桃山 月(ももやま るな)
ゲーム「AKIの名月」の主人公である桃山 月と悪役令嬢、黒木 闇の最初の出会いは入学式の放課後だ。
入学式を終えて昼ごろに帰宅する一年生と、昼休憩をとる二年生がばったり出会うなんてそんな天文学的確率を飛び越えて二人は出会うのだ。桃山先輩の昼食事情が心配である。
下駄箱を出て校門までの道のりを周囲に気を配りながら歩く。本来ゲームではこのあたりで二人は遭遇する。
(桃山先輩、来ないでくださいね!)
ここでうっかり、偶然にも、桃山先輩がやってきたらそれこそ奇跡的にぶつかって先輩の大事にしてたシャーペンが私に盗まれてしまうかもしれないのだ。
「きゃっ」
どん、と衝撃が走って、声を上げたのは桃山先輩だ。昼下がりの陽光を反射して二つ結びにされた桃色の髪はきらきらと光り輝き、愛らしい顔立ちに金色の瞳が映えていていかにも主人公だ。明るく天真爛漫でとても可愛らしい。
(ああ、出会ってしまった!)
桃山先輩はしりもちをついて、こちらを見上げている。その表情はきょとんとしてとても可愛らしい。
私は立っているので、昼の太陽の逆光で顔が黒く犯人のように見えていないか心配だ。
「大丈夫ですか? ごめんなさい」
私が心配して声をかけると先輩は首を横に振った。その表情は明るい。
「ううん! 大丈夫」
なぜかここで奇跡的に先輩のポケットからペンが何本も地面に転がりそれをあわてて拾っていた。シナリオの強制力は物理の法則を凌駕してくる。このポケットゆるゆるすぎないだろうか。
私も拾うのを手伝ったが、この瞬間でシャーペンを盗んだことにされないか胸がどきどきする。桃山先輩に顔を覚えられてしまうのではないかとはらはらしていた。
(それにしても……やっぱり出会ってしまったということはある程度はストーリーに沿ってしまうのね)
入学初日で主人公に出会ってしまうなんて、これから先が不安になってしまう。