プロローグ
「黒木 闇! お前を桃山 月をいじめた罪で退学にする!」
全校集会で私は生徒会長の赤月 烈に断罪されていた。
彼の血のように赤い瞳は怒りに燃えている。親の仇かのように憎々し気に眉間にしわを寄せているのは、彼が主人公である桃山 月を愛しているからだろうか。
しんと静まり返った体育館で、私は立っていた。
徐々に周りの生徒はひそひそと陰口を立てる。
明るく元気で人気者の桃山 月はみんなから愛されていた。
私は一人きりで立っているような感覚に陥る。
あれ。
どうして、私。
彼女をいじめていたんだろう?
…………
そして意識を失った。おそらく卒倒したのだろう。
気がつくと、白い何もない空間にひとり……。
「あれ、ここは?」
私、黒木 闇はさっきまで体育館の全校集会で、クラスメイトの桃山 月をいじめた罪で、断罪され退学するところだったはずだ。
私の近くには、精霊のような丸い球がふよふよとウィスプのように浮いている。
『それはあなたの巻き戻る時間の中でのバグでしょう』
妙に機械的な声が、自動翻訳ソフトのような口ぶりで語り掛けてくる。
随分と分かりづらい言い回しだが、言いたいことはなんとなくわかる。
「バグ?」
私が尋ね返した刹那、脳内に直接情報が流れ込んできた。どうやら声の主は説明することを放棄したらしい。
流れてきた情報によると、私のいままで現実だと思っていた世界は実は乙女ゲームの中だそうだ。
私はその中のメインヒーローの悪役令嬢だ。
……そしてこのゲームはバグを抱えているらしい。
つまるところ不良品だ。
そしてこのゲームの人工知能AIで、ゲームマスターの『AKI』というのがこの丸い球の名前らしい。
『バグはあなたを移動させるでしょう。それは大きな死です』
相変わらず言い回しが分かりづらい。
ええと、私が死んだらセーブデータまでループするそうです。
『ハッピーが止まりに向かうでしょう』
つまり私がハッピーエンドになったらループが終わるのね。
私は光る球をあきれた目で見上げた。
「……貴方が一番心配だわ」
正直ゲームマスターが一番バグってるように見える。大丈夫だろうか。
【ロードしています】
「あの、何かきこえるんですが」
『もうすぐあうるね』
もはや言えていない。
ああ、もう、心配しかない!