何を鼻の下を長くしてるのよ、愚弟!(姉は、語る)
リコル王国王立魔法学院内にあるカフェ、西方から伝来されたコーヒーが、国内栽培に成功して10年以上が経過して、国内でも老若男女貴賤を問わず、カフェで時間を過ごすのが人気だった。
「あなたは、紅茶よね。お菓子があるときは、砂糖抜きで。」
「姉上は、よくわかっていてくれるね。優しい姉上で助かるよ。」
“何、気持ち悪いことを言っているのよ!”
カフェだが、お茶も色々と飲める。弟は、コーヒーがあまり好きではない。私は、カウンターで紅茶一つとコーヒー3つを受け取ってきたのだ。
「王女殿下は、お二人とも、ミルクをたっぷりでしたわね?」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
王女姉妹は、弟を挟んで、寄り添うようにした椅子に腰掛けている。赤い髪の姉と黒髪の妹だが、どちらも髪は、ストレートに伸ばしている。ややスリムだが魅力的な容姿、そして厳しい感じだが、それが高貴さを感じさせる美人姉妹である。士官服のような男女同一の制服で着痩せしているけど、2人のプロホーションは、惚れ惚れするくらいなのは、よく知っているんだから。その2人に挟まれて、
“何、鼻の下を伸ばしているのよ、この愚弟!”
私は、自分用のたっぷりめのミルクと砂糖を入れたコーヒーを口に運んだ。3人は、失礼にも、その私にジト目をむけた。“私の趣味嗜好に文句あるの?”
「父上、父国王陛下に言われたことは、心配しなくていいのよ。」
「そうよ。侍従長に言われたことだって、気にすることはないのだから。」
“周囲のことだって、気にすることはないのだから。”周囲の学生達が、あれこれと囁き、チラチラとこちらを見ている。教師たちもだ。そして、気づかれていないと思っている2人の護衛達は、厳しい顔をしている。“気にすべきは、嫌悪感を浮かべている男達かしら?女達も?”と私は、思ったが、口にはしなかった。
「清い交際なんですから。」
「そうそう、私達は、学生の本分から外れていませんものね。」
ああ、そう言いながら、据え膳しかねない顔になっているような…。僅かな日数での彼女達の変化に途惑ってしまう。愚弟は、据え膳されたら、喜んでいただきます、などとと言っていたし…。全く、どうなっているのよ、あなた方の頭の中は、と心の中でため息を漏らしてしまったわ、思わず。
「でも、あなたは変わりましたわね?」
「え?」
「丸くなって…何かがとれてというか…。」
「優しいお姉様になりましたわ。」
「は?」
“はあ~?”何言ってるのよ、訳の分からないことを。ふりよ、ふり。もう、こうなったら、
「まあ、国王陛下の、父親として心配するのは、分かりますわ。」
武闘会本戦、準決勝。完全に力を暴走させて、何とか立っている私の弟に、魔力を、雷撃魔法を全開にして斬り込む第一王女、この一撃がきまれば確実に彼は死ぬと誰もが思った瞬間、いつの間に飛び出したのか、第二王女が彼を庇って立ちはだかっていた。
「お姉様!止めて!」
彼女は咄嗟に、風魔法で即席の結界を作っていたが、それでは、とうてい此れだけの雷撃魔法は防げない、そうなると、自分自身の魔法も自分に返ってきてしまう。ぶつかった。土煙が収まって、観客が見たものは、第二王女を庇うようにして上になって動かなくなっている弟だった。気が付いた第二王女は、起きあがって、
「死なないでー!」
と叫び、彼を抱きしめて泣き始めるし、姉の第一王女は、呆然として膝を地面に落とし、天を仰いでいた。しばらくして彼女は号泣しだした。間一髪、魔法の暴走を止めたが、愛する妹を殺しかねなかったことにショックを受けたのだ、と観客は皆思った、もちろん私も。
ようやく審判は、彼女の勝利を宣誓し、弟は第二王女の命令でかけつけた医師団に連れて行かれた。泣いて、担架の彼にすがりついて歩く彼女の姿は印象的だったし、役員につきそわれてとぼとぼ歩く第一王女の姿は、哀れだった。結局、彼女はショックと、暴走を恥じたことで決勝を辞退して、三連覇を放棄、私が初優勝したわけだ。それを、あらためて口にして、
「あれでは、もう恋人同士にしか見えませんからね、誰から見ても。父親としても心配になりますわ。その後、このように2人して、弟と腕を組んでいるのですから、しかもお二人ともに、婚約者がおられるのですからね。」
言ってやったわ。少しは、懲りなさい!
流石に静かに、神妙な顔になったわね。
「交際は止めて、良き友人、騎士団員になってもいいけど…、君達が困るなら、それも約束のうちにはいっていたからね。あ、優しい姉上は止めるのはダメだよ、姉上。」
くー、何言ってるのよ!クソー、不平等よ!
あれ、2人?なに、うなずき合って?
「絶対にそれはダメ!」
何ハーモニーしてるのよ!あんたも、“そこまで言われたらしかたがないよね。”なんて顔してるな!
「私は、何時もあなたの味方よ。約束したものね。」
なに言ってるのよ、私も!