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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

棄てたもの返しますね

作者: やまおか
掲載日:2019/08/03

 激しい雨と風が、世界を真っ黒に塗り替えていた。

 ただでさえ薄暗い山の中で視界を奪い、足元を滑りやすくさせる。

 雨傘など用をなさず、レインコートの袖口と襟元をぴっちりと閉ざしてもわずかなすき間から侵入し湿らせていく。


 このような日にわざわざ外に出るのは、物好きかやむにやまれぬ理由がある人間に限られる。

 その男は後者であった。

 彼は追い詰められていた。

 フードの奥で口を引き結び、額にはりつく前髪を気にすることなく一心不乱にスコップで土を掘り起こし続けた。



 雨上がりの雫が濡れた木々から落ちる中、一人の男が山道を歩いていた。

 むせ返るような湿気と木々の匂いに包まれ、ときおり立ち止まっては首にかけたタオルで汗をぬぐいながら周囲に視線をめぐらす。


 彼はこの山の管理人であった。


 中年にさしかかった彼にとって、家の裏に広がる山は子供のころは遊び場であり、いまでは山菜とりなどを楽しむ大切の場所であった。

 しかし、ここ最近、不法投棄に頭を悩ませていた。

 昔は空き缶のポイ捨て程度であったが、だんだんと歯止めがなくなり産業廃棄物から家庭ごみまで大小様々である。

 

 家の解体で出た廃材が土嚢につまれて2トントラック一台分ぐらいまとめて捨てられていたのを見つけたときは驚いた。

 こういった悪質なものは業者による仕業であるが、中にはゴミを出しても回収拒否されて処理に困った一般人が思いついたように山に放り捨てることもあった。


 中には間抜けなものもいて、ゴミをつめたダンボールに宛名書きが張られたままのものがあった。ほかにも公共料金の領収書などを見つけたときには、苦笑を浮かべた。

 おそらく捨てている本人は自身の行為が犯罪だという意識がないのだろう。だから、簡単に身元が分かるようなものをゴミにまぎれこませてしまう。

 

 ひきとりにこさせようと連絡をとると、できごころだったと平謝りする場合はよかった。しかし、反省の色も見せずに開き直り、自分はやっていないとつっぱねる者が多かった。


 そういった種類の人間には警察に連絡するのが筋であるが、それでは腹立ちが収まらない。

 

『山は私有地です。不法な投棄は固くお断りします』

 

 悪質な人間に対しては、張り紙をして投棄者の家に送り返すことではらいせとしていた。



 この日、男はいつもより念入りに見回りをしていた。

 厄介ごとは大抵雨あがりの後にやってくる。それが山の管理をはじめて10年の間に導き出された経験則の一つであった。雨が自分の姿を隠してくれると信じて、面倒ごとを放り捨てに来る不心得者が多いようである。


「……はぁ、たまらねえな。まったく」


 新しい廃棄物を見つけ、大きくため息を吐く。ご丁寧に地面を掘り下げて土をかけてまで隠そうとしている。土の色はそこだけ違っていて、まだ捨てられたばかりらしい。


 しかし、その仕事はずさんであった。廃棄物の中から身元がわかるものを見つけ、犯人の家へと送り返すことに決めた。

 土にまみれ雨を吸って廃棄物を背負うと、ひんやりとした冷たさが背中から伝わってきた。


 わざわざ2つ隣の町から捨てに来たらしく、軽トラにのせて犯人の家を訪れた。

 住宅街に建つ家のひとつで、表札には夫婦の名前が彫られていた。インターホンを押すとスピーカーからはボソボソと陰気な男の声が聞こえてきた。

 

「あんた、山に捨てただろ。だめじゃないか」

 

 苛立ちをこめながら声をぶつけると、途端にスピーカーから騒がしい音が響く。

 

「オレじゃない! オレはやってない!」

 

 悲鳴じみたひび割れた声が聞こえたきり、ぶつりと一方的に切られる。

 舌打ちをして、廃棄物に張り紙をして玄関の前に置いて帰ることにした。

 

『山は私有地です。不法な投棄は固くお断りします』

 

 

 

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