プロローグ 二人の決断
よろしくお願いします。
〈冬夜〉
俺こと氷室冬夜には幼馴染の許婚がいる。
名前は涼川美夏。
この文面を見ると、羨ましいと思うオタクが多くいるだろう。
確かに自分でもどこのラブコメだと思う。
けれどラブコメのような展開はまだ続く。
彼女とは幼稚園卒園から会っていないのだ。
幼稚園卒園までは家が隣で、まさにラブコメのように一緒に過ごしてきた。
だが、彼女の父がグローバルに経営を展開する企業の幹部だったこともあり、彼女は小学校に上がる前にイギリスへと行ってしまった。
それからはずっと手紙のやりとりをした。
初めに送ったのは彼女が海外に行ってすぐの時だった。覚えたてのひらがなを使い彼女へと手紙を書いた。今にして思えばとてもくだらない内容だったと思うが、それでも彼女から返事があり、彼女との繋がりが切れていないことを感じられ、嬉しかった。まあ許婚なのだから切れるはずはなかったのだが…
当然中学に上がった頃にはお互いスマホを持っていたが、俺達は手紙でのやりとりを続けた。
なぜそんな面倒なことをしたのか?
理由は単純だ。
中学の頃にはガッツリとオタクへと変貌していた俺が{手紙の方が君のことを感じられて嬉しい}とクソ恥ずく、イタイ厨二病のようなことを言ったことと、簡単に写真が送れてしまえる環境が自分にとって都合が悪かったからだ。
はっきり言おう。
中学時代には自分はかなりの隠キャのオタクだったと思う。
まず見た目からして隠キャの手本のような見た目をしていた。前髪は鼻先まで伸びて目を隠し、さらに眼鏡をかける。自分でも自覚のある目つきの悪さは人を寄せ付けないオーラをあふれんばかりに感じさせるだろう。
当然友達なんてほぼいない。
幼稚園からの腐れ縁である、南風原光樹ただ一人が友達と呼べる存在だろう。そしてこいつが俺をオタクにした張本人でもある。まあ元から俺がオタク気質だったこともあり奴と仲良くなったのであろう。類は友を呼ぶとはこのことだろうか…
女友達なんておらず、モテることなんてもはや幻想だ。
一ヶ月前のバレンタインで年齢=チョコもらえない歴を絶賛更新中である。幼稚園の頃は彼女もバレンタインなんて知らなかったようだし、しょうがないと言えばしょうがない。
でも一つ言い訳させて欲しい。
思春期真っ盛りの男子が高校まで会うことのできない子との遠距離恋愛を許婚であるが故に強制されるのだ。当然辛い…かなり…。
その結果、俺が現実の女子でなく二次元の女子をこよなく愛するオタクになったのも必然のことであるといえよう。
彼女の方も同様だったのか手紙ではたびたびアニメや漫画の話が出てきていた。
グローバルな世界に感謝すべきか日本の漫画やアニメは海外でも見れるものが多い。彼女はそういったものを見ていたようだ。
だからであろうか、彼女が日本に帰国する前の最後の手紙にこんなことを書いてしまったのは…
{久しぶりに会えるのはすごく嬉しいけど、会話がうまくできるかわからないから、お互いの今1番のオススメ作品を顔合わせの時に持ってこない?}と…
再度言うが俺はオタクだ。
クラスの女子と会話なんて挨拶と業務連絡くらいなもんだから会話がもたないと思うのは当然のことだろう。だからこんなことを言ったのだが、今にして思えば後悔しかない。
彼女との手紙の中で出していたのは主に少年誌の人気作などオタクでないものでも読む人が多いものや人気ライトノベル等である。
つまり自分が一番好きな美少女がたくさん出てくる系のアニメなどの女子受けが若干悪いような作品についての言及は避けてきたのである。
彼女もオタクなんだから言っても問題はなかったのかもしれないが言わなかった。とゆうか言えなかった。オタクならばこの言語化の難しい、悪いこともしてないのに黙っていたくなるこの感情が理解できるだろう。
結果自分が今一番ハマっている作品であり、彼女に勧める作品選びに難航する。
自分が今一番ハマっているのはハーレム系ラブコメであり、大人しめの女の子が主人公に振り向いて欲しくて奔走する中でいろんな女の子が出てくるいう話であり、ハーレム系にしては珍しく女性視点であり話題となっている作品であった。当然ハーレム系なので割とエロ多めである。心理描写は神と言ってもいいが、これを勧めるわけにはいかない。
となると最近、話題となっている小悪魔系女子と先生の恋を描いた作品であろうか。小悪魔系の子が天然な先生を落とすために頑張る話なのだが、天然な先生のたまに出てくるかっこよさと天然のギャップが多くの女性ファンを魅了し、また小悪魔系な子の頑張る姿に男性ファンが萌えると言う男女とわず人気がある作品であった。
自分は小悪魔系はそこまで好きなわけではないのだが脇役の地味目な子がタイプで読んでいた。主人公が女の子のラブコメという点では同じなのでこの作品を勧めることにした。
後々この決断に自分が後悔することを今の自分は知るはずもない…
〈美夏〉
私こと涼川美夏には幼馴染の許婚がいる。
名前は氷室冬夜。
この文面を見ると、妄想を捗らせる夢女子が多くいるだろう。
確かに私自身もラブコメなのかと思うことがある。
だがラブコメのような展開はまだ続く、私は幼稚園卒業と同時に海外へと行くことが決まり、それから彼とは会っていない。
私がもう少し大きかったならば日本に残るという選択肢もあったのかも知れないが妹もいたし仕方のないことであったのかもしれない。
これで彼との繋がりもなくなると私は思っていた。当時は彼が許婚なんて知らなかったし、理解もできなかっただろう。彼は海外に引っ越してからずっと手紙を私にくれた。小学校に上がり習ったばかりのひらがなを使った手紙を読みながら彼との繋がりが切れていなかったことに安堵した。
それからもずっと彼との手紙のやりとりは続いた。わざわざ手紙にするまででもないくだらない話でも彼からの手紙がきていることが嬉しかった。
というのも、私は引っ越してから友達というものができなかった。小学校に上がるときに海外に行った私は全く言語がわからなかったため友達ができるはずもなかったのだ。
幸いにも話し相手に困ることはなかった。養女として我が家の家族となった私の妹、涼川実がいたからだろう。
彼女は妹というよりは世話係として私と接しようとした。親や私が望んだわけではなく彼女自身がそうすることを望んでいたようだ。
そのため、私が本当の妹のように可愛いがることはあっても、彼女が私を実の姉として接することはなかった。だが、中学にもなると多少接し方にも変化があり、姉妹のように接することもあった。
そんな私の妹が漫画やアニメを勧めてきたのが私が夢女子となり、腐女子にもなった原因と言えるだろう。
彼女なりに友達ができないことに気を使ったのか、単に自分が話したかったから私に勧めてきたのかは今となってはわからない。
そのようにして中学に上がる頃には立派なオタク女子(腐)になっていた私は見た目も地味になっていた。服にお金を使うのがめんどくさかったことと、陽キャな女子たちに目をつけられたくなかったからだ。
彼女たちは目立つ女子も地味な女子もどちらも気に食わないようで、少しでも集団から外れている者たちを見ては陰口を言っていた。
私も言われていたようだが、気にならなかった。
話し相手には妹がいるし、学校において彼女たちに力を借りる必要がなかったからだ。
中学に上がる頃には堪能に英語を喋れるようになっていたにもかかわらずあっちで友達ができなかったのはそれ故だろう。
だからこそ彼が手紙がいいと言ったのは私にとって都合が良かった。見た目は地味な上、友達もいないような姿を彼には見せたくなかった。
だが今となっては友達ができなかったことはむしろよかったと言えるだろう。高校からは日本の家へと帰り姉妹二人で暮らすことが許されたのだから。仮に友達でもいたらこちらに残ることを迷ったかもしれない。
日本で姉妹二人だけで生活することに許可が出るほど家事スキルと生活スキルを高めて、親を納得させた実には本当に感謝しかない。
このことを彼に手紙で伝えると彼からの返事にはこのようなことが書かれていた。
{久しぶりに会えるのはすごく嬉しいけど、会話がうまくできるかわからないから、お互いの今1番のオススメ作品を顔合わせの時に持ってこない?}と…
さてここで問題で発生である。
私もオタク女子として作品を勧めることには何の抵抗もない。しかし今一番ハマっている作品が問題である。
端的に言えばBLだ。彼ならば別に気にしないとは思うがなんというか勧める気にはなれなかった。男子高校生同士のものだったし…
そこで普通に女子が好むような王子様系のイケメンと根暗だけど紳士的な隠れイケメンが主人公を取り合うようなまさに夢女子が好みそうなものを勧めることにする。
この作品は王子様系と根暗なイケメンどっちを選んだ結末も毎週おきに見れるのが受けて徐々に人気を伸ばしてきていた。
陰陽祭(王子を陽、根暗を隠)という人気投票を行い勝った方だけボイコミが出るという企画を半年前から二ヶ月おきに行っていた。
結果は3回中3回陽だったこともありメインは王子系と言う認識がついてきていた。
かくいう私は毎回隠に入れている…
とまあ割と最近人気があり勢いもある作品であるため彼が引くこともないと思いこの作品を勧めることに決めた。
もういっそBLを勧めておけば、すれ違いはなかったのにと後から後悔することを私は知らない…
明日の18時に冬夜視点の1話目公開します。
稚拙な文章かと思いますが感想、評価等いただけたら嬉しいです。