愚弟がいない日(姉は心配する)
その日は、朝早く、
「ちょっと用事があるので、一人で出かけます。夕方頃までには帰りますから。」
と言って出て行ったそうだ。
「そんなに心配なら、止めるか、どこへ行くのか、目的は何か聞きとがめるか、自分も行く、ついて行くとすがりつけばよかったんじゃありませんか?」
愚弟が姿を消して、1時間もたたないうちにうろうろと、いつもの凛々しさはどこへやら、狼狽えている王女様姉妹に、心の中では泣き叫び、脚は貧乏ゆすりをして気が気ではない、私は平静を何とか装いながら、言ってやったわ。
結婚、あれ、したかしら?、以来彼と離れたことが、彼女達の都合、王女様としての公務とかで、以外になかった二人はパニック状態。まあ、止めたくても、昨晩、激しくて、その時まだぐったりしていたから、出来なかったのは分かっているけど。自業自得よ、情けない、役立たずですよ!
でも、私は学生時代の二年間は休みで実家に帰る時以外ムギと会うこともなく日々を過ごしていたはずなのに、その間は彼のことを全く気にもしていなかったというのに、どうして今は寂しく、心配してしまうのだろうか?彼が学園に入学してからも、学園では異なる場所で学んでいた、学年が異なるから当然だった、だけでなく、住む寄宿舎は別々だったから、一週間以上、休日の日も会わないということもざらではなかったというより、その方が多かった。それ以前実家で過ごしていた時だって、一日合わないことだってよくあったし、別に心配などしなかった。それがどうして、今はこんなに半日、見ていない、会っていない、所在が不明だという事だけでも、不安にかられ、心配するのだろうか?何時からこういうとになってしまったのだろうか?王女様方のように、醜態としかいえない様はみせていないにしてもだ。
この数日、愚弟らしくもなく、いやにそわそわしていたように思う、今となってみては。何か一人で、危険なことをしようとしているのではないか?いや、どこかで私の知らない女と密会している、それだけではなく、王女様方にする、あんなことやこんなことを、恥ずかしくて口にもできないようなことをしているのでないか、いや、既に深い仲になっていて、その女と手に手を取って・・・なんてことがないだろうかなどと妄想して、心配し、怒り、不安になっていた・・・は王女姉妹様方だったけど。
その日は、何も手が付けられなかった。ああ、それは何事にも上の空で、何も手につかず、ぶつぶつと愚痴、怒り、妄想、不安、悲しむので超忙しすぎる王女姉妹様達を心配しての結果だけれど。
夕食の時間になっても、ムギは帰ってこなかった。しばらく待ったが、彼は現れなかった。王女様方の侍女達が、
「冷めてしまいますから。」
と催促してきたので、彼女らの仕事を増やしてはということで、カンティヨン王女が先に食べ始めようと言い出し、ランビック王女と私も賛成した。食べ終わっても、彼は帰ってこなかった。味がしなかった、そもそも何を食べたかが思い出せないくらいだった。心配して、そわそわしている両王女姉妹様を見ていて心配だったからだ、お2人を心配してのことだ、私の場合は。
え、私達は一緒に毎日食事を?あの日から、ずっとそうだ。ランビック王女とムギが卒業して以来。
彼は、夜遅く帰ってきた。帰ってきたというより、夜遅く、気が付くと食堂で彼のために置いてあった夕食をほおばっていたのだ。私達は、彼を待っていたが、寝入ってしまっていたらしい。目が覚めて、彼に気づいて身を起こすと、薄い布が掛けられていた。もう、少し寒くなっていたから、彼がやったことらしい。彼は、服がボロボロだっただけではなく、疲れ切っているようだった、初めて見るそれだった。
「この馬鹿野郎が。どれだけ心配させて・・・王女様方を!」
と駆け寄るように近づいた私は、平手打ちをしようとしたが、彼に簡単に手を捕まり、
「心配してくれたの?優しいお姉ちゃん?」
と抱きすくめられた。
"こ、こんなことで許してやらないわよ。今まで何していたのか言いなさい。王女様方を悲しませるなどと、どういうつもりだ!"
カンティヨン様、ランビック様も何とか言ってやってー。え?二人とも、もう、唇を重ねてムギと・・・。そのだらしない顔は・・・もうだめだ、と私は諦めるしかなかった。
私は彼の背中に頬を擦りよせてやった。そして、すりすりしてやった。全く心配をかけて…どんなに心配したか…いつもいつも…お前は私のことを何と思っているんだ…なのに前のことが分からない…お前は誰なんだ?ああ、分かっているわよ、何時でも、何時までもお前の優しいお姉ちゃんなんだ、いてやる、演じてやる…嫌じゃないからな…もう、心配かけるな。




