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「僕はフィクロを辞める」

 現実へと戻ると先輩の姿はそこになかった。荷物はそのままだし、扉が開いたままだから飛び出していったことは一目瞭然だった。


――これでいいんだ。


 そう自分に言い聞かせながら椅子から立ち上がって息を吐く。


 スロットに刺さっているハイランダーのフィギュアを引き抜き目線の高さに持ってくる。もう最後。会うことも、使うこともない。一度見つめて心の中で別れの挨拶を唱え、先輩の荷物の上に乗せてから部屋を出た。


 廊下にも先輩の姿はない。こうなってしまった以上別に気にすることではないが、荷物だけそのままにしておくのはどうしても気が引ける。受付の方へと足を運ぶついでにマスターに言うことにした。


「おや、ミカミ様。先ほどトウカ様が外へ駆けて行かれましたが」


「あー……気にしなくていいです。あ、僕二人分払うんで、東条さんが戻ってきたらよろしくお願いします。東条さん荷物だけ部屋の中なんで」


「承知いたしました」


 イケてるおじさんマスターに了承を得て、支払いを済ませる。いつも短時間利用だからそこまで痛くはなかったが、二人分となると中々財布に大ダメージだ。これも仕方ないと割り切ってそのまま帰ろうと、店を抜けた刹那。目の前に褐色肌が夕日に照らされ、妖艶な質感が際立っている茜さんが行く手を塞いだ。


「少年ちょい待ちぃ! 二人揃って急にログアウトしてどないしたんよ!? つか何帰ろうとしてんねん!」


「別にいいだろ」


「よくあらへん! 理由をちゃんといえや! てかトーカは一緒じゃないんか!」


 色を見なくても声色で怒っているのが伝わってくる。立場が一緒なら僕だって怒るから、怒りたい気持ちもなんとなくわかる。


 申し訳なさで顔を見れないが、なるべく表情に出さないで冷たくあしらうように返事を返す。


「東条さんのことは外に出たっきりで知らない。でもそのうち戻ってくると思う。荷物あったし……ごめん茜さん。通して」


「通さへんわ! トーカのことは、まあ一旦置くけど、急にログアウトした理由聞いとらんし!」


「言えば通してくれる?」


「回答による!」


 どうしても通させてくれない様子。正直先ほどのことがあって僕の気は立っているから、素直に通して欲しかった。それでも理由を言えば通してくれるっぽいから、抱えている気持ちを吐き捨てる。


「……僕はフィクロを辞める。楽しい時もあったし我慢してたけど、考えてみれば今まで先輩のエゴに突き合わされてただけだし、自己満を満たすために協力してるのも馬鹿みたいになってきたから。これで納得しないなら突き飛ばしてでも通らせてもらうよ」


 我ながら酷いことを言っている気はしている。でも他人を傷つけたくはないから、これで理解してくれると助かる。故にちょっとだけ殺気に似せた雰囲気を放ち、返事を待った。


 目を合わせないようにと下を向いていたからこそ、彼女自身の拳が強く握られているのが見える。多分何かの悔しさや言いたいことを押えているんだろう。途端その拳にため込まれた力がふっと消えたのも確認でき、同時に彼女の言葉が静かに響く。


「……そうか、わかった。何があったかは聞かんけどそれが少年の道っちゅうなら、止めはせん。でも言わせてもらう。トーカは確かに自己中やけど、人を見る目は確かや」


「それを聞いたところで僕は戻る気もないし、辞める気持ちは変わらないよ。それじゃあ」


 少し冷たくし過ぎた気もするけど、変わらないのは事実。綺麗さっぱり忘れていつもの日常に戻りたい。誰かを信じて裏切られるくらいなら、誰にも干渉されないで一人の方がまだいいんだ。


――元々僕は一人。これでいいんだ。誰かに裏切られ傷つくことも、誰かを傷つけることもないから。


 別れを告げる際にふと彼女の顔を見てしまった。そこには怒りというより悲しみの表情が浮かんでいて、見えた色は悲しみの青色が強く見えた。

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