緑夜 樹(りょくや いつき)
もうここまでくると最後の攻略対象者も出会うんだろうなと薄うす勘づいている。とは言っても残りの一人も二年だ。見ず知らずの、しかも先輩とどこで出会うというのだろう。おまけに緑夜 樹は部活にも入っていない。
緑夜 樹は秀才タイプの穏やかな好青年だ。
茶髪、緑目に銀縁の眼鏡をかけて、なんというか安心感がある。絶対幸せにしてくれるタイプだ。成績もよく学年一位を取っている。彼と出会うなんて図書室くらいのものだろうか。そんな彼も時折眼鏡からコンタクトにするというギャップもちだ。
(このゲーム制作者ほんとギャップ好きだな)
なんとなく腹黒属性まで入れてきそうだとか思っちゃうのは私が毒されているのだろう。
(まあでも図書室さえ避けていれば出会うことはないでしょう)
そう思ってた時期も、ありました。
放課後、学園近くのゲームセンターで、ばったり。
私はうっかり、ゲームセンターを見つけてしまい興味本位で中を探検していたのだ。そんなときちらりと同じ制服の男子生徒を見かけて愕然とする。
彼がコンタクト姿だったので一瞬誰だか分からなかったが、その茶髪の色と背の高い後ろ姿を見て慄いた。
(ええ、ゲームの中の人物がゲームしちゃうってあなた)
彼は音ゲーを夢中でやっていた。
得意そうだけれども!
こっそりと気づかれないように彼のそばを横切ろうとした。あいにく通路が狭く、出口に向かうにはここを通るしかないのだ。
(私は見ませんでした)
というわけにはいかなかった。
後ろをそっと通り過ぎようとしたのに腕をぱっとつかまれた。
「君、その制服、秋月学園の一年生だよね」
ああ、うちは学園名までコテコテですね。
彼は私の制服を見てすぐに気が付いたようだ。緑夜 樹のきりりとしたエメラルドの瞳はまっすぐにこちらを見据えている。制服で来るんじゃなかった。
「ゲームセンター、はいっちゃ、だめだよね」
ちょっと目を眇めてこちらをまっすぐ見つめてくる姿に不覚にもどきどきする。
(ゲームセンター入っちゃダメなのはあなたもなのでは……)
共犯……まさかこのパターンまであったとは。
弱み……握られました。
「ちょっと話しよっか」
手をぐっとつかんだまま、俯き加減の緑夜 樹がそのずば抜けた頭脳で今何を考えているかなんて凡人の私にはわかりません。
ぐいと強引に腕を掴まれ物陰に連れ込まれる。
…………
…………
ええ、そんな、まさかの。
…………
スマホの個人情報押さえられました。
緑夜 樹はいい笑顔だ。