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永久の勇者アヴァロン  作者: アベワールド
第3章 駆け出し勇者
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第三五話「直人 VS マサラ 精神攻撃 VS 物理攻撃」

――樫の木刀を上段に掲げたマサラが直人に突進する。

 一瞬で間合いが詰まる!

 ……速い! 

 パワーとスピード。この二つが組めば並みの剣技など簡単に消し飛ぶ。

 眼前の強敵はその二つを有しているのだ。

『斬撃!』

 マサラが身体強化された肉体で、木刀を上段から振り抜いた!

 ……落ち着け。

 直人は自分に言い聞かせていた……敵にびびっていては戦術も何もない。

 マサラの技のデータも既に頭に入っている……奴の攻撃をバックステップでかわすのは極めて危険だ。

『飛翔魔法!』

 直人の全身から紺碧のオーラが迸った。

 ……今はヴリルの消費を気にしている場合ではない。

 スライム戦のことを気にしていたら、目の前の化け物には勝てない。

 これは命懸けの“試合”なのだ。

 直人が右に跳んだのと同時だった。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 マサラの剣圧が代々木競技場のグラウンドを真っ二つに切り裂いていた。

 ショベルカーがグラウンドを掘削したかの様な窪み――横二メートル×縦一〇メートル×深さ三メートルは抉れているに違いない……

 技の名は――“斬撃”。

 マサラは自身の剣圧で物理破壊ができる希有なゴリラ……ではなく戦士だ。

 剣が直撃すれば勿論即死……肉体は粉微塵に砕け散る筈だ! しかし剣を避けた所で、今度は剣圧による二次攻撃が来るのだ……こちらとて食らえば致命傷は免れない……

 この技があれば攻撃魔法が使えなくても遠距離攻撃が可能という訳だ。

 マサラは近距離はおろか遠距離でも戦えるオールラウンダーだったのだ。

 何という皮肉だ……彼女は“ぼっち”の戦い方に完膚なきまでに適応しているのだ。怪物討伐体数二三体は伊達ではないのだ。

 ……やるじゃあないか!? このぼっち勇者め!

 直人は心の中で毒づいていた。


 ――“斬撃”の直後、獲物目掛けてマサラが跳ぶ……又、俊足で間合いが詰まる!

 彼女はこの試合も短期決戦に出ていたのだ……怪物との戦い方と同じだ……どんな敵だろうと戦い方は変えない……それがマサラのやり方だった……

 着地と同時にマサラが渾身の突きを見舞う!

 ビュウウウウ――――――ッ!!

 身体を左に倒して剣の直撃をかわす。

 しかし……“斬撃”が来る。

 ヴリルを全開放し飛翔魔法で左に跳ぶ。

 直人の僅か数メートル右を、マサラの剣圧が駆け抜けて行った――竜巻を思わせる暴風が、新たな標的目掛けて飛んで行く。

 ボゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 直人が辛うじてかわした“斬撃”がサッカー場の観客席に直撃! 三メートル台の大穴が観客席を穿ち、奥深くまで貫いていた。

 その直後、マサラが直人に肉薄した――“斬撃”に気を取られていたのだ! その距離一メートル。マサラの肉体は身体強化魔法でマウンテンゴリラ並みにパンパンに膨れ上がっていた……

 肉圧に思わず身体が仰け反る……腰が引ける。

 フィジカルのプレッシャーが尋常ではない……直人は命の危険を感じていた。

 ……こいつとの近接戦闘は致命的だ。

 敵はフィジカルの力だけで、俺の手足を紙人形の如く引き千切ることができるのだ。

 この女は間違いなく人間の皮を被ったメスゴリラだ!

『跳躍魔法――――!!』

 直人の身体から大量のヴリルが噴出した……横っ跳びでマサラとの適切な距離を取り戻す。

 ――距離一〇メートル。

『ふう――――っ』

 直人は一つ溜息を付いた。

 握り締めた樫の木刀は、試合開始から今に至るまで中段に構えたままだ。

 ……攻撃に転じる。

 直人はマサラとの距離を保ちながら、剣……ではなく言葉を放った――


『獅子ノ目マサラ、貴様は間違っている!』

 ……脳筋とはいえ、年上に意見を言うのは勇気がいる。

『貴様は腕力で人を操ろうとしているが、それでは貴様が生まれてこの方欲している友達なんて、一生かかってもできはしない!』

『うっ、うるさい! クソガキがあっ! 半人前の玉の小さいガキが何を言うかっ!?』

 マサラは怒髪天だった。

 迸る暗黒のオーラが、周囲の世界を漆黒の闇へと塗り変えて行く。

 直人は元々キャパの少ない彼女の理性が、見る見るうちに擦り減って行くのを肌で感じまくっていた……

 そのマサラが世にも恐ろしい形相で直人に向けて切り込んで行く。

 ……こいつっ……まるで怨念の塊だ……この女は人生の恨みまで全て俺にぶつける気か!? 煽っているとはいえ……とばっちりもいいとこだ……

 ――マサラが大上段から豪快に木刀を振り抜いた。

『飛翔魔法!』

 全力で右に跳ぶ。

 木刀と“斬撃”が、今いた場所を怒りと共に駆け抜けて行った!

 耳を覆いたくなる轟音と地鳴り。

 再び代々木競技場のグラウンドが痛ましく深々と抉られて行く。

 ……こいつがいれば、この世界にショベルカーなどいらないのではないか!? 否、ショベルカーよりも良い仕事をするに違いない……直人の中である種のいらん確信が走った。

 直人はマサラの攻撃を紙一重でかわしながら、剣……ではなく再び言葉を放った。

 全国民からブーイングの嵐が吹き荒れているのがありありと目に見えた直人だった……


『貴様のコミュニケーションの仕方は、貴様がギャングだった頃と何ら変わりはない!』

『な……な……何故、それをお前が知っている!?』

『いいがかりをつける! ゆする! 脅す! だ』

『貴様はそれで人から譲歩を引き出そうとしているが、そんなことで人から引き出せるのは “怒り”だけだ!』

『うるさいいい! 黙れえ、クソガキイ――――――――――ッ!』

『そんなやり方で、今まで貴様の前に真の友人が現れたことが一度でもあったか!?』

『そ、その口、今引き裂いてやるう!』

『貴様は他人を求めながら、心の中に永遠に孤独を抱えて、独りぼっちのまま惨めに死んで行くんだ!』

 ――考えうる限り、ありとあらゆる方向から放たれる“斬撃”の雨あられが直人を襲う!!

 直人はそれらをサイドステップ、ジャンプ、跳躍魔法、飛翔魔法でかろうじてかわしていた。その内数発が直人の鎧を掠めて行った。

 ……バリアを張るのは危険だ……唯のバリア魔法ならともかく、自分の魔法力であの脳筋勇者の“斬撃”を防ぐ自信が全く無い……

 直人は自身の鎧に目を向けた。マサラの“斬撃”が掠った個所は内側に抉り取られ、今も煙が吹き上げている……何たる破壊力……そしてこのアグレッシブな戦い方……正に“狂戦士”の名に相応しい。

 しかし…………

 ここに来てマサラは大きく肩で息を繰り返していた。

 マサラの戦い方も既に分析済みだ……初めこそ良いが五分を経過した時点でその爆発力は影を潜め、ガス欠に陥って行くのだ。

 今まで死ななかったのが不思議なくらいだ……しかもこいつはいつもたった一人で……最もその五分の間に殆ど決着が付いていた訳だが……

 直人の挑発に乗ったマサラは“身体強化魔法”と“斬撃”でヴリルを大量に消費していたのだ。彼等の試合開始から五分弱のことだった。

 ……しかしそれでも接近戦は危険だ……相手がメスゴリラであることを決して忘れてはならない……こいつは魔力無しでも素手で五体を引き千切る力があるのだ。

『黙れえええええ! クソガキイイイ――――! ぶっ殺してやるう――――!!』

 ブチ切れたマサラはガス欠状態であるにも関わらず、自身のファイトスタイルを変えなかった。

 マサラの解き放った特大級の“斬撃”が直人目掛けて飛んで行く……彼女は良くも悪くも出し惜しみをしない女性だったのだ!

 急ぎ飛翔魔法を起動する。

 横に跳んでいたのでは間に合わない!

 直人の全身から紺碧のヴリルが再び大量に噴出した。

 上に――宙へと逃げるのだ。

 直人が宙へ跳んだ瞬間、耳を突く轟音と共に大地が裂け、圧倒的な“斬撃”のエネルキーが彼の股下を駆け抜けて行った。


 ――直人は今、マサラの直上を取っていた。

 その時直人は結果的に上から目線で、彼女が確実にブチギレるであろう徹夜で考えた(とど)めの一言を吐いた。

『何度でも言ってやる獅子ノ目マサラ! 貴様のコミュニケーションの仕方は完全に間違っている!』

『そんなやり方では友達はおろか、貴様が望む“恋人”なんて一生かかってもできはしない!!』

『にゃっっ―――、にゃにいいいいいいいいい―――――――――――――!!』

 ……公の場では“硬派”を気取っているマサラではあったが、ドローンで全世界に“恋人募集中”であることがバレた彼女の羞恥心は並大抵のものではなかった……直人の悪質な精神攻撃によって、彼女の精神はここに来て完全に崩壊した……

『時は来た!』

 直人は股下を飛ぶドローンに向けて、ここぞとばかりにカメラ目線で決め台詞を吐いた……尚この決め台詞も徹夜で無駄に考えた物だった……

 飛翔魔法を解いた直人が、マサラに向けて間合いを詰めて行く――

 一方のマサラは頭を抱えながらその場で完全に固まっていた。

 彼女が小声で繰り返す『……これは悪夢だ……これは悪夢だ……これは』という呟きが、ドローンの集音マイクで拾われて、全世界にステレオで放送されていた。

 マサラの顔は完熟トマトさながらに真っ赤っ赤に染め上げられ、頭上からは湯気が代々木の青空に向けて大量に放出されていた。

『貴様を可哀そうとは思わない……俺の息子を(もてあそ)んだ責任は取ってもらうぞ!』

 直人は事情を知らない人が聞いたら完全に誤解を招くことを、国際中継で平然と言ってのけた……

『死いねえええええええええええええ――――――――――――――――っ!!』

 直人が勇者としてはどうなんだ!? という決めゼリフを大声で吐きながら、マサラの脳天目掛けて木刀を振り降ろした――――!! 真っ昼間に子供には決して見せたくはない、汚ったない試合のお手本の様な戦いがそこにあった。

 木刀は直人の高質化魔法で紺碧に光り輝いている。

 高質化魔法と重力との合わせ技。

 直上から全力で振り抜かれた木刀がマサラを襲う!

 ――その時、マサラが上を向き、目を見開いた。

『えっ!?』

 驚いた直人が、間抜けな声を思わず上げた。

 正に本能の成せる技だった……マサラの闘争本能が全世界を股に掛けた羞恥プレイを上回り、自らの生命の危機に反応したのである。


『殺す!』

 現実世界に帰還した彼女の目には、殺意を伴う激情の炎が宿っていた。

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