交際は2人までです(姉は語る)
「彼女は、この地のハイエルフのコウルイ伯爵家三女リカア嬢です。私達の幼馴染みという方です。」
修羅場は、外で演じても困るから、直ぐに屋敷内に入ってもらったわ。弟つきの侍女達がやってきて、
「どこからか、ムギ様が公爵になるという話を聞きつけて、押しかけてきたんです。」
ハーフエルフだから、ハイエルフを嫌悪している言い方ね。まあ、その通りだけど。
大急ぎで居間の大テーブルに着いてもらったわ。両親は何をしているのかしら?私付きの侍女が私に耳打ちしてくれた。彼女の両親と話しをしている。ハイエルフとの商売関係らしい。両王女殿下達がついてくることは連絡する暇がなかったから、私達よりそちらを優先したのね、まあ仕方がないわ。それで彼女が…。
「そちらは、どなたですの?」
「私が交際している、カンティヨン第一王女殿下とランビック第二王女殿下だよ。」
ムギが2人を紹介して、2人の手をとって、軽く握りしめた。ニッコリと勝ち誇った表情の2人に、絶句したリカアは、
「王女殿下達とは切れて、その代わりムギは、公爵になるんじゃないの?」
流石に、3人とも目が点になったわ。ざまあみろよね、後で侍女から目が点になったのは4人、私も含めて、という話だったけど。
「私は、ムギと別れてはいませんよ。」
「何ですか、その話は?」
と両王女殿下の当然の言葉。
いち早く我に帰った弟は、
「王女殿下の相手は、公爵、又は将来の公爵ではないと釣り合わないという話と僕が子爵の身分を買って分家するという話に、この交際に国王陛下以下、快く思っていないという話が混じりあって生まれたんだろうね。」
「じゃあ、違うの?私はすっかり、ムギが公爵になるから結婚してあげてもいいと思って、ここに来たのよ。父上だって、母上だってー!」
あーあ~、この女は、何を言い出すのよ!あ、二人とも怖い顔になってるわよ。
「一寸、話が見えないんだけど?」
「私達と別れて、この人と結婚とは?」
何?愚弟、私の方を見て…わ、わかったわよ、優しいお姉さんになったんだからね、優しいお姉さんだもんね、私は。
「彼女とムギとは、婚約の話はありましたが、話がでて、直ぐに立ち消えになりました、ずっと前に。それ以降は別に何もありませんでしたよ。それに彼女は、イーモ公国の魔法学院に入学していたから、ほとんど会うこともなかったんですけど。」
と説明してやった。イーモ公国は、ずっと西にあるリコル王国の保護下の同盟国的な自治国である。ハイエルフの国であり、その魔法学院にはハイエルフをはじめとするエルフ達が各地から入学している。イーモ公国自体は、ハイエルフからダークエルフ、ハーフエルフはもとより人間も多く住んでいるが。
「だって、二年以上前だけどさ、ムギがさ、跡を継げないということで、準伯爵の地位なら、私も父上達だって、それならと思っていたし、おじさん達も同意しかかったのに、ムギが、あんたが子爵で十分だなんて言うから、流石にそれではだめだって…。あんたのせいじゃない!この馬鹿ムギ!」
勝手に怒りだした彼女に呆れたが、
「準伯爵の地位を買うためには、子爵の場合より、ドンと金額が跳ね上がるんだよ。その地位を維持する領地、財産も段違いなんだ。そんな無理を両親にさせられるもんか。それに、そんなことになったら、のんびり出来ないだろう?だから、子爵でいいと言ったんだよ。」
「こ、この馬鹿!私と結婚したくなかったの?」
「そういうことにこだわる女は、好みじゃないよ。」
「永遠に若くて美しい奥さんが、嫌なの?」
「それがないことは、よく知ってるからね。」
「う~!」
ハイエルフをはじめとするエルフは、子供時代の成長は若干早いが、その後の老化速度は遅くなる。それでも、100歳で30後半くらいに見える程度で、その後は老化が若干早くなる。ただし、生来体が弱いエルフは、100歳まで生きるエルフは80歳まで生きる人間より少ない、150歳まで生きるエルフは、80歳でかくしゃくとした人間より少ない。400歳でも若々しいエルフもいるが、300歳を超したエルフの大半は寝たきりであると言われている。
まあ、そんなことは関係ないけど、ムギが公爵にならないことが分かれば、もう用はないのに、勢いなのかしら?まだ、ここで頑張るつもりらしい。この女は、昔からこうだったわね…。
ところで、私は、そんな前に弟の分家と私が侯爵家を継ぐことが決まっていたことに少しばかり驚いた。
しかし、両王女殿下達は、ため口で言い合う二人に不快そうなのに気がついた。それで、すかさず、
「私達は、小さな頃は仲良く遊んだものだけど、今は、ムギの恋人とはこちらにおられる王女殿下達ですから、邪魔をすべきではないのよ。」
と優しいお姉さんは、フォローしたわよ。
「どうなるかわからないけど、今はお二人に誠実でありたいと思っているんだよ。」
と弟。すかさず満足そうに頷いて、腕を組んでドヤ顔するのは止めてくれませんか、お二人とも。
リカアは、さらに言いつのろうとしたけど、慌ててやってきた、私達の両親達の乱入で、それは出来なかった。
「第一王女殿下、第二王女殿下がおいでになっていると、知らなかったもので…ご無礼申し上げました。」
「リカア。まさか、両王女殿下に失礼なことは、しなかったらだろうな?」
私達の両親とリカアの両親は、ムギに関するありもしない噂話で、相談していたのだろう。だから、リカアがどういう行動をとっていたか心配したのだろう。
「そ、それは…。」
「私達が突然に、お二人の帰省に同行したいと言いだしたせいですから、閣下に非はありませんよ。」
「ご心配なく、マイ様、ムギ様の子供の頃のお話しを聞いておりました。」
二人とも、さすがに場をわきまえているわよね。
慌ただしく、王女殿下達を迎える夕食へと…と言っても、急にそんなことはできるわけがない。
「勝手に、突然に押しかけたようなものですから、気になさらないで下さい。」
と言われて、恐縮するしかないのよね。王家の日常の食事はけっこう質素らしいけど、我が家はそれに加えて質実剛健が加わって…流石にちょっと途惑って、口に合わなさそう。何となく、ざまあみろと思ったりして。まあ、リカアも不満そう、食事に。だから、あんたではダメなのよ!
「ムギの家の全てになれておきたいから…。ね、将来…。」
ランビック王女殿下!止めてよ、両親が卒倒しそうなことを言わないで!なに、あんた睨んでいるの?カンティヨン王女殿下、なんか言ってあげてよ、あなたの妹に。
「ランビック。まだ、先の話なんだから…。私は、平気ですよ。」
もー、あなたまでなに言っているのよー?両親は蒼白?あっちは怒りで卒倒しそうじゃない?ムギ、なに我関せず顔して、ゆうゆうとおかわりしているのよ。




