1 目が覚めたら
どうぞよろしくお願いいたします。
目が覚めたら。
悪役令嬢だった!
まさかそんなわけないと思いもしたけど、悪役令嬢に間違いない。
だって、「自分は悪役令嬢だ」ってわかったのだ。
自分の名前がすらすら言えるように、もしくは自分は人間だと揺るぎなく言えるように。自分は悪役令嬢である、と。
それに、今目覚めたベッドは体が沈むくらいふかふかで、二人か三人寝れそうなほど大きくて、視線を泳がせれば西洋を想像させる高貴?そうな壁紙に、アンティークのような調度品。ここは昨日眠りについた、日本の一軒家の二階の二段ベッドの下ではない。
つまり今意識するまで自分は悪役令嬢などではなかった。それもわかってる。そうじゃないと悪役令嬢だ、なんていちいち思ったりしないからだ。
ではなぜ悪役令嬢になったのか。
それを願ったから。
異世界でもいい、転移でもいい、転生でもいい、とにかく悪役令嬢になりたかったから!
と。
強く願いはしたものの、その理由は実はそんなに大したものではない。優等生でいることに疲れたから。フリをしていた訳じゃないけど、たくさん頑張りすぎた気がしたから。
医者になりなさいと言われて嫌じゃなかったから一生懸命勉強して医学部進学率の良い学校に入学したけれど。そう無理もせず学年で三番あたりを二年生の今日に至るまでキープしてきたけれど。
何か疲れたなって。たまには悪いことしたっていいじゃないかと。
そう思ったのだ、僕は。
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