臨海学校
ああ。ついにこのイベントが来てしまった。
七月のまぶしい日差しを浴びながらも私の心は沈んでいた。
秋月学園は山の上にあって周りは木々で覆われているものだから、水泳の授業はまとめて秋月ビーチで行うのだ。
海の家で二泊三日集中的に水泳合宿を行う。
ここで、黒木 闇は事故に見せかけて桃山 月を溺れさせ、離れ小島に漂流させる。
そこの小島にたどり着くのが、現段階でもっとも好感度の高い人物だ。
(何度でも言いましょう、絶対もうしません!)
溺れさせるとはおそろしい。もはや殺人の域だ。ちなみに前回の人生の黒木 闇はクラゲをつかって桃山 月を溺れさせている。
秋月ビーチには神々を祀る祠があちこちの小島にあるため、離れ小島といってもそう遠いわけではないが、わざわざ行く人もいないだろう。もし見つからなかったら満潮時になって大惨事だ。
「あれ、ヤミィ元気ないね」
黄晴 星が柔軟体操をしながら話しかけてくる。
泳ぐ順番は手間を省いたのか出席番号順だ。
出席番号順に泳いで設置された岩の周りをぐるりとUターンして帰ってくるものだ。ビーチは広いので、学年クラスごとに一斉にスタートできる。
「うん、海にはあんまりいい思い出がなくて……」
黒木 闇は設定上もちろん泳げるが、自分の犯行現場というのはあまりいたくないものだ。何が起こるかわからないし。
「そっか、どんまい! 次、俺の番だから行ってくる!」
黄晴 星は、おー!と気合を入れて海に飛び込んでいった。
その姿はどんどん小さくなっていく。彼はスポーツ万能タイプだから水泳も得意なのだろう。
そうぼんやりと思っていると不意に声をかけられた。
「やあ」
もう振り返らなくてもわかるその声に、ゆっくりと振りかえった。
秋月 白が穏やかに微笑んでいる。もはや攻略対象並みに会話している気がする。
「次だねー、泳ぐの頑張って」
わざわざ応援に来てくれたようだ。
「ありがとうございます。先輩も頑張ってくださいね」
私の返しに秋月 白は目をぱちくりさせた。
「あれ、もうそんなに可愛いこと言ってくれちゃうの?」
水平線の向こうから折り返してこちらに向かって泳いでくる黄晴 星の姿が見える。さすが運動神経がいい。ぶっちぎりだ。
泳いでいる黄晴 星の姿がだんだん近づいているのをぼんやりと見ていたら秋月 白は意味ありげな目で見つめてきた。
「次、闇ちゃんの番だね! どきどきするね」
私の名前、教えていただろうか……?




