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第二王女と弟②(姉は語る)

 結局、私は彼女の懇願に負けて、本大会への出場希望を取り下げて、校内大会に出場することにした。彼女の懇願と第二王女を心配する姉第一王女の気持が分かるからだった。だが、もしかしたら、いや、きっと、多分、私は彼女に勝てないと分かっていたからではなかったか、と思えてしかたがなかった。そのことで、無性に腹が立ったのは事実だった。

 私とランビック王女とは、決勝戦で戦った。それは、稀に見る激闘だと評価されるほどのものだったが、結果としては、私が勝って優勝した。二連覇したわけだ、カンティヨン王女のいない校内大会で。

 ところで、私は圧倒的な力で勝ち上がったが、ランビックは準決勝戦で不戦勝だった、その相手が我が弟・ムギだった。彼はその前の試合での負傷から、準決勝戦には参加を辞退したため、ランビック王女の不戦勝となり、彼女の決勝戦進出となったのである。

 圧倒的に相手に押されながらも、その攻撃を何とか凌ぎきり、逆転のように相手を倒して勝利を得た、弟は。相手は4年生で学園トップクラスの男子生徒だった。しかも、わりとイケメンで、準公爵家の次男で女子生徒の間でも人気があった。まあ、それはともかく、優勝候補の一角の1人だった。私でも、油断をすれば危ない相手であるから、優勝、もとーい、運良く優勝する可能性がある男だった。その男に勝ったのだ、弟は。延長、延長で、判定負けに持って行かれない程度に反撃、有効打を与えつつも、有効打をかなり受けて、疲労と負傷から準決勝戦を辞退したのだ。戦い方に不満だったし、不戦敗は根性がなさ過ぎると怒りを感じたが、弟を少しは、見直した。しかも、もう一人、平民出身の男で、やはり4年生の男子生徒、彼も優勝候補、一応、運が大きく味方してくれる可能性を考慮してのだが、も倒しているのだ。

 そして、ランビック王女だが、素直な真っ直ぐな、真っ直ぐ過ぎるくらいの剣筋で、力もスピードも、魔力もかなりのものだった。少なくとも、姉を除けば、私が学園で戦った最強の相手だった。なんと、私は度々押し込まれた。

「2年前の私では勝てなかったでしょう。」

と戦い終わって、握手をして私が言ったのは、本心からだった。彼女は、にっこり笑って、

「そのお言葉を頂いて嬉しく思います。これからも、研鑽惜しまないつもりです。」

と握手に応じたが、悔しさをかくすことはできていなかった。それでも、邪気は感じられなかった。

 試合後に、カンティヨン王女にそのことを言うと、というより執拗に、感想を求められ、話させられたのだ。彼女はそれを聞いて安心したようだった。

「姉の贔屓目かもしれないけど、あの娘の剣、魔力はかなりのものよ。でも、姉の私を意識しすぎて、ひたすら強さを求めて、対抗心を燃やして自分を見失っているようだったの。でも、あなたの弟さんとの試合後、少し落ち着いた感じになって…あなたと試合をしたらさらに…と思って…ありがとう。」

 妹のことは言えない姉なのだが、妹を心配する妹思いの姉なのだろう、と思った。そして、

「弟さんに、妹の騎士団に入るように言ってもらいたいの、お願いできるかしら?」

 それは、懇願するような感じではあったが、有無を言わせぬものではなかった。

 しかたがないからムギに、ランビック王女が作る(つもりになっている)騎士団に入隊する(将来、本当にできた場合は入隊する)ことを考えてやってくれ、と言ってやった。弟の、その時の顔というか表情は、いかにも困ったというものだった。それでも、弟は第二王女と上手くやっているようで、彼女の周囲で、彼女の取り巻きの後ろに見かけることが多くなった。彼は、将来の騎士団像について彼女と語り合ううちに、時々不機嫌にさせながらも、信頼をえるようになったのか、その他の1人という姿ではなくなっていった。それでも、彼女の1番でも、特別でもなかったが、その立ち位置も、彼女の扱いも。

 そういった日々が続き、私が4年生となり、学年最後のイベント、武闘大会本選、学園から二名の参加ということが問題視されたが、カンティヨン王女が、昨年の礼のつもりか大いに働きかけてくれて、私は出場できることになり、その準備に大わらわだったが、ある日、

「お前は何を考えている?死ぬかもしれないのだぞ!」

と弟の寄宿室に怒鳴りこまなければならなくなった。

「え?姉上、心配してくれているの?」

と平然と、本や造りかけ、あるいは完成した道具やらが部屋のかなりの部分を専有されていたが、それでも悔しいことに、私の部屋より片づいているのだ、呑気に弟は答えた。

 何と、弟は私が出る大会に、一般参加枠、数千人が参加して、8人の参加枠を巡りトーナメント戦、最後は数十人のバトルロイヤルで決める、毎年死者が少なからずでるという、から参加するというのだ。しかも、露骨な賭けの対象となっている、不純なものなのだ。本選も賭けが行われるが秩序だってはいる。死者が出ることを望んですらいる風もあるし、サポート体制は不十分、戦い方も粗雑、反則もかなりあるらしい。しかも、高位の貴族の子弟は、色々な意味で狙われるものだ。

「お前、ランビック様を…、あの方には婚約者がおられるのだぞ!しかも、お前とは身分が違いすぎる!いくら跡を継げないからとはいえ…。」

 家を継げない二、三男以下が他家の養子、婿を目指し、あわよくば…と云うことはよくあるし、それは悪いことなどとは思ってはいない。しかし、弟が私が跡を継ぐことでそんなに思い詰めていたとはおもわなかった。彼女の婿をという望みをかけて…この場合危ないし、万が一成功しても、あとが危ない。そもそも、私やカンティヨンに勝てるはずがないのだ、この愚弟は、そんな世界の絶対的真理も分からないのか!

「いや~。ランビック様が、武闘大会本大会で優勝したら付き合ってあげると言われたのは冗談だと分かっていますが、その場の勢いで後に引けなくなっただけで…姉上達に勝てるはずないとは分かっていますよ、もちろん。」

 まるで、小さな悪戯が知られた子供のような態度に、

「もう知らんわ!」

と頭に来て、そのまま奴の部屋を出てしまった。さすがに後になって不味いのではかと思い、ランビック王女に、愚弟を思いとどまらせるよう説得して欲しいと頼んだが、彼女は、

「彼ったら、もうあとに引けなくて、と言って聞いてくれなくて…かえって優勝して付き合うなど怖気がするような奴ですか私は?などと言って…。」

 だから、出るなと、そう言ってちょうだいよ!あなたも、自分の騎士が自分のために戦ってくれるのを、惚れ惚れとみているお姫様のように嬉しそうにニヤニヤして、腰をくねらすな!

 でも、それであきらめた私も私だ。もう、それからは自分のことだけを考えて、大会に臨んだのだから。

 私は順調に勝ち進んだ。カンティヨン王女もそうだった。そして何と、弟も本大会、決勝リーグにまで勝ち上がって来て、バトルロイヤルを制して、その中の8人になることを勝ち取ったのである。それだけではない。準決勝戦まで、何とかとはいえ、勝ち上がり、皆強豪のはずなのだが、ギリギリで、何とか粘り、勝利を勝ち取ったのである、いかに幸運の連続があったにしてもだ。

 そして、カンティヨン王女に、激闘、ほとんど一方的に攻められ続けていたが、何と僅かに押し返したことすらあったのだ、最後に判定負けで敗れたとはいえ、私以外にない快挙をあげたのだ。しかも、カンティヨン王女は、この試合の結果、決勝戦を辞退して、私は初優勝、不本意この上ないことではあったが、したのである。

 不愉快だったが、結果として弟に、愚弟の支援を受けたということになった。

 「弟さんは、お姉さんほどではないけれど、なかなかやりますね。さすが、シヨチユウ家のご姉弟ですな。」

という、まあまあ良い評判も得た。

 その後、ランビック王女との関係で困った立場となった弟からの、ランビック王女と姉カンティヨン王女を連れてきて欲しい、話をしたい、立ち合って欲しいとの頼みを受けて、面倒で、嫌だったが、家のためにも必要かと思い、承諾した。ことによっては、弟を殴り倒すつもりだった。

 私達の両親は、当然大会を見に来ていた。弟のことも心配したが、ランビック王女がつきっきりで離れようとしないので、また、酷い怪我を負ってはいなかったのが分かったので、すぐに私のところに来て、そして、私のこと不本意この上ない優勝を祝ってくれた。その後、国王陛下から呼び出しがあり、直々に私の優勝を賞賛するお言葉をいただいた。さらに、弟のことは謝罪と賞賛があったが、ランビック王女のことでまわりくどい説明というか、要請というか、警告というか、相談というか、よく分からない話があったらしい。驚き半分、喜び半分、不安半分、困惑半分、困ったものだが半分、馬鹿息子が、が半分…で私に相談があった、やはり何が何だか分からない内容で。だから、かなり頭にきていた、私。私と両親を困らせている弟に、ことによっては、制裁を与えたかった。

 奴は、約束の場所に、三本の自作の剣を抱えて待っていた。それを、私達に渡して、頭がおかしくなったのではないか、思える提案をしたのである。

 そして、結果として、なんとも恐ろしいことになってしまったのである。

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