやつが、スグシヌンジャナイを殺して、金を奪って逃げたのかもしれないな」


「しかしですな、スグシヌンジャナイ氏の財布や時計、指輪といった貴重品は、そのままに残されていました。屋敷の金庫も念のため調べてみましたが、触られた形跡もありません。」


ボンクラー警部補が、冷静に状況を説明した。


「とにかく、ユクエ・フメイナル氏の行方が分かるまでは、警部補の言う通り、軽率な行動は控えた方がいいと思います。それでなくても、外は依然として大雨だ。一方で、屋敷の中には、客人が泊まることを想定した部屋もある。今夜一晩、ここで泊っていくというのも、悪くない判断ではないでしょうか」


聴衆の中に、そうかもしれない、という表情が広がっていった。


たとえ、そこが恐ろしい殺人現場でもーーそこで一晩過ごす意外に、選択肢はないように思われた。

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