守りたいもの、妹と国と臣民(第一王女語る)②
私は、リコル王国第一王女、ビイル・カンティヨンである。第一子だが、八歳年下の弟が王太子になっている。そのことに、不満は持っていない。私は、父国王、将来国王となる弟を助け、南北に長い100万㎡㎞以上広さの国土を持つ、農鉱工業の豊かな、この島国とそこに住む約5000万人の臣民を守ることこそが自分の使命だと研鑽してきた。
内外共に平穏で、ここ数代の国王は、父国王もまた、時代の趨勢に合わせるため、微温的、姑息だと非難されるものの改革を進めてきたし、まずは成功していると言える。あらゆる産物を生産し、優れた工業品を製造し、オルハルコンやミスリルなどの魔法鉱石の低品位鉱石や屑鉱石の製造技術を確立また、神樹の保護と利用を両立させて、領土拡張によらない国力拡大、民力向上を果たしてきた。が、内外に迫り来る、あるいは暗躍する危機がうごめいている。私は、早いうちに何とかすべきだと考えているが、父国王をはじめ、動きは鈍すぎる。だから、私は自分の騎士団を創設して、その危機に対処したいと考えているいるし、強く、賢くなるため研鑽を続けてきた。それを、誰も分かってくれない。
そして、妹のランビックは、そんな私を意識するあまり、自分を見失って、力ばかりを望むようになり、私は心配していた。我が国の二大剣術流派のうち、わざわざ私と異なる、やや少数派の流派を選び、最初から分かっているのに、闘い方が地味な傾向にあることで、私より実際よりも見劣りされて見られていると悩む始末だった。
それが、王立魔法学院への入学後、私の好敵手であり、親友のシヨウチユウ侯爵家第一子、長女のマイの弟で長男のムギとの出会いから少し変わってきた、いい意味で。
そのムギだが、最初に出場した武闘大会校内戦で、準決勝戦進出、不戦敗、と言う成績であり、準々決勝での勝利は、私をして見直させるものがあった。
彼は、品行方正なのだが、金に関して悪い噂が出る。一度目は無罪放免になったが、2年になり、武闘大会本大会を一般枠からの出場を行い、それ自体は無謀だが問題があるとはいえなかったが、ここでも金の悪い噂がたった。多額の賭け金を手に入れている、という噂だった。
「自分自身の勝利に少しばかり賭けたが、その結果、大多数が自分の負けに大部分が賭けたため、儲けてしまったのであります。」
というものだった。
そもそも、彼のことを告発というが、密告してきたのは、大金を賭けて、大損した、日頃から行動に問題がある者ばかりだった。彼から借金を断られたり、さらにそれに腹を立てて、襲撃して返り討ちされた者すらいた。
「彼は、私達の騎士団の支度金にもと…。あ、その上、再洗礼派教会本部にも大金を寄付したし、王立アカデミー、魔法科学協会にも芸術協会にも、寄付しているのよ。」
とランビック、“私達の騎士団”ですって?マイが危険だからと、彼の一般枠からの出場を断念させてと懇願した時も、まるで、恋人の勇姿を見たいような態度だったと言うじゃない。最近のあなたの頭の中、腐ってきていない?
「仕送りが足りなくて、弟から借りていると言うか…。両親から言われている交際のために、けっこう…。あいつも両親への私の増額要求を支持してくれて…。」
贅沢よりは質素で、きっちりしているマイも、こうしたことのせいか、金の噂では弟を擁護した。ランビックが少し自慢気に擁護する彼の金の扱いには、確かに感心しなくもないが、少し不安と不快感も感じた。多額の寄付の件で、今回も不問になったが。私も、ランのためにも弁護にまわったが。
ただ、不快感は彼との準決勝戦の当初の態度に出てしまった。彼を軽く見て、そのように扱おうとしたのだ。
本大会準決勝戦で、彼と対戦した当初の数分間で、私は思い直した。妹と同じ流派というだけでない、彼女と似た剣筋、そして、一歩も退かずに、私の剣を受け止め続けた、彼は。私は、いったん互いに動きが止まった瞬間をとらえて、非礼を詫びた。その後、身体強化も目いっぱいにして、剣を打ち込んだ。それでも、彼は私に勝ちを与えなかった。
「私の騎士団に入らない?」
闘いの最中に囁いてしまった。
「既に、ランビック王女殿下の騎士になることを、約束いたしましたから。」
彼の言葉は、当然だった。彼は、そう言わざるを得なかったし、それを言わなかったら、私は妹を侮辱されたと思い怒り、そして彼に失望したろう。それなのに、それがひどく腹立たしかった。
私は、攻撃の手を緩めるどころか、一層強めた。だが、彼は今一歩のところで、踏みとどまった。今まで私は、圧倒的な勝利を得てきた。それ故に、私の騎士団を作るという希望も、門前払いされなかった。それが崩れてしまったら、私の言うことを誰が聞いてくれるだろうか?国のためとか言っていないで、身の丈にあったことを…、と言われて、相手にされなくなる。妹も、国も、臣民を守ることはできない、単なる傍観者になってしまう。
私は、もう彼を殺してでも、はっきりした勝利を見せなければならないとしか、思えなくなっていた。剣速も、身体強化も、電撃魔法も、もっともっと、とあげ続けていた、後先見ずに。観衆の声も、私の殺意がいっぱいになった闘いに酔った感じだった。それが私に感染して、最悪の悪循環に陥った。
其れでも立って、私の剣を受け止める彼に、完全に殺す、と渾身の力、魔法力を込めた一撃を見舞おうとした、その時だった。私の前に、妹のランビックが立ち塞がっていた。
「お姉様!止めて!」
私は、妹がムギを庇って、楯になっていることをはっきり認識していた。が、攻撃の手を止めなかった。間に合わなかったのではない。ムギもランビックも、ともに殺す、殺してやる、とはっきり思っていた。私からランビックを奪ったムギを、私のムギをうばったランビックを、憎しみを持って殺そうとした。私の剣には、攻撃には迷いはなかった。全くな理不尽な感情だったが。
気がつくと、ランビックに覆い被さって倒れているムギがいた。
「ムギ!死なないで!」
という声が聞こえてきた。その後のことは、よくおぼえていなかった。気がつくと、侍女達の不安そうな顔が目の前にあった。




