守りたいもの、妹と国と臣民(第一王女語る)④
私は、敗れた、ムギに、あっさりと、かくもやすやすと。逆上していたとはいえ、冷静さは失ったいなかった…はずだし、一応、妹も同時に挑みかかった、のにだ。一合、僅かに一合剣をまじ合わせただけで、私の手から剣が、彼から渡されたムサシが、なくなって、地面に音をたてて落ちた。妹のヤマトも、同様だった。
彼は、闘いはこれからだ、と言った。私は、マイも、ランも同様だったろう、我を失っていた、油断していたとはいえ負けは負け、彼の勝利を認め、彼の条件を受け入れるつもりだった。
が、それを彼は拒否したのだ。本当は納得していないだろう敗北は受け入れられない、全力で身体強化を目一杯に、魔力も全開で、3人で連携をとって、殺す気で、身体強化も魔法も使わない、練習用の剣しか持たない彼と闘うように要求してきたのだ。
屈辱ではないか?私は、もう彼を殺すつもりになっていた。マイも、ランビックですらそうだった。
「分かったわ。あなたの望みどおりにしてあげましょう。確実に、あなたを殺してあげます。」
怒りと殺意と屈辱感に頭は支配されていたが、後から考えても、この時、意外なほど冷静さを保っていた…と思う。
彼は、私達に詠唱をする時間さえ与えた。無詠唱よりも魔力を高め、魔法の効果を、少なくとも5割り増しはできるからだが、時間がかかり、その間、当然隙ができるから、また、闘いの動きを止めなくても、やはりそうでない時と比べて動きが鈍る、気をとられて同様な結果になるから、戦士としては禁じ手ではあるが、彼は敢えて許した。何と、闘いの最中に、より高めようとした時にすら、詠唱を唱える余裕を与えてくれたのだ。
彼の服は、私達3人の魔法攻撃、剣で、蹴りや拳でボロボロになっていった。かなりの攻撃が、雷撃、風、衝撃の斬撃が彼に炸裂した。かすめただけとはいえ、剣も、拳も、蹴りも彼に届いている。かなりを受け流し、剣や剣、足で防いだが、それでも、かなりの打撃を受けたはずなのに、彼は喜々として、闘いを愉しんでいた。私達は、完全に弄ばれていた。
魔法斬撃を、渾身のそれを放ち続けながらも、私達は本当は防戦一方になっていた。マイが、彼の剣で首のところを何度も触れられるという行為で、その精神的屈辱で動きが止まった。ランビックは、彼の拳を受けて動きが止まった。ラン!大丈夫…、何、頬にキスされて、ぼお~として抱きすくまれて…真っ赤になっているのよー!
最後は、私と彼の一騎打ちになった。“私だけのもの…。”そのあまりにも短い時間の中で私は、感じていた。魔力もすべて消費し尽くし、身体強化どころか、体力は立っていることでやっとのこととなっている私の頭に、軽く彼の剣が当てられたのを感じた。目の前に、優しげな彼の顔があった。
「あなたの負けです。カンティヨン王女殿下。」
頭が真っ白になって、呆然としている私の耳に、
「王女殿下!大丈夫ですか?」
駆け付けてきた、私の護衛達の声が響き渡っていた。
もうムギの言うままの私達は、彼が私達3人と試合して、30分立っていられたら、ランビックとの交際を認めると言って、彼がそれを受けて、防戦一方ながら、彼は30分間立っていたということになるのを、どうすることもできなかった。私達3人の服装の乱れ、汚れはほとんどなく、彼は服もボロボロになっていたから、さらに、
「きつかったですよ。」
と座り込む、彼の三文芝居もあって、何とか納得されることになった。
ムギがボロボロになっていることもあって、本当は余力いっぱいだったはずだが、私達は王宮に連れて行かれることになった。護衛達には、既になにがしかの指示が国王陛下からあったのだろう。
とりあえず病室に連れていかれたムギ、連れ添うということで、マイとランビックが、そして、私だけが、王宮奥の特別室で、国王陛下と侍従長と対面して、ことの経緯を説明することになってしまった。迷惑千万この上ないことだった。
「な、何と、そんなことでランビックとムギ殿の交際を認めるということになったという訳なのか?」
思わず豪華で重い椅子を倒して立ち上がった父上を、侍従長が宥めるように座らせて、
「ランビック様は、交際をいつでも止められることができるわけですな?」
と期待を込めたように問いかけてきた。
「そうです。でも、ランは真剣にムギ殿と交際するつもりですから、少なくとも、彼に失望したりしない限り、連れ添うことを前提にお付き合いするつもりだと思います。」
私は、努めて冷静に、静かに、言葉を選んで説明した…つもりである。
「全く、お前達は何を考えているのだ。お前がついていながら…。そ…ああ…うほん…それにだな、シヨウチユウ侯爵家のご長男が、危うく死ぬかもしれなかったのだぞ。彼が同意していたとしても、重大事になったのだぞ。」
後半はとってつけたものだ。確かに、云うとおりではあるが、彼があの様に強くなければ発生しなかったのだ。あ、これも言っておかねば。
「私も、ムギ殿と真剣な交際をすることになりました。ランビックも、了承しています。姉妹共々、ご心配、ご迷惑をお掛けしますが、お許し下さい。」
「はあ~?」
「は?」
2人の呆けた顔は、見ていて面白かった。
ただ、この時は彼のそばにいる妹のランビックが羨ましいとか、私も早く彼のもとにいきたい、彼を今独占している妹に嫉妬するということはなかったし、するとも思わなかった。交際はしてやろうとは思っていたが、適当に、程度にしか思っていなかった、いや、そう思おうとしていたのかもしれない。




