蒼弓 泉(あおゆみ いずみ)
私はおとなしくしてるので、もう主人公にも他の攻略対象にも会うことはないでしょう。
と思っていた時期もありました。
放課後、廊下を歩いていて新入生部活勧誘で声を掛けられた。
横を振り返ると、なんと攻略対象の蒼弓 泉だ。
彼はクールで無口なキャラであり、人と話すのは苦手としているのに、新入生勧誘に駆り出されてかわいそうだ。
彼はその長い蒼色の長髪を髪紐で一つに括り、切れ長の紫の瞳を持っている麗しい人物だ。その清廉な美しさは女生徒の視線を自然と集める。きっとこの見た目から勧誘係として駆り出されたのだろう。
弓道部の衣装を身に着けた彼はためらいがちに声をかけてきた。彼の引き締まった体躯に弓道着が良く似合っている。格好良さが際立つ。
「もしよかったら、これから弓道部の見学にこないか?」
遠慮します、といいたいところだが、どうやら彼には新入生を集めてくるノルマがあるらしい。ちょっと見るだけでいいからと引き留められる。
一人に声をかけるのもつらいだろうに、かわいそうだ。
そして、こんな目に毒なほど綺麗な顔の人に頼まれて、どうして無下にできるだろう。
……つい、見学だけならということでついてきてしまった。
シナリオの強制力で何が起こるかわからないし、部活は入らないようにしておきたいので、最終的には断る前提なのだが。
ひゅん
目の前で弓を射っている蒼弓 泉は何というか、清廉な美しさがある。
改めて苗字の安直さに思いを馳せる。くろきやみも大概だが、蒼弓もそのまんま過ぎませんか。覚えやすくていいけれども。
ふう、と額の汗を拭うさまはにじみ出る色気がある。その眇めた流し目はこちらを見つめる。彼は色気担当なのですね。
(これは……人気出そうです……。人気ランキングの一位二位争いをしてそうですね)
「どうだったかな、弓、ちょっと触ってみる?」
そう言って私に射らせてこようとする。
私の手をにぎってぎゅっとしてくる。その綺麗な指と男性らしい筋肉のついた腕にどきどきしてしまう。距離も心なしか近いような気もする。
(おやめください。たまたま通りがかった桃山先輩に矢があたってしまうとかの万が一が起こるかもしれませんから)
私は必死に遠慮しようとしたが、彼はすっと私の腕に弓矢を握らせ、後ろから弓の位置を確認する。
距離が、近い。
ドキドキしてしまう。