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告白と受け取っていいのかしら?②(第二王女は、語る)

「早く馬車にお入りなさい!」

 私は叫んだ。ムギは、飛び込んできた。彼が入ると、ドアを閉め、馬車を走り出させた。後は、私のお得意の風魔法で突風を吹かせて、追ってくる連中を飛ばしてやった。

「王女殿下。ありがとうございます。」

 向かい側の席に座った彼は、頭を下げて礼を言った。

「よく勝ち上がったわね。後は、バトルロイヤルね?さっきの試合は、見事な勝利だったわね、相手はかなり有名な強者だったという話じゃない?」

「見ていて下さったのですか?これは恐縮、いや光栄です。」

「それで、これからどうするつもりなの?」

「まず、再洗礼者総教会本部に行っていただけませんか?」

「良いけど…、どうするつもりなの?」

「今日の得た金を寄付しようと思いまして。」

「はあ?」

 そして、あれよあれよという間に、総主教様に、2,000イエン、庶民1,000人分の一カ月の生活費に相当する額、後から知らされたのだが、の再洗礼教会への寄付とその条件、4割は彼の実家のある地方の総教会に、どちらもそのうち3割は孤児院や病院などに、2割は祭りに、の承認、立会人にされてしまった。彼の地元管轄の神父も呼び出され、しっかりと彼の意思を伝えることとなった。

「不浄の金ですから、少しでも、お役にたてればと思いまして…。」

 敬虔な表情で、彼は跪いて言った。その後、周囲は、まるで私が彼を恋人にしているかのような取り扱いをした。

 帰りしな馬車の中で、そのことに文句を言うと、本当は少し嬉しく、そのままにさせるままにしていたのであるが、彼は、しまった!という顔で、

「申し訳ありません。」

と頭を下げた。何が、しまったよ、よ!

「じゃあ、お詫びとして、騎士団設立の資金も用意しておいてちょうだい。」

 もちろん冗談で、ちょっとした意地悪だった。

「少ないですが、用意してますよ。100イエンくらいですが。」

「はあ?」

 彼が、このトーナメントで賭けに参加していることは聞いていた。もちろん、自分自身に賭けている、験担ぎのためとのことだった。とはいえ、窘めてやろう、本当は彼の試合ぶりを見ようと思ったのだが、と来てみたのである。

「なんせ、私の勝ちに賭ける連中が少なかったので…。」

 この人、本当に冗談が通じないわね、気をつけないと。

「賭けで儲けた分は、多少は騎士団設立分にまわしなさい。そうすれば、文句をださせないわよ。」

と少し前、彼の賭けの噂を聞いて言ったが、冗談だった。元々、

「武闘大会に優勝したらつき合ってあげるわよ。」

も冗談だったのだ。その場のノリ、どういうやり取りからだったかは忘れたが、一般からの応募もあるという話が出て、誰か出ない、出ないの?で誰からも声があがらないので、つい言ってしまったのである。それを、彼はまともにとってしまったのだ。彼の姉は流石に心配して、出場を、断念するように言ってくれ、と泣きついてきた。私も心配して、彼に出場を止めるように言ったのだが、

「万が一にも、つき合うのが嫌な奴ですか、私は?」

と見つめられたら、それ以上は言えないでじゃないの、もう~?

 私達の心配を余所に、彼は勝ち上がっていった。賭けでも、高率で儲けながら。それで非難の声も出ていた。あ!もしかして、私を利用して?教会に今回分をポ~ンと寄付したら、全てがチァラになる、私が承認!こいつ、なんて…、と思ったが、怒り半分、頼もしさ半分、感心半分…。

「まあ、頑張りなさいね。私と付き合いたかったら。」

 彼は、流石に自信はないせいか、難しい顔で黙っていた。

 しかし、こいつ、いくら儲けたのかしら?彼の勝ちに賭ける者はほとんどおらず、彼が5分以上持つかどうかも入れて、何とか賭けが成立したらしい。だから、何時も彼の大勝ちだった。それを知って、彼に金を無心して断られて、逆恨みして襲う学生まででる始末だった。しかし、彼の寄付の一件が流れると、学校側の問題視する態度も、すっかりなくなってしまった。

“まあ、こういうところも必要ね、騎士団員としては。”

 そして、バトルロイヤルも制して、その8人に滑り込んだ。その後は、武者修行で各地をまわっている評判の剣士も、王国から招待された戦士も、彼に敗れた。そして、彼は準決勝に駒を進めた。準決勝の相手が姉上だった。

 激しい姉上の攻撃に真っ向から勝負を挑み、押されながらも、負けなかった、彼は。その攻防が一段落すると、姉上は少し距離を取り、いずまいを整え、

「失礼した。私は、あなたのことを見くびっていた。どうか非礼を許して欲しい。」

と頭を下げた。それに、彼も深々と頭を下げて答えた。

「お詫びに、全力で行きます!」

 これに、ムギは、

「光栄です。」

 何言ってるのよ!

 姉上の攻撃は、さらに苛烈なものになった。剣の速度、強さ、魔力が数段増しただけでなく、当て身、蹴り、拳、肘打ち、回し蹴り等が剣と複数の魔法攻撃と並行して、変幻自在に加えられた。身体強化がどんどん強まっていった。それに、彼は何と、何とかとはいえ、防御して、姉上に最後まで攻め込ませなかったのだ。私は、心配で、あくまで責任感から、将来私の騎士団に入隊させる者に対するものであってそれ以上、それ以下でもない、彼が怪我でもしないかと、観客席の最前列にいたが、何と姉上が魔力を暴走し始めたのを感じた。会場は既に、死者が出るかもしれないと盛り上がっていた。審判は、姉上の迫力に圧倒され動けなくなっていた、いや、動くのを忘れてしまっていた。完全に彼は、防戦一方に追い込まれていた。だが、なかなか姉上は、あの姉上が、彼の防戦を破れなかった。

 私は、気がつくと、彼を背にして、姉上の魔力攻撃から彼を守ろうとしていた。

 姉上は飛び上がった、必殺の一撃を振りかぶった。戦いでは普通、空中に身を置いては動きがとれなくなり、相手はこちらの動きを予想して待ち構えることができるから、絶対避けるべきことだ。しかし、私も姉上も、その武術上の原則は適用されない。空中を僅かな時間ではあっても飛行さえできるからだ。

「お姉様、止めて!」

 得意の電撃魔法を全開にして、今まで見たことがないくらいに、これほどの魔力があるとは思わなかったほどの、姉が最早、私すらその眼中になく迫っていた。

 慌てて風魔法の防御障壁を張ったが、そんな即席なやくざなものでは、とても身を守れるものではないことは、直ぐ理解できた。

 自分の防御障壁が破られ、電撃が迫っている瞬間は覚えている、死ぬと思ったことまでは覚えている、こんなことで、姉上は本当に強い、ムギと共に死ぬ、そんなことを思っていたことも覚えている。

 気がつくと、体が重かった。私の上にムギが覆いかぶさっていた。まず、

「何やっているのよ!」

がまず口から出かかった。それから、自分が生きているということを実感して、理解した。姉上の声が、嗚咽のような号泣の声が聞こえてきた。

「ムギ、早く…、だ、大丈夫?生きているの?しっかりして、…し、死なないでー!」

 あとは、

「早く医者を、彼を運んで、医務室に!回復術者はどこ?死なないでー!彼を死なせないでー!」

と叫ぶ私がいた。私は涙が止まらなかった、ひたすら、侍女に体を支えられて、とぼとぼ歩くしかなかった。

 医務室のベッドに寄りそって、彼が目覚めるのを待った。彼が目覚めると、

「やっぱり、お付き合いの権利は無理でしたね。」

 ヘラヘラ笑いで、力なく起きあがりながら、彼が言うのに、

「馬鹿!」

と上に覆いかぶさっていた。部屋の外からざわめきが聞こえていた。気にはなったが、そのままにしていたのだが、ムギの体が硬直したのが分かった。

「陛下…国王陛下ー!」

 彼の素っ頓狂な声が頭の上を通り過ぎて、私も振り向いた。そこには、護衛と側近を従えた父上、国王陛下が立っていた。






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