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永久の勇者アヴァロン  作者: アベワールド
第3章 駆け出し勇者
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第三七話「誕生! 悪役勇者・桐生直人」

「竜司先輩! 何故ここに!?」

 直人は素朴な疑問を口にした。

「デュランダルからの指示でね……勇者同士で殺し合っても仕方ないだろ?」

「………………………………」

「君達が“試合”に夢中になって凄惨なことになった場合、俺達が止めに入る手筈になっていたのさ……最も戦いに緊張感を持たせる為に、君達には伏せられていたがね……」

「…………成程」

「今頃、俺の相棒の沙月が、君の“口撃”で精神崩壊したマサラを開放している頃さ……」

「はあ……」

「多分君よりもあいつの方がダメージはでかいんじゃないかな?」

「そうなんですか!?」

 竜司の意外な言葉に直人は素直に驚いていた。

「逆上したあいつが今後君にどうでるか? これは見ものだ! ははっ!!」

 竜司が笑うと彼のトレードマークである八重歯がキラリと輝いた。

 ……イケメンのマスクに爽やな笑顔、落ち着いた声、何より勇者ナンバー1としてのその実力、挙句の果てに……高学歴、高収入、高身長のおまけつき……天地が反転してもこの人はモテるに違いない。

 色んな意味で全く勝てる気がしない……直人は成層圏の片隅で敗北感を感じつつ、竜司と共に地面への降下を開始した。

「所で……」

 その竜司が爽やかな笑顔を崩さずに言った。

「直人君は、勇者・九雅相馬の批判をしたがあれは君の真意なのかな?」

 予期せぬ質問に驚いた直人だったが、こんな所で……(そら)の片隅で嘘を言っても仕方がない……第一彼は命の恩人なのだ……直人は一瞬ためらった後、事実を話すことにした。

「いえ……実は……」

 直人はそこで美晴医師との同衾事件からの経緯(いきさつ)を吐露した……何というか、この人は信用できると思ったのだ。

「……そうか……天堂美晴……彼女がこの件と絡んでいたのか。実は……俺は以前、彼女と会ったことがあるんだ……」

「えっ!? ま……まさか竜司先輩も銀河系ヒールを!?!?!?」

 直人はそこで竜司と美晴医師がくんずほぐれつしている所を想像し、宙の片隅で一人鼻の穴を拡げて興奮した。

「残念だけど……君の望む様なことは何もなかったよ……」

「俺は彼女とは反りが合わなかったのさ」

「そうでしたか……それは勿体無い……」

 直人はそこでいつもの様にいらん一言を付け加えた……戦いを終えた直人は、安堵と共に平常運転の桐生直人へと無事に帰還を果たしたのである……無駄に付け加えると、彼は彼の黄金ボールが自分の下半身に無事に帰還したことに対して何よりも安堵していた……

 竜司はそこで直人の肩をポンッ! と叩いた。

「彼女は体制派の人間なのさ……」

「体制派!?」

 直人がオウムの様に言葉を返す。

 ……以前、どこかで誰かから聞いたことがある言葉だ。

 しかしながら、戦いで憔悴しきった今の直人には、記憶の糸を辿ることができなかった。

「現在の社会規範が壊れるのを恐れている人間のことさ……この世界に疑問を持っているのにも関わらずね…………」

「あれでですか!?」

「ああ……あれでだ……」

 竜司はそう言って首を左右に振って見せた。

「だから酒を飲んで愚痴を言って気を紛らすのさ……社会の馬鹿野郎、会社の馬鹿野郎……上司の馬鹿野郎……ってね」

「もっと踏み込んで言えば、飲まずにはやっていられないのかもしれないな……」

 どうやら美晴医師の酒癖の悪さは、かのブラック企業の中に於いても有名らしかった。

「でもね……」

 何か思う所があるのだろうか!?

 そこで竜司は唇を噛んだ…… 

「酒を飲んで気を紛らしているだけでは何も変わらない……」

「現状に不満があるのなら、与えられた餌に満足していないで、いびつなこの社会を基礎から変えて行く様に努めなければならない……」

「……………………」

「まあ……想像に余りある激痛を伴うだろうがね……」

 ……そうだ、以前にもこの様なことがあった。

 その時も、その人が一体何を話しているのか分からず、全然話題に付いて行けなかったのだ……自分はまだ勇者デビューしたてのヒヨッコで、実際の所まだ何も分かってはいないのだ……竜司先輩の言う“歪なこの社会”に関して……

 竜司の言葉に直人は只黙り込む以外何もできなかった。

「所で……」

 そこで竜司は直人の目を覗き込みながら言った。

「実際の所、君はどちら側の人間なのかな???」

 その時の直人には、竜司の言葉の意味も、その言葉の重さも全く理解できてはいなかった……勿論、直人がその回答を持ち合わせている筈もなかった……


 どれくらい降下していたのだろうか?

 気が付くと彼等の眼下には、激闘を繰り広げた代々木サッカースタジアムが広がっていた。

「さあ……凱旋するとしようか!」

 竜司は話題を切り替えて直人に言った。

「はい!」

 二人の勇者の周りを、彼等を目ざとくみつけたドローンが蠅の如く飛び交っている……

 直人が右手に固く握り締めていた真紅のハチマキを頭上高く掲げた。

 まるで直人の勝利を称えるかの様に、風に乗ったハチマキが大きく広がり、音を立ててまたたいた。頭上を飛ぶドローンに向けて、もはや彼の代名詞となったカメラ目線で応える!

 直人は一言、どうしても言いたかった一言を、カメラ目線で叫んだ。

「俺の勝利だ――――――――――――――――――――――――――――!!」


 ――こうして直人は辛うじて、強敵・獅子ノ目マサラから勝利をもぎ取った……ついでに彼女に握られ続けていた息子の命ももぎ取り返した……

 晴れて桐生兄妹は、下北沢のスライムとの対戦権利を獲得し、直人の終生の家宝である玉の安全は守られたのである……多分。

 なおこの対戦の結果は、直人の予想に大きく反して、広く世にこの様に伝えられた……

 【悪役(ヒール)勇者・桐生直人――精神攻撃で獅子ノ目マサラに辛勝……卑怯ひきょうな戦い方に全世界からブーイングの嵐!】

 報道を見た直人がテレビの前で完全にフリーズしたのは言うまでもなかった。

 後日、兄妹が住む渋谷区南平台町の自宅には、主に子供達から寄せられた“マサラお姉ちゃんをイジメるな!”という趣旨の手紙が、段ボール箱で山の様に届けられたのである。

 一方直人の精神攻撃に屈したマサラは、子供達が良かれと思って大量に送り付けた【恋人探しがんばって♡♡♡】というファンレターを見るや、頭から湯気を噴き上げて白目を剥きながら失神したという……

 こうして直人は、戦いには勝つには勝ったが、スライム戦を前にして彼の“社会死”は早くも確定したのである。

 程なくして新人勇者・桐生直人には、次の様なニックネームが与えられた。


 新人勇者・桐生直人改め、

 悪役(ヒール)勇者・桐生直人。

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