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才能豊かな姉と平凡な弟(姉は語る)

 リコル王国北西部に居する、シヨチユル侯爵家の長女マイ、が私だ。侯爵家としては格は高く、由緒正しい古くからの家柄だったが、五代前に中央の政争に敗れ、早々と撤退、都落ちをして王都から遠い、この地に永住。堅実かつ新規事業に熱心に進出、代々の当主は、新興商人、事業家に負けないくらいのやり手だった。父母もそうだった。つまらない装飾品や見栄などより、農地での作物の出来、家畜の太り具合、工場の製品の品質、相場の動きなどの方に関心を向けていた。

 しかし、それでいて、シヨチユル侯爵家としての誇りも忘れていなかった。魔法剣、衝撃魔法系の使い手としての家系であり、父母もそれなりの使い手だった。

 そして、私は自分でも言うのはなんだが、才能があった。努力も人一倍していたから、早くから剣聖ともうたわれた数代前の再来と言われ、父母の、一族の期待の星となっていた。

「本当に姉上は、神様は人間に二物を与えないと言われているのに、剣・魔法の他に、美人だし、頭脳明晰で…四物も与えて貰っているんだから。」

 私との剣の立ち合いに一度も勝てず、その時も1本も取れず大地に倒れた弟、ムギは、そんなことを言ったものだ。

 私の銀髪と対照的な黒い髪の弟は、ワルくは決してないが、人のよさそうな顔の、私より長身なだけの男だった。

 2つ年下の弟は、幼少期こそ自分の魔力を調整できず、その強さを期待させたが、調整できる頃には、伸びは小さくなり、平凡より上程度に小さく落ち着いてしまった。年より、ずっとずっと老成しているように見えるが、剣・魔法の腕は岩を割る程度で、大岩を切り刻み、バラバラにする私とは比べようもなかった。それでも私を超えようという覇気があれば、また別なのだが、そうそうにあきらめ、園芸~銃制作などに時間を割くようになった。まあ、一応努力もしているのは認め、日々腕前は、高まっているが、私との差は開く一方である。

 そんなの覇気のない弟に腹が立ち、徹底的にたたきのめした、剣の練習を口実に。それでも、彼はしばらくすると元気に何かをしていた。

 そして、16歳になる年に、王都の王立魔法学院にトップクラスの成績で入学した。両親は、

「我が家は、軟弱な者であってらならない。」

という信条から、私に、身分、家柄、財力からして当然だろう、侍女等をつけた、特別寄宿舎での生活は許さなかった。それでも、基本的には貴族、富裕階級用の寄宿舎での生活となった、ランクの低い自分でやることが多く、部屋が狭い(ただし、一般の上より広い)。それはそれで、苦にはならなかったし、楽しい学園生活を始められた。

 学生の中とは言え、社交界的な集まりもこなさなければならなかったし、恋バナやスキャンダルの噂話にも付きあわなければならなかった。誰が一番の美男子だとか、の品定めとかにも話を合わせた。それも、必要だと思ったからだ。地位を得るというだけでなく、立場の確保、保身のためにも、そして魔法剣の修行にも、こういう場での地位というかは、確保しておかなけれはばならなかった。情報を得るためにも不可欠だった。両親は、そうした意味で、地方の貴族のサロンだけでなく、市民のサロンに出席したり、単なる集まりの場にすら顔を出していた。だから、新興の法服貴族以上に、市民や進歩思想家、新進気鋭の芸術家と親交があるほどだった。我が家は、それで生き、事業なりを拡げてこれたことは、私も知っていた。

 しかし、一番の目的は、魔法と剣、二番目は学業だった。二番目の学業は上位の上に入るという目標は、何とか果たせた。

 そして、一番の目標では、人生初めての敗北を喫した。それは、大きなショックだった。相手は、第一王女カンティヨンだった。

 もちろん、この世界には、私より強い者はいっぱいいると思っていたし、子供の頃、剣の教師や大人に負けたことは幾度もある。しかし、同年代で、駆け引きとか、何かの技とか、勝負の運とかではなく、初めて完璧に負けたのだ。1年の前半の学年ごと大会での決勝戦、そして、学年末の全校大会での決勝戦で負けたのだ。その試合は、稀に見る熱戦、例のない激しい勝負と伝説化さえしたし、カンティヨン王女からは、

「全力で、勝てるか、わからないと怖くなった、初めて相手でした。」

と言われた。

 しかし、どちらかと言うと、私の攻撃は空を切り、彼女の攻撃を何とか受け止めた、という感じだった。悔しかったし、屈辱だった。負けてもすがすがしい思い、などは微塵も感じなかった。

 それでも、その後友人となったのは、彼女に自分と同じ何かを感じたこと、彼女が将来作り、準備している、自分の騎士団に私を誘ったこと、第一王女との友好な関係は自分にも湯が侯爵家としてもプラスだと思ったこと、彼女と自らを高められたこと、最後に彼女がとても女性から見ても魅力的だったことからだった。

 自分も美人、弟が言っていたからだが、だと思っていたが、彼女は私以上に美人だと思えた。嫉妬するより、その面では憧れすら抱いてしまった。

 そして、彼女は、2年の末に前回、校内大会優勝の特権を利用して、国内外から競合が参加する本大会に出場、あっさり優勝してしまった。私は、校内大会で圧倒的な強さで優勝したが。

 私は不満が残ったが、両親、特に父親は喜び、帰省した際、私に侯爵家を継がせる、弟には子爵クラスの貴族の位を買い、必要な領地を買い取って与えると、2人の前で、夕食の席で告げた。さすがに、私も弟のことを心配したが、彼は父親が自分のことを配慮してくれていて嬉しいなどと、満足、心から満足しているようだったので、もう何をかいわんだった。

「予定通り、その2人の侍女達は、お前のところに持っていけ。」

と父親が言うと頭を下げた侍女を見て、私は少し驚いた。

“あの女達は、あの事件の関係者ではないか?”

とその時分かったからだ。

 

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