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「フィギュア・クロニクル・オンライン」

「フィギュア」を使ってログインしたら、それに受肉するっていうゲーム。例えばビルドファイター○みたいな。

ぜひ楽しんでくれたらと思います。不定期連載ですけど面白かったら評価、感想とかよろしくお願いします。作者喜んじゃうので。


それではフィギュア・クロニクル・オンライン~ハイランダーと美少女騎士の軌跡~、サービス開始です

「ミカミ君! そっち行った!」


 全身鎧で包まれた女性が、相手をしていた六足の鹿が僕――ミカミこと水上誠(みずうえまこと)の方に足を運び始めたことを大声で伝えてくる。


 声の主を辿ると人が縦に三人積んでも足りない大きさを持つ鹿が、太く大きい角を地面スレスレまで下げて大地を削る勢いで走っている。


 足全てに移動速度強化の魔法陣が展開されているのが見える。推定五メートルの巨体ではありえない速さで駆け肉弾と呼べるほどに減速の言葉を放棄していた。


 その行動は、HPが残り一割以下に行う無差別的起死回生攻撃。といっても闘牛さながら一直線疾走だから、狙いやすくこちらとしても非常にありがたい。


 冷静に敵の状態を確認した後、「了解」と声を返して僕はすっと腰を落とす。腰に携えた剣の柄を逆手で握って、MPを流し込む。


 距離は五百、四百、三百。六足の足にかかった移動速度強化魔法により、深く息を吸ってる間に間合いの三十メートルへ到達していた。


 一見近いように思えるけどバチっと電気が弾ける音が響くと同時に、僕の足は瞬く暇もなく前へと進む。速さのあまり、ゆっくりに見える鹿の頭を上り背を走れば闇雷(やみいかづち)の一閃が僕の動きに付いてくる。


 動体へ達すると僕は剣を突き刺す。深く、深く。何が何でも外れないように深く差した。


 闇雷ノ怒リヴィートン・ストライク


 闇属性の中でも使いやすい確率即死効果の付いた闇属性の攻撃、闇ノ霹靂(エクル・スラッシュ)に速度重視の雷属性を乗せた移動系スキル。二つの属性と効果故にクールタイムに時間かかるし、要の即死効果の確率は低くく実質雷属性の攻撃。単属性だけで使えば気にしなくてもいいけど、複属性補正で攻撃力が高い。


 鹿の魔物のHPは、そのスキルで減らせるくらいまで減っているのだから、倒すにはこれしかなかった。


 刺したまま、切り分けるように切り開く。痛みでか鹿は叫んで振り落とそうとしてくる。そうはさせるかと切り開いた肉の隙間を狙って突き刺しすと、鹿の動きが次第に遅くなり倒れた。


 立ち上がる気配はなく、鹿のHPは表示されないことから討伐に成功したことが決定図蹴られた。


「勝利の~ブイッ!だね!」


「正直大変だったけど……」


 鎧の兜を脱いだ女性――さらさら銀髪の猫耳美少女――が、レイドを終えたことに片手でブイサインを作っては満面の笑みを浮かべて、見つめてくる。


 僕の目に映るウインドウにも、確かにレイドに勝利したことが派手に映し出されていた。




 ******


「ミカミ様、いらっしゃいませ」


 学校帰りの町の路地の中を僕は歩き、入ったのは外見も内見も一見して落ち着いたカフェにも思える建物。


 ドアに手をかければカランカランとドアベルが心地よい音色を奏で、イケてる渋いおじさんマスターの野太い声で歓迎される。


 僕()がオンラインベースと呼んでいるこの場所は、ネットカフェの機能の大半がなくなった場所をそのまま利用した施設。ここでしか遊ぶことが出来ないゲームがあって利用者は全員それが目当てだ。


 合言葉のように僕はこう言った。


「いつもの場所で」


371(サナイ)……ですね、かしこまりました」


 OB(オンラインベース)の施設内は小部屋が数えきれないほど用意されており、大半は客が入っている。


 そんな中僕が頼んだ場所は個室ではなく、家族部屋。本来は団体で使う場所なのだが、ここ最近は371号室ばかり使っている。


 マスターの案内の元、たどり着いた部屋の扉を開けると、得意げに仁王立ちしている女性が立っていた。僕が団体部屋だけを使うのは彼女の為だ。


 逆にその人にとっては僕のためにこの部屋を選んでいるとも思えるが、詳しくは聞いたことがないから知らない。


「遅いよ、ミカミ君」


「約束の時間ピッタリだと思うんだけど東条(とうじょう)先輩」


「のんのん。私が遅いと言ったら遅いんだよ!」


 元気のいい声で僕の耳を貫いてきたのは、先程から仁王立ちしている東条冬香(とうか)先輩。煌めく黒い深淵の短髪に泳ぐ、浅葱色のメッシュが特徴的。誰もが羨む美貌を持つ女子高校生。兼今から僕らが行うVRMMORPG『フィギュア・クロニクル・オンライン』通称『フィクロ』の元トップランカーだ。


 つまりこうしてここに僕と先輩が集まったのは、そのゲームをプレイするため。決してやましいことを考えたりはしていない。そもそも僕と先輩は今はそんな関係ではなく、言うなれば師弟関係なだけ。


 そう言い切れるのは、先輩の色に恋愛感情の桃色が全く、『楽しい』が反映された黄色で埋め尽くされているからだ。


「あ! 早く始めないとレイド始まっちゃうよミカミ君!」


「わかってますよ」


 相変わらず楽し気な師と日々こうやって合流しては、鍛えてもらっている。ただ今回は僕の育成よりも滅多に現れないレイドに興味が引かれているようで、勢いよく部屋の隅にある備え付けの大きな寝椅子に身を預けていた。


 僕も後を追うようにもう一つの寝椅子に寝転がった。


 右肘乗せ部分にある()()()()()に、灰色のフィギュアに取り付けられたUSBを露出させ突き刺す。

 横目で見ているからわかるが先輩も灰色のフィギュア。僕のとは違って『騎士』をモチーフとしたものを刺していた。


 一息吐いて、前に集中する。身体の全てを椅子に預けながら、フィギュアを鍵を開錠するように右に回す。


 直後機械の起動音が頭部の上から弾み、VR世界にダイブするための機会が首元に巻かさる。これで準備は整った。僕らは口を揃えて叫ぶ。


「「リローデッド・ドール!」」


   ******


『フィギュア・クロニクル・オンライン』


 それは五年前に特定のフィギュアを使った真新しいVRMMORPGとして世界に広まったゲームだ。


 VRヘルメットよりも特殊な機材を使うため、ネットカフェを元に作られた『OB(オンラインベース)』でなければプレイ不可能であり、それが故にプレイヤーが少ない問題も発生しているが、制作十年経った今でも制作は行われているため、プレイヤーは少しずつ増えている。


 それでも実質プレイヤー数の規制がある状態であることには変わりなく、オンラインゲーム特有のラグやサバ落ち(ゲームサーバーが処理落ちして一時的にサーバーの機能が停止すること)がまずないのが、このゲームのメリットだ。


 プレイするための特殊機材というのが、僕と、先輩が寝ている椅子。それの肘乗せ部のコネクタ穴にUSBを露出したフィギュアを刺して、リローデッド・ドールと叫べば、フィギュアのメモリ情報と、寝ているプレイヤーの情報を読み取ってゲームが開始される。


 ログインしたてはいつも視界がチカチカと白く瞬くけど、その後に広がるのは彩鮮やかな世界――エルグドラシル。


 プレイヤーに様々な体験ができるようにと、自由なゲームで種族も豊富だからこその世界。ゲームの設定的に言えば、それぞれの種族同士均衡を保っている――世界の敵である魔物はまた別――というのが正しいらしい。


 ただこのゲームのデメリットというのが、プレイヤーにのみ使える『ジョブ』や一部『キャラ』。これらはフィギュアによって決まると言っても過言ではなく、かといって課金者とは差がつかないように、ちゃんとプレイスキルやレベリングを上げれば、どれもそれなりには強くなる。


 ちなみに僕は、先輩から譲り受けた『職業(ジョブ)・ハイランダー』を使っている。曰くあんまり手には入らないけど、初心者向けの職業だとかで。


 いや、譲り受けたというより、押し付けられたんだ。結構強引だったけれど、あの時の先輩の色を見てしまったばかりに――

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