つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
活字大嫌い系美少女後輩がサッカー部1イケメンが本屋に行ってるという噂を聞いた途端本大好きキャラになったの分かりやすすぎて草。仕方がないので親切な文芸部俺が本屋を案内してあげよう
「先輩! 謎を発見しました!」
高校生というものは大体学年ごとに行動するものだ。大学とかなら色んな学年の人がとる授業とかもあるだろうけど、高校生ってのは同学年のクラスごとに授業を受けるんだから当たり前。
なのになぜ後輩は今ここにいる?
「簡単なことです先輩。先輩は今から体育、私は今終わったところです」
「なるほどそうか。だけど、他に人がいないけど?」
「それは私が謎に直面し、その謎について考えていたからです」
「ほう、それは何の謎だ?」
ちなみに俺は近所に住んでるってだけで良く絡んでくる後輩が謎だ。けどその謎は解けてない。
「ほら先輩、あそこを見てください」
「ん? なんだよく見る光景じゃん」
体育館の天井にボールが挟まってる。任意の体育館にあるよな。
「先輩は観察力がありませんねー。ボールをよく見てくださいよ」
「ボール? ん? あれはサッカーボールか?」
「そーなんですよ。外で使うはずのボールが何故ここに?」
「外で使うはずってのが間違いなんじゃないかな? フットサルなら室内でやるでしょ」
「うちの高校にフットサル部はないし、室内で使う用のサッカーボールの見た目したボールはないです」
「そう言われると見たことないな」
「でしょう? これは私が体育委員だから確信持って言えることなんですよー」
「君体育委員だったんだな」
「はい!」
体育委員は割と面倒であんまり人気のない委員だ。けど、この後輩はしっかり手を挙げて立候補したんだろうなーって想像できる。
「で、どうしてサッカーボールが上に挟まってるのか気になると」
「もちろんです。だって私見たんですよ、今日の朝、山田君がサッカーボールをもって一人で体育館に入っていくのを」
「ははーん」
「ははーん?」
「山田君って確か一年生なのにサッカー部のエースでかなりイケメンな人でしょ」
「そーです。先輩も知ってましたか」
「うちの高校では有名人だからな」
「流石山田君」
この後輩、ただの元気少女に見えてイケメン男子に興味があるとか、なんだかんだで可愛すぎるぞ。
さて、その山田君がどうしてサッカーボールを持って体育館に入り、そして天井にボールを挟まらせてしまったのか。
「先輩も謎だと思うでしょう?」
「まあ思うけどね。でもたまたま一人で思いっきり蹴りたい気分で蹴ってたら挟まっちゃったとかそんな感じじゃない?」
「まあそうだと思うんですけど、私もう一つ噂を聞いたんです」
「噂?」
「そう、最近山田君って本屋さんに通ってるらしいんですよ」
「本屋?」
「はい! 私も本結構好きじゃないですか」
「???」
「なので私も本屋に行こうと思ってます。そしたら山田君が人知れずサッカーボールを体育館の天井にはめる理由がわかるかもしれないです」
「ほーん」
「じろじろ」
「ん?」
「い、いえ。先輩はこういう時こんな顔するんだなーって」
「どういう顔だ?」
「もう忘れましたよー。で、この辺だと本屋ってどこにあるんでしょうね?」
「この辺には一個しかないぞ。俺もよく行ってるとこ」
「一個しかないんすか?」
「一個あるだけでもいいんだぞ。街に一個も本屋がないなんてところも結構あるんだから」
「ほー。ま、じゃあとりあえず、今日の放課後、その本屋に連れてってくださいよ先輩」
「俺? どうせ今日も行く予定だったからいいけど」
まあ俺文芸部で本好きだし。それはもうとっくに後輩にも知られている。
「やった。よろしくお願いします!」
☆ 〇 ☆
放課後。俺は後輩と校門の前で待ち合わせた。
「わーい。先輩とちょうど一緒だ」
「はいそうだな。行くよ」
「はーい」
本屋はなぜか街の少し外れのホームセンターの裏にある。
「意外と歩くじゃないですか」
「悪かったな」
「でも本屋さんの中は絶対涼しいですよね?」
後輩はそう言って本屋に入ると、高いところに来た少女のような表情を見せた。
「あ、山田君いるぞ」
「うそ?」
後輩の目が大きくなる。
山田君は漫画コーナーにいた。
「山田君漫画とか好きなんだ」
「最近はやりのサッカー漫画があるからね、それが好きなんじゃない?」
「ああー。今日確か新刊の発売日だ」
「じゃあそれじゃん」
「先輩天才ですね」
実際山田君は例のサッカー漫画を持ってレジに向かった。
「ははーん」
「どうははーんなんだ?」
「わかりました。山田君が何故体育館に入っていたのか」
「おお」
「あの漫画、有名なシーンンに、すっごい高くボールを打ち上げて、そっから落ちてきたボールを蹴って凄まじいシュートを打つってやつがあるんですよ」
「そのまねを山田君がしてたってこと?」
「そういうことです」
「そんなことするキャラなの? 山田君って」
「しないキャラということになってますよ。だからこそ、誰からも見られないように体育館の中でやろうと思ったんです。校庭だと教室の窓から丸見えですからね」
「なるほど……そういう説もあるか」
「はい。人間って、キャラ設定じゃないことをすることをしてるのは隠すもんなんですよ」
「なるほどー」
「例えば、元気そうな人は、案外ちまちま片想いしてるのを隠したりとか」
「バレバレだけどな」
「えっ。そ、そんな馬鹿な」
「大丈夫だ。山田君とは上手くやれる」
「山田君……? ははーん。なんだ全然バレてないじゃないですか」
「?」
「ああー、読書家の文芸部な先輩しっかりしてくださいほんとに」
「しっかりしてるつもりだけど……ま、とにかく、山田君もどっかいっちゃったし帰るか」
「帰りませんよ?」
「帰らないの?」
「もちろんです。ここからが今日のメインなんですからねっ 先輩?」
☆ ◯ ☆
「てなことがあってね。昔」
「なあんだ。パパ鈍感じゃん! じゃあ気にしなくて大丈夫だよ」
「ううん、でもまだこの先の話があるの」
「どういうこと?」
「なんとパパはね、ママが可愛すぎてもうこの時ママのことがとっくに好きだったんだよねー」
「えっ。じゃあママが山田君のことが好きだと思ってたのは……?」
「思った上で、焦ってたのよ。パパは」
「へー。嫉妬してたの?」
「まあそんな感じ。パパってそれからも私が他の男子と仲良さそうにしてたりすると拗ねちゃうのよ」
「うわー、パパってめんどくさいかも」
「でしょう? だから絶対これは見つかっちゃダメ」
「そうだね。隠そう」
娘と並んだけど二つしか手に入らなかった限定プリン。私はそれを冷蔵庫の奥にしまった。
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