黄晴 星(きはる ほし)
入学してすぐのクラスは距離感を測ってどこかよそよそしい空気が流れる。
二度目だというのに記憶自体ほとんど持ち越していないものだから不安が止まらない。
自己紹介の時間に、同じクラスに、攻略対象の一人である黄晴 星を発見する。彼のルートには私は関わらないから気にしたこともなかったわ。
黄晴 星は金髪、橙目のツンデレ、茶目っ気のある弟系キャラでなおかつファッション不良という、キャラ要素がこれでもかと詰め込まれたキャラである。いつもキラキラしてて元気いっぱいだし、まるでやんちゃな猫のようだ。
そんな彼は入学初日だというのにもうすっかり緊張感というのをどこかに置いてきたようだった。さっそく横の席の男子生徒に積極的に話しかけている。
そして困ったことに出席番号が黄晴と黒木で隣り合ってしまっていて、私の席が彼の後ろになっている。前の人生ではよくいままで気にしないでいられたものだ。彼の金髪はかなり目立つというのに。
そんな彼がプリント配るついでに話しかけてきたのだ。二重でくりりとした可愛らしいその顔立ちに思わずどきりとする。橙色の瞳は人懐こさを感じさせるきらめきを宿していた。
「黒木さんて下の名前、何なの?」
何気ない世間話のような空気感で声を掛けてきた。
彼はずいぶんフットワークが軽い。これはもてるだろうなとぼんやりと思う。
「闇だよ」
正直ゲームに関わる人物とは極力接触したくはない。どきどきする。
「へー、めずらしーね」
彼はきらりと目を輝かせた。
私は思わず笑顔がひきつる。
いくらゲームだと言っても他のキャラはまあまあいるかもしれない下の名前をしている。それなのに私だけ(くろきやみ)なんてストレートにもほどがある。見るからに明らかに悪役だ。若干のコンプレックスを感じる。
「じゃ、ヤミィって呼ぼうっと」
黄晴 星はさらっと言ってのける。その顔は満面の笑みだった。笑顔が眩しい。きらりと白い歯が見えた。
んん? 笑顔が眩しい?
おもわず黄晴 星を二度見する。
えっと、……きみ、ツンデレでしたよね。
……ツンはどこに置いてきたんだろう。
(って違うか! ツンデレは主人公専用だよね。私は悪役令嬢だった!)
「俺のことも、星って呼んでいーよ」
さらっと流れるように下の名前呼びを許されたが混乱が止まらない。
(「俺」って言っちゃうんですね。設定では「僕」っていうはずなんだけれども)
もはや設定とは別人になっちゃいますよ!
キャラ、崩壊。
バグが本領発揮してくる!