月下白露(げっか しらつゆ)
絹糸のようになめらかな純白の腰元までの長い髪に、ぴょこんと突き出たふさふさの白い狐耳、白い装束を纏って、月下白露様はこちらを見ていた。その琥珀のような色の瞳はつり目なのにどこか優しい雰囲気を漂わせている。
「すまぬ。ここは人の子の立ち寄らない区域ゆえ、少々気にかかってしまった」
月下白露様の白い装束からはみ出た狐のしっぽは、しゅんと地に落ちている。
(しっぽで感情を表現するとか可愛すぎます!)
私は胸の高鳴りが抑えられなかった。
呼吸が苦しい。
「人の子よ。憂いておらぬか?」
その吐息のような低い声はとても耳に優しい。耳が幸せになれる。
思わずほう……、としてしまう。
ふと公式設定を思い出して、必死に背中の遠足用リュックの中をまさぐった。彼はたしかお供え物が有効なのだ。彼に何かプレゼントしておきたい。
(何か甘いもの……甘いもの……!)
月下白露様が立ち去る前に、一刻も早く甘味を差し出さなくては。迅速な対応が求められる。この方は蜃気楼のように儚く、一瞬で姿を消してしまうのだ。
(あ……あった!)
リュックの中にチョコレートがあった!
ゲーム内では月見団子だったが、これでもいいだろう。
なにせ、彼は大の甘党なのだ!!!!
「あ、あの! よろしかったらこれ、どうぞ!」
(私は好きな人には貢ぐ女だ。遠足に持ってきた三百円分の菓子なんてすべて捧ぐ。このチョコレートも喜んでくれるはず!)
「んむ? なんだこれは。菓子か?」
くんと鼻を震わせ、狐耳をぴくぴくさせる。狐耳はふわふわで触り心地がよさそうだ。
(ああ、ありがとうございます! 最高です!)
目の前の月下白露様は嬉しそうに目を細めている。
超絶可愛い!
「ん、ありがたくいただくとしよう。人の子よ、殊勝なことだ」
装束袖口の中にそっと大切そうにしまい込んだ。口元は緩めている。どうやら大層満足してもらえたご様子。
そんな姿を目に焼き付けながら、設定を思い返した。
(そうか、この山がラストに中秋の名月を見に来る場所だ!)
つまり月下白露様はここに住んでいるのかもしれない。
…………
がさがさがさ
後ろの方を茂みをかき分ける音がする。
「迎えか。よき」
月下白露様はそれだけ言うと、さあっと陽炎のように消えていく。なんて儚い存在なのだろう。
(ああ、行かないでええ)
かわりに後方からは人の気配がする。振り返ると、生徒会長、赤月 烈が漆黒の髪に葉っぱを引っ付けて登場した。




