守りたいもの、妹と国と臣民(第一王女語る
「シヨウチユウ侯爵家ムギ殿、同席してよろしいかしら?」
私は、久しぶりに一般学食にやって来た。そして、一人で食事をしているシヨウチユウ侯爵家長男にして、第二子のムギの対面の席に、彼の許可、同意なしに座った。安いが、量中心の食事を注文し、受け取って、ここに来たのだ。ちなみに、私の隣には不満顔で、仏頂面の親友で彼の姉のマイがいた。私は、彼をチラッと二三回程度しか見ていないから、彼女に導いてもらったのだ。
「これは、カンティヨン王女殿下。姉上も…。よくおいでなさるのですか?」
「そう思いますか?」
「私も毎日ではありませんから…ただ、その時には一度もお見受けしておりませんでしたから。」
「あ、座って、食事を続けて下さいな。」
立ち上がって、直立不動になっている彼に言った。彼は、素直にそれに従った。
「でも、上級学食の方では、あなたを見かけたことはありませんが?」
「その時は、持参の弁当で、中庭で。」
「ああ、妹が一緒に中庭で…と言っていたのはそれでしたのね。羨ましいですわね、私も一度は…。」
彼は、私が微笑んだのに合わせて、微笑みを浮かべた。だが、私がここにいる意図を図っているようだった。まあ、当たり前ね。まあ、見たところは、悪びれていない、穏やかそうな顔…、真面目そう…他はなさそう…良きにつけ悪しきにつけ。私は、内面を見透かすように、本当に見透かしたかったのだが、見つめた。
「妹のランビックがお世話になっているようですね。あなたのことを、よく口にしてますよ、嬉しそうに。」
「はあ?それは、光栄です。」
「あなたは、唯一、自分が勝てなかった相手だったと。」
「私の防戦一方で、時間切れで…、それにランビック王女殿下の勝ちですよ、いつも、判定勝ちでは、ありますが。」
「彼女が判定勝ちでしかできないのは、あなただけなんですよ。」
「そうなんですか?」
人の良さそうな彼は、確かに品行方正、真面目、成績は座学、実技とも、一応上位、問題行為もないし、悪所通いもほとんどないが、悪い噂もチラホラある。
「悪いけど、放課後、私の寄宿舎に来てちょうだい。手続はしておきますから。」
そそくさに、不味い食事を平らげて、唖然としている、その時はそう思ったが、彼を置いて席を立って、背を向けて、その場を後にした。
彼のことは、学生自治会長から相談があったのだ。侯爵家の長男であるし、さらに、第二王女である、妹であるランビックの関係者であるから、流石に一般学生に対するのと同様な扱いはできないから、ということだった。私は、快諾した。私には、妹を守る義務もあるのだ、だから、当然だった。
「まあ、そんなに緊張しなくてもよいのですよ。」
と言ったが、女性、それも身分の高い貴族の、の宿舎で、私と妹の室の応接間に、私と学生自治会長と副会長、書記が私の横に座って、彼と対面しているのだから、緊張せざるを得ないだろう。
て、ランビック?何で、あなた、当然のように彼の横に座っているの?
「はあ?私が講義のノートを見せて、謝礼をとる商売をしている…ですか?それはですね、初めは、写させてくれと頼まれれば、快く貸していましたよ。でもですね、見てしまったのですよ。彼らが、それを可愛い女子生徒に渡して、あるいは、貸す約束、まして、私から手に入れてやると約束して、感謝されているのを見たんですよ。ですから、1セエンで貸すことにしたんです、悔しくて。だって、可愛い女性に感謝されるのは、悔しいじゃないですか?」
彼の顔が、少しだけ歪んだ。ランビックが、彼を抓って、足で蹴ったのだ。声にも出さず、顔にもほとんど見せていなかった。当然な顔で我慢する彼も彼だけど、その彼に恋人のような反応を、ランビック、してるのよ!
銃や剣を売っているとか、若い芸術家から謝礼を貰って知人に紹介しているとかを、優しく詰問した。
「伯爵や侯爵方から頼まれてのことで、制作も譲渡も許可を受けていますし、材料費と少しの手間賃をもらっただけですよ。あ、現物、今後の材料ということで、いただいたこともありますね…。それに彼らには、金を多少渡したり、食事おごったりしてるだけで、それに、彼らの発表する機会をあたえただけですよ。彼らは、父の知人で、父からも言われていましたから…。それは、彼らから聞いてもらえば分かることかと思いますが。」
彼の弁明は、それで納得されたし、私はした。
「ラン。あなたったら…。」
と皆が帰った後、お茶を飲みながら、彼女を揶揄うように微笑んでやった。
「な、何か誤解してない、姉上は?」
「え、何をかな~?」
「もう~!」
王女として、少なくとも貴族の平均の室に、という願いは聞き届けられなかった。ただ、最上級ではない部屋で、持ち込む家具は最小限、住み込みの侍女は二人ということで我慢した。妹とは同居ということも何とか、了承してもらった。彼女も、私に対抗意識を過剰に持っていたが、その点は従順で、二つ返事で同意してくれた。
その年の武闘大会校内戦で彼女は準優勝。決勝戦ではマイと激戦を繰り広げて敗れた。ここまで成長しているとは、思わなかった。マイも、
「二年前の私だったら、勝てなかった。」
と本心から言ってくれた。
彼の弟、ムギは、準決勝戦不戦敗で、一応ベスト4に入った。一応、優勝候補の上級生相手に勝利してだった。ランは、ますます彼を、自分の作ろうとしている騎士団に入れようと、彼を気に入ってしまった。彼の名を口にすることが、日々増えていった。
また、彼が妹の騎士団候補者達との会合に、問題になった、新進の演奏家などを招いていた時に出くわして、その素晴らしい演奏などを聞くことになった。そして、発表の場を得られた喜びの表情も見たし、彼の彼らへの配慮ぶりからも、彼らを使っているというのではないことも感じた。
私を追って、私を意識しすぎて、力を求めすぎる彼女を心配していたが、彼との出会い、存在からか、少し、丸くなったというか、余裕を感じさせるようになってきた。
それが少し寂しくもあった。妹を守り、臣民を守る、国を守ることを使命と感じているはずなのに。




