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「リローデッド・ドール」

「相棒として……でも僕のゲームスキルはあれしか見てないですよね」


 東条さんの言葉に思わず返してしまった。


 でも考えてみたらそうだ。僕のゲームスキルなんて、さっきのシューティングゲームしか見せていない。加えて凡ミスして最終面まで行けなかったんだ。


 フィクロがなんのゲームかはわからないけれど、あれを見ただけで僕に相棒を頼むのは間違っているとしか思えない。もっと他にいい人もいるはずだ。


「うん。あれだけ。でもあれだけで十分だよ。フィクロ……フィギュア・クロニクル・オンラインは君の反応速度が生きるゲームだから。だからお願い! 私と一緒にプレイして!」


 まだ日は出ている。周りに通行人だっているのに、東条さんは大きな声でそう言って、深く頭を下げてきた。おかげで周りから注目を浴びてしまう。


 視線が気になってパッと周りを見たが最後、『哀』『怒』『不快』など負の感情が僕の方に突き刺さった。これで断れば、更に悪印象を周りに植え付けてしまうだろう。


 別に気にしなくてもいいけれど、最悪噂にでもなったりしたら町中を出歩きにくくなるだろう。まして学校にまで広がったら、悪い意味で注目の的だ。


「わ、わかりましたから! そんな大声で言わないで……」


 ここはもう断れない。なだめるように声をかれば頭を上げて明るい笑顔を見せる。改めて彼女の顔を見たが、その笑顔が輝いて見えて不意にかわいいと思ってしまった。


 あまり女性と関わったことはなく、可愛いと思った瞬間胸の高鳴りを感じる。一瞬のことだけど、その高鳴りで僕は顔をそむけてしまった。さっきもそうだけど、改めて僕は女性に対する耐性というのがないのがわかる。


「よかった……それじゃあ入ろう。ここじゃないとゲームできないし」


 満面の笑みでまた手を引き、建物の中へと引きずり込まれた。


「マスター。個人部屋じゃないほう空いてる?」


「おや、トウカ様。予定時間より一時間早いですが……」


 中に入ると喫茶店の雰囲気を出している渋い男性が立っていた。トウカと呼ばれた冬香先輩の言葉からして、ここを経営しているオーナーだろう。


 その人が、トウカさんの後ろにいる僕を見て。


「なるほど。状況を理解致しました。371(サナイ)の部屋が空いておりますので、そちらを案内いたします」


 カウンターから出てくると、丁寧に僕たちを奥へと導く。


 ネカフェと同然ということもあり周りは個室が多い。しかしネカフェよりも静かな空間が広がっている不思議な現象を引き起こしていた。


 店主が立ち止まった場所は、371と書かれた部屋。中途半端な数字だが隣に372や370と部屋番号が続いているからサナイと呼ばれている意味は特にないだろう。あったとしても語呂合わせだろう。


 部屋の中に入ると真っ先に移ったのは、マッサージチェアほどに大きな二つの椅子。後ろにある機械からするにはそれではないだろう。


 ただ初めてネカフェの家族ルーム的なところに入って少しびっくりしてる。


「あれが今から使うゲーム機。フルダイブ技術を導入した機械だけど、作りが複雑でそこまでは普及してないの。だからフィクロをプレイするにはここに来るしかないんだよね」


 店主と話し終えた先輩が、僕が見ていた物の説明をしながらそれに座った。


「ほら、君も座って。ログインとか教えるから」


「わ、わかりました」


 彼女に言われるまま僕も残った椅子に座る。座り心地はというと、良いとは言えないけど悪いとも言えない。ただ座っても何も起きない。こう、座った瞬間からバーチャル世界が広がるとか、電子メニューが開かれるとか想像していたけれど。本当に何もない。


「はいこれ」


 横から差し出されたのは、剣を二つ携えた小さなフィギュアがついたUSBメモリ。なんでこれを渡されたのかよくわからず、理由を尋ねた。


「これは?」


「ログインキーにもなる職業メモリ。フィクロはこれを使うことで漸く成立するの。とりあえず右の肘当てにあるスロットに差し込んで、私の後に続いて」


「はあ……」


 それを使うことで成立するなんて想像もつかない。けど嘘を言っている目ではないし、そういう色も映っていない。ここまで来たからには彼女を信じなければ失礼だ。


 USBメモリを受け取って肘当てのところにあったスロットに差し込む。それを見ていたのか。


「それじゃあ、私に続いてね? ……リローデッド・ドール!」


 叫んだと同時に隣から電子音が微かに流れる。しかし気にしている暇はなさそうだ。僕もその言葉を叫ぶ。


 直後、僕のほうにも電子音が一瞬流れる。けれど直ぐに意識が遠のき、気づけば水色で広がる世界にいた。


──プレイヤー情報を確認中……


――初回ログインを確認しました。初回登録を行います。


 突然脳内に女性の単調な電子音声が響いてくる。もちろん周りを見ても誰もいない。強いて言うなら本当にVR世界の入口だ。


――登録完了しました。続いてユーザー情報を登録します。


 そのアナウンスが流れると、目の前にホログラムで描かれた人物が数体現れる。背の低い人から、体格の多い人まで。種類が豊富だがこれの意味が分からずにいると。


――種族の登録を行います。任意の種族を選択してください。


 どうやら目の前のホロは種族選択らしい。それぞれ近くに行けば種族名がわかるようになっていて、左から順に。


 森の自然にて生まれた長寿種族〈エルフ〉

 大地の力を身に着けた低身種族〈ドワーフ〉

 人と龍の奇跡が宿る種族〈ドラグマン〉

 叡智を集め困難に対抗する種族〈ヒューマニア〉

 悪に染まり悪に終わる種族〈エニグマデビル〉

 数々の力を借り戦場を駆ける種族〈スピリッツレイド〉

 

 系六種類。それぞれ固有スキル、個別のステータスが存在するようだがそれがどういう風に影響するのかはわからない。正直どれを選べばいいかもわからないが、僕のゲーム経験から選んだのは――


「ミカミ君はスピリッツレイドかー」


「属性補正が高くて、複属性を組み合わせて使えますから」


「すっごく扱いにくいって評判で選ぶ人あまりいないんだけどね」


 初期設定を終わらせて降り立ったのは泉がある町の広場。ここが初期のスポーン地のようだ。ただ、種族を選んだのに、ぱっと自分で確認した限り、自分は緑のマントを着て腰の後ろに二本の剣を携えた状態だった。


――というか、この姿、まさかフィギュアの?


「気づいたと思うけど、このゲームの職業はフィギュアに属するの。ミカミ君は〈ハイランダー〉だよ。私は〈騎士〉。もちろんノーブル……職無しもあるけどね。さてと、あとは戦闘だね」


 フィギュアを使うことで成立するゲーム。その意味がようやく分かった。多分他にも影響はあるのだろうが、それはきっとおいおいわかっていくだろう。


 そんな出来事を経て、僕は彼女の手助けをするようになった。

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