よろしくね。そして、さようなら。
昨日の一件は、クラスのみんながこぞって出て行ってくれたおかげで俺が高西にやった事は知られてないらしい。
お陰様で誰とも関わらず、特別なイベントも無い平和な1日が過ごせそうだ。
…と、思っていた。
「蒼輝君は実はすっごい人だって事みんなには知ってもらえなくていいの?」
こいつは堀北茜。
クラスどころか学校1の人気者だ。
理由はめっちゃ顔が良く、スタイルもモデル並みで、性格も非常にいいからだ。
そして俺とは真逆の世界を生きる光の者で、一生縁のない存在だと思っていた。
なのに…
「ねえ!聞いてる?」
「あぁ…聞いてるよ。」
何故か俺は堀北と関わりを持ってしまっている。
教室には先生が黒板に字を書く音だけが響いている。
いつもなら高西達がうるさいのだが昨日の一件以降めっちゃ大人しい。
だがそれよりも。
おかしい…
堀北が俺とめっちゃ関わろうとしてくる。
そもそも俺と関わって楽しいか?
自分で言うのもなんだが、俺結構無愛想だし、陰キャだし、見た目だって目が隠れるくらいの髪の毛の長さで超根暗そうだし。
俺と関わっていい事あんのか?
取り敢えず何故関わるのか問いただしてみようと思うのだが、俺はコミュ障が故そんなことができないので諦める。
まあ長くは続かないだろう。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…
チャイムがなった。
どうやら授業が終わり昼休みのようだ。
考え事をしていて時間をすっかり忘れていた。
「ねえねえ一緒にご飯食べよう!」
まあ、今更誰がそんな事言ってきているか一々説明しなくてもわかるだろうが、堀北だ。
「なに?」
「いやだから一緒にご飯食べようって…」
「いや俺と食うよりも友達と食べた方が楽しいんじゃないか?」
そう言うと堀北はなんかめっちゃ不機嫌そうな顔になった。
「いや、蒼輝君も友達だし。」
え、そうだったの?
「え、そうだったの?」
「え…」
ヤバい口でも言ってた。
とにかく誤魔化さないと。
「いやーほらあれじゃん?俺友達とかできた事ないから良くわからないやー。」
何故か俺が傷ついた。
「あ、そっか。」
納得された。
「まあこれからわかっていけばいいよ!」
「そうですね…」
きっと心の声が聞かれてたら俺は馬鹿だと思われているだろうな。
「てかご飯一緒に食べようよ!」
押しが強いな。
仕方ない。折れるとするか。
「分かったよ。」
「うん!」
だが周りの男どもの視線が冷たすぎる。
気温は結構暖かいのに寒いよ。
俺こんなにも寒がりだったっけ?
クソッ…キツい。
「なあ俺のことは…」
「うん。誰にも言ってないよ。」
「そっか。なら良かった。」
「それにしてもなんであんなに強いの?高西は中学の時一応空手で全国大会準優勝の実力者だよ?それに柔道とか剣道とかいろんな格闘技をやってて全部相当な実力って聞いてるし。」
あいつそんなにすごい奴だったのか…
「まあ色々あったんだよ。」
「その色々を聞いてるんだけど。」
不愉快そうな顔つきでこっちを見つめてくる。
「悪いが聞かないでくれ。」
「あ…」
何かを察したのかそれ以上はもう聞いてこなかった。
「じゃあ蒼輝君が本気出したらどんなことができるの?気になる。」
俺の本気か…
長いこと本気どころかまともに体自体を動かしてないからわからない。
「さあな。俺も実際のところわからない。まあこんな力を使う機会なんてないからな。」
「そっかー。」
確かに普通の人間からしたら気になるもんだよな。
その時携帯の通知音が鳴った。
「あ、ごめんね。ちょっと待ってね。」
そう言って堀北は内容を確認する。
ん?このスマホ結構古いな。まぁ別にゲームとかしないなら大したスペックのスマホとかいらないしな。
そんなことを考えていると通知の内容を見ている茜の表情がみるみる変わっていく。
まるで怯えているかのような表情に。
どうした?そう聞いてみようかと思ったが部外者の俺が一々何があったか聞くのもおかしな話なので、まあ気づいてないふりをする。
そして落ち着いたのか表情が少しずつ元に戻っていく。
そして…
「そっか…」
そう小声で一言言い捨てた。
まるで何かを諦めたかのような雰囲気を感じた。
「ごめん。今日は早退する。」
いきなりだな…
「え?茜ちゃん早退するの?」
この女の子は堀北の友達か?
「まじ?堀北ちゃんが早退って珍しいね。」
確かに堀北が早退しているところ見たことないな。
それだけさっきの内容が深刻なものだったと言うことか。
「ごめんね」
そう言って教室を出て行った。
(なんで、なんで、なんで!なんでこうなるの!?)
「はぁ…はぁ…」
「やっと帰ったか。お前に話すことがある。」
「私は何度も嫌だと言ったじゃない!なのになんで!?」
「お前には才能がある。この道を進めば将来は安泰だ。」
「私の将来は私が決める。お父さんが勝手に決めないで!」
「これはお前のためになるんだよ。」
「私には昔から夢があるの!ずっとなりたいって思ってきた夢が!」
「お前にはそんなふざけた夢よりこっちの方が遥かにいい思いができるぞ。」
「ふざけてない!私の夢は…医師は立派な職業よ!そのためにたくさん勉強してきたのに!」
「悪いがそんな職業よりこっちの方がよっぽど稼げる。」
「結局はお金の為…そんな腐ったお父さんの欲望のために私は努力しているわけじゃない!」
「もう決まったことだ。諦めろ。」
「なんで…なんで…」
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン…
「さてと、帰るか…」
あー動くのめんどくさい…だるい…動きたくない…でも家には帰りたい…未来から来た猫型ロボットがどこでも○アとかだしてくんないかな?
「ねえ。」
しかしながら家は遠くはないし部活には入ってないが毎日同じことすると大したことない事でも面倒に感じてしまう。
「ねえ!」
家に帰ったらさっさと飯食って風呂入って寝よ。
「ねえって言ってんだろうが!!!」
思いっきり突進してきたので取り敢えずかわしてさっさと帰ろうとする。
「いや今ので明らかに用があることくらいわかるよね!?」
誰だよ無視してる奴…
「蒼輝君のことだよ!」
あ、俺?
そこには身長が140cmくらいの女の子がいた。
堀北の友達っぽいやつか。
「なに?」
「なんで無視するし。」
だって話しかけられることないからどうせ俺じゃないと思って。
「ごめん。」
「まあ今はそんなこといいや。」
じゃあなんで聞いたし。
「今日の茜ちゃんの様子変だった…今まで見たことなかったもん。」
「確かにな。」
「蒼輝君と話してる時だったから何か知ってるかなって思ったんだけど…」
なるほどな。要は俺が原因ではないかと思ってるわけか。
「遠回しに言わなくてもいい。」
「え?」
理解できていないようだ。
「俺が理由で堀北が早退したと思っているんだろ?」
何故バレたし!?みたいな顔をしている。
「だって急に話ようになったし、蒼輝君と話している時に急に早退したし、タイミング的に。」
「だろうな…」
「だから直接話を聞こうと思って。」
まあそんなことだろうとは思ったが、男相手に一人でその話を持ちかけるとは体の割に勇気はあるな。
「で、何をしたのですか?」
あ、俺がなんかやったことは確定なのね。
「なんもやってねーよ。お前の勘違いだ。スマホになんかメッセージ届いてそれを確認したらあーなった。」
「は?じゃあ蒼輝君は何もやってないってこと?」
だからそう言ってんじゃん。
「何があったか知らないが深くは関わらない方がいいぞ。」
「は?なんで?」
怒っているのか俺をにらめつけてくる。
「まず俺たちは部外者だ。その上堀北からしたら知られてほしくない内容かもしれない。俺たちが手を出すことで余計な問題が発生するかもしれない。そもそも堀北が助けを望んでいないかもしれない。それなのに助けようとするのか?」
「でも友達だし…」
「それに助けを求めているかもわからないやつを助けようとするのは、助けるという意味にはならない。」
「どういうこと?」
「お前がそれが正しいと勝手に思って、勝手に手を出して、仮に上手く行ったしても、それはお前が望んだ未来の形でしかなく、堀北が望んだ未来にはならないからだ。それを助けたと言えるのか?」
「うぅ…」
言葉が詰まっている。
だが事実そうだ。
一般的にそれは正しい行いとされるが、一般的なんて何を持って一般と言ってるのかわからない。
助けを求めてない人間を助けるのは果たして助けたことになるのか?
人を助ける自分の姿に酔っているだけで、正しいかどうかの判断もせず、都合よくそれは正しいと勝手に脳内で解釈し、結局は自分のために行動しているだけでしかない。
「でも何もしないなんて…茜ちゃんあんなに辛そうにしてたのに!」
「そうだな。だが忘れろ。そもそもあいつは色んなことをそつなくこなす天才だ。そいつが焦るレベルの内容にお前は何かできるのか?」
女の子の頬には涙がつたっている。
お前は何もしなくていい。
やるんだとしたらそれは望まれている人間だけだ。