愛しているわよね?(第二王女は語る)
「私のことは、愛しているわよね?」
と私が尋ねると、ムギは銃を作っていようが、何か機械を作っていようが、剣を研いでいようが、菜園、花壇の手入れをしていようが、図面を書いていようが、薬品を調合していようが、料理をしていようが、お茶をいれているところですあろうが、10回の内8回は、手や足を止めて、真面目な顔で私の顔を正面から見て、
「もちろん愛していますよ。」
と言う。1回は、手や足を動かしながら、私の顔を見ないで、いい加減に謂うこともある。
そして、最後の1回は、私の顔を覗き込み、
「ランビック王女殿下は、如何なんですか?私を愛してくれますか?」
と切り返してくる。そうされると、曖昧に微笑んでから、唇を少し開けて、口づけをおねだりする。彼は、必ず唇を重ねてくる。いい加減に言った時は、怒った顔をしてから…、真面目に答えた時は嬉しそうに微笑でから…、結局…。私達、馬鹿じゃないの?と思うときがある、我ながら。
あの日から、私はムギとともに時間を過ごすことが、前より多くなった。授業が終わると、直ぐに彼の教室に行き、昼食は彼とともに食べることが、普通になった。私の周りには、さらに、なんと彼の周りにも女達が、前よりも、彼の場合は以前はあり得なかったのに、集まるようになった。理由は、私達の関係を聞き出すことだった。単なる恋バナ、スキャンダル、好奇心からどこかから頼まれた、まで色々有るようだったが、
「私は、真剣に彼と交際しているのよ。」
と言って、そそくさと彼と腕を組み、彼女達に見せびらかす。遠くから、チラチラ見る男子生徒にも、見せつけているつもりだった。彼は、途惑うことなく、それに応じてくれる。私達は、恋人然として寄りそって行動するようになった。ただ、不満なのは、まあ、姉上も足繁くやって来て、彼と腕を組むことはよいのだけど、姉上、最近すっかり乙女脳になってません?その内、彼の姉のマイ先輩まで付いてくることだった。彼女、姉上がムギに、ベタベタしていると、こめかみが、こころもちピクピクしているような…。
彼は、朝早く起きると、顔を洗う、食事をとるという当たり前のことのほかに、読書、予習などをして、デキるだけ早く出る。宿舎の外で剣の素振りをして、校内の借りている菜園の世話、作業所で作りかけのものの製作の続き、新しく製作を始める…。それから授業、いや、その前に、私との剣などの練習をする。昼は私達と昼食、彼は一番やすい学食か自作の弁当なので、私達は其れに付き合う。授業の後は、やはり剣や銃を私達と鍛錬、何かの製作、菜園。宿舎で夕食後、新進の思想家、芸術家あるいは錬金術師、職人、科学者の誰かとあって話などをする、カフェで行う場合はもある。帰ると、読書や音がしないように何かを作り、結構夜遅くに寝る。それに時々、私は付き合うし、彼も私のことに付き合ってくれる。
もちろん、姉上も一緒だったわ。姉上は、変わった。いつも、厳しくピリピリしていたのが、何か丸くなった、落ち着いたようになった。姉上が、テロリスト、過激派のことで悩んでいた、その脅威の対策に焦っていたことに、私に姉上は一言も言わなかったけれど、私は分からなかったと言うより、察することも、感じることも出来なかった。ムギに理解されて、心が落ち着いたようだった。私も、姉上の思いを素直に理解することができるようになった。だから、ムギと一緒に、私達の騎士団の中で姉上を支えてあげたいと思うようになった。
「今日は、姉上やマイ先輩を迎えにいきましょう。」
と、その日、彼と授業終了後、腕を組んで、いつものように、廊下を歩いていると、前に立ち塞がり、後ろから壁を作る集団に囲まれた、気がついてはいたけど。
「どなた?私達は、用があるのですが?」
私が言うと、その質問には答えず、
「ランビック第二王女殿下ですね?そちらは、シヨウチユウ家のムギ、三年生だったかな?」
わざとムギを愚弄する言い方をしたので、何となく目的は分かったけど、それだけに頭にきたわ。後ろに立つ男が、姉上の婚約者だとわかっていたから、なおさらだったわね。
私達が睨み合っていると、姉上とマイ先輩がきたわ。そのまま、彼の屋敷の夕食に招かれることになり、姉上と共に、ムギとの交際は真剣だと宣言することになった。
それから、私達への色々な説得なりが激しくなった、色々な方面から。ただし、私の場合は婚約者からの接触はあまりなかった。彼の実家から質問と言うより、苦情が1度あったけど、それだけだった。
ムギに対する露骨な行動が始まった。流石に、私達が彼と一緒にいる時は手だしをしなかったけれど、私達も王族としてやらなければならないこともあり、学生とはいっても、彼が私達といない時もある。
その時を狙われた。彼は、私達に心配させないように何も言わないということになかった、何があったかを事細かに話してくれた。
それがどういう訳か、姉上はいなかったけど、私がいる時に、それがあった。行き違いなのか、間違いなのか、私は無視したのかはわからないけど、私とムギが、王立科学アカデミーの集会からの帰り道での襲撃になって現れた。
数人が私達を前後から挟むように囲み、無言で襲ってきた。短銃も一丁持っていたし、魔法を使える者も一人いたわ。私がまず護身用の剣を抜いて、彼が私を守るように剣を抜いた。短銃を叩き落とし、魔法を放った女を叩き伏せ、他の連中を跪かせた、私が。彼は、私を援護してくれたわ。そ、そして、彼らが完全に怯んだところを見て、私をお姫様抱っこして、駆け出したの。恥ずかしいったらなかったわ。まあ、しっかり彼の首に両腕をまわしたけど、あくまで落ちないためで、甘えてなんていうのではなかったのよ!彼はしばらく駆け、人目がなくなったところで転位魔法で私の宿舎まで飛んで、私を送り届けてくれたんだけど、転位魔法、僅か10mでも、出来る者は少ないというのに。なんて凄いのよ。感動しちゃって、そのまま唇を重ねたら、どちらからともなく舌を差し入れて、絡ませあって、長い、長い時間口づけをしながら抱き合っちゃった。何とか、そこまでで止めたけど、私も彼も、しばらく離れがたかった。あのまま…なんて、後で一寸だけ思ったりして…。
私が襲われた、という形になったから、もちろん襲撃犯は不明だけど、やっぱり圧力がいったのか、ムギへの姉上の婚約者が関わる襲撃は止んだわ。ただ、この少し前、私はムギのそばで話しかけている女を見つけたの。面白~くなかったわよ!直ぐに駆け寄り、彼の腕をとったわ。女は、四年生の子爵家の娘。
「私とランビック様の関係を質問されていたんです。」
「?」
「王女殿下は、シヨウチユウ侯爵家ご令息と、真剣に交際されている、結婚も前提にお付き合いされているということでいいのですか?」
と真剣な表情で聞いてきたじゃない。だから、言ってやったわ。
「ええ、真剣です。彼を愛していて、結婚したいと思ってますわ。」
「そ、そうなんですね!素晴らしいことですわ!私、応援してますわ!」
と破顔一笑して、喜びのオーラーいっぱいで出ていったわ。この意味は、数ヶ月後分かったわ。
当初は、私に危害を及ぶことになったのは彼、ムギが原因だ、なんて不当としか言えない方向に進みかけたのよ、なんてこと?ムギが侍従長や学校側から注意を受け、処分を匂わされたの。だから、私は散々に抗議して、私達が襲われ、私達で切り抜けたことの正当性を声高に主張してやったわ。当然姉上も、マイ先輩も加わったわ。再洗礼教会も、ムギを支援してくれたわ。姉上の婚約者、カトリック教会と関係が深かったのよね。しかも、その領地にいる再洗礼教会の司祭って、ムギが再洗礼総教会に寄付した時、ある司祭様を通じてしたんだけど、その寄付が彼の手柄のようになったんだけど、その彼と姉上の婚約者は仲が良くない関係なのよね。ま…まさか、そこまで考えていた、ムギは?
私も負けていられないわ、なんて想っちゃったと言うわけではないけど、母上、王妃殿下を味方にしようと考えたの。思いついたのよ、母上が自分のサロンの人気を高めたいから何かないかしらと言っていたことを思い出して。“一石二鳥、三鳥になるかしら?”母上に、家族揃っての夕食の際、切り出したの、それとなく、姉上に語りかけて、母上に聞こえるのを見越して。




