西の魔女(シナリオ)
人 物
木村愛梨(29)OL・京都支店勤務
水原崇(29)愛梨の同僚・東京本社勤務
田村秋花(23)崇の妻
藤田千恵(29)愛梨の同僚・東京本社勤務
松田典子(41)心療内科医
小谷美恵(34)崇の看護師
女性社員A(48)
男性社員B(28)
○グリーンヒル・マンション・外観(夜)
○同・愛梨の部屋・中(夜)
ケータイの着信音。
女性らしく整ったリビングで
楽しげに話している木村愛梨(29)。
愛梨「えー、今月は京都出張ないの?
さみしいなぁ。本社のみんなは元気?」
水原の声「みんなって・・・こっちは相当
人数いるからなぁ」
愛梨「千恵は?」
水原の声「あいつは、新入社員教育の必死だよ」
愛梨「そうや、何人か入れたんやね?
可愛い子、いるんとちゃうん?」
水原の声「うーん、どうかな・・・」
愛梨、笑いながら、今月のカレンダーを見る。
愛梨「崇と、香港行ったのって、もう、半年やなぁ。
またどっか行きたい。この夏休み、どう?」
水原の声「うーん、考えとく。また連絡するよ」
愛梨、カレンダーの6月のページを
開いたまま、ケータイを切る。
○平和商社ビル・入口(朝)
京都支店の看板プレート。
○同・社内(朝)
コーヒーを片手にデスクにつく愛梨。
PCの新着メッセージに気付き、開封する。
宛先「全社員」
件名「水原崇さん、田村秋花さん、ご結婚のお知らせ」
コーヒーマグを落としそうにある愛梨。
内容「6月吉日、営業開発マネージャー水原崇氏と、
経理部田村秋花氏がご結婚されることになりました。
日時・会場は下記の通りです」
目を見開いたまま硬直する愛梨。
京都支店内でも、驚きの声が上がる。
すぐさまケータイを持って廊下に飛び出し、
水原に電話するが、通じない。そのまま
他に電話する愛梨。
愛梨「あ、千恵? 今、会社? 何、このメール」
千恵の声「やだ、まだ水原と付き合ってたの?
旅行行ったとこまでは聞いてたけど・・・」
震える愛梨の手。
愛梨「付き合ってたよ。一昨日にも電話あった。
それに、京都来る度に、うち泊ってた。
何なのよ、これ? 誰なん、あの女?」
千恵「今年入社してきた新人だよ・・・」
○京都支店・中(夕方)
営業が外回りから帰ってくる。
女性先輩が、気の毒そうに愛梨の元にやってきて、
声高らかに言う。
女性社員A「愛梨、今日は元気ないねー。大丈夫?」
あからさまに事情を知っているらしいその口調に、
愛梨は口元を押さえる。
○松田心療内科の外観(夕方)
○同・診察室・中(夕方)
松田典子(41)が、カルテを見ながら
愛梨にたずねる。
典子「事前カウンセリングによると、
その事があったのは、1ケ月前だそうね?」
うなだれる愛梨。
愛梨「はい・・・本社はともかく、支店の人は
みんな事情を知っていましたから・・・
プライドにかけて、何気ない顔でがんばってきたんです。
欠勤したり、痩せたりしたらみっともないと思って。
その間に向うが結婚し、ちょっと私の気も
ゆるんだところで・・・」
典子、カルテを見ながらうなずく。
典子「ストレス性過呼吸で、倒れちゃったのよね。
まぁ、原因がはっきりしているから
安定剤と睡眠薬を出しておきましょうね」
愛梨、ちょっとためらいながら、
典子を見つめる。
愛梨「あの・・・先生、私、昔から思いこみが
激しい質で、人より念が強いんです」
典子、首をかしげる。
愛梨「・・・このままじゃ、私、念で彼を
殺してしまいそうで・・・」
典子「それきり、その人からは連絡ないの?」
愛梨、うなずく。
典子「同じ社内で、ひどい話よね」
愛梨、ぼんやりと、
愛梨「そういう人だったのかもしれません。
騙されていた私がバカなんですけど・・・。
彼、口癖で、『オレは事故や災害では絶対死なない』
って自信をもって言ってました。でも、
今思うと、当然かもしれないと思うんです。
彼はそんな普通に死ねない・・・人の念によって
殺されてきた前世とかを憶えているのかも」
典子、ちょっとほほえんで、
典子「実際に殺すわけじゃないんだもん、
今は恨んでやればいいのよ。五寸釘くらいなら
OKだと思うわよ」
典子の茶目っ気のあるコメントに、
愛梨は肩の荷がおりたように笑う。
○グリーンヒル・マンション・外観(夜)
○愛梨の部屋・中(夜)
薬を飲む愛梨。
愛梨「今夜はゆっくり眠れますように」
○夢の中(夜)
知らない病院の中にいる愛梨。
夜中の病院で薄暗くて気味悪い。
と、ある病室から出てきた看護師に出くわして、
慌てる愛梨。
その、色の白い美しい看護師は、
シッと愛梨を制する。
看護師「・・・自業自得よ」
愛梨「・・・え?」
看護師「あなたは単なる被害者。
でも念が強いからこういう形で見えてしまうのね。
でも、見えることが唯一あなたにとっての『
復讐』ってとこかしら?」
病室から誰かのうめき声か聞こえてくる。
ネームプレートには、『水原崇』の名前。
看護師がニヤリと笑ったところで、愛梨、
汗だくで目覚める。
まだ窓の外は真っ暗な時刻。
○弊社商社・オフィス・中
デスクについている愛梨。
書類を片付けたところで、社内メールが来る。
件名「水原MG入院の件」
目を見張る愛梨。
男性社員B「なんやろなー、新婚早々、
この暑さにやられてもうたんかなー、だっさー」
皆がクスクス笑うが、どこか愛梨を遠巻きにしている。
一方、血の気が引く愛梨。
○昭和病院・病室の中
ベッドに横たわり、点滴を受けている水原崇(29)。
そのわきで、ぶすっとしている秋花(23)。
秋花「私の健康管理が悪いみたいじゃーん!
ずっと元気がとりえだったのに、
何で急に倒れるのよー」
水原「・・・夏バテだろ・・・お前は仕事辞めたからいいけど、
オレは山ほどの仕事抱えながら結婚式だ、
新婚旅行だのって・・・」
秋花「なに、なに!? 秋花のせい?」
秋花が色めき立ったところで、
小谷美恵(34)が入ってくる。
美恵「水原崇さんですよね。担当させていただきます、
看護師の小谷です」
水原、軽く頭を下げるが、美恵の色白の容姿に
ちょっと首をかしげる。
秋花「(小声で)ちょっと美人だからって、
チョッカイ出さないでよ。崇はくせ悪いんだから」
水原、秋花を軽くはたく。
水原「つまんないこと言ってないで、
家からオレのパジャマとか準備してきてくれよ」
秋花、美恵に挨拶もせず、プイと病室を出て行く。
水原と美恵の目が合う。
水原「あの・・・どこかでお会いしましたっけ?」
美恵、面白そうに笑う。
美恵「いいえ。そんなことおっしゃってると、
また奥様に叱られますよ」
水原「・・・いや、まいったな」
頭をかく崇。
明るく笑いながら、一瞬鋭い目つきで
水原崇を見る美恵。
○松田心療内科・診察室・中(夕方)
愛梨のカルテから目を上げる典子。
典子「一週間、お薬飲んで、いかがですか?
愛梨「・・・昼間はいい感じにぼんやりしています」
典子「安定剤は眠くなるからね。
仕事中、居眠りしてない?」
愛梨「それは大丈夫です」
愛梨の表情をみて、首をかしげる典子。
何か言いかけおうとする愛梨。
が、言い淀んで話を変える。
愛梨「あの・・・睡眠薬は、もう少し強いのもらえますか?
今のだと、夜中に目がさめてしまって」
○愛梨の部屋・寝室・中(夜)
薬をのんでべッドに入る愛梨。
○水原崇の病室・中(夜)
急にあわただしくなり、
医師や看護師がかけつけてくる。
美恵の冷静な表情。
ベッドに横たわる水原崇の体はもう動かない。
○愛梨の部屋・寝室・中(夜)
ケータイの着信音が鳴るが、
目覚めない愛梨。留守電にかわる。
千恵の声「愛梨、どこにいるのよ!
水原がさっき亡くなっちゃったよ!
投薬ミスだって。今、社内緊急連絡が入って・・・」
すやすや眠る愛梨。
その表情は晴れやかにも見える。
了