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永久の勇者アヴァロン  作者: アベワールド
第3章 駆け出し勇者
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第三四話「謝罪会見 危険な賭け」

 マサラの全身から暗黒色のオーラが立ち昇っていた。

 ここに来て直人の玉が極限まで縮み上がったのは言うまでも無かった……

 そんな彼のパンツ内のコンディションを、まるで見透かしたかの様にマサラが言い放つ。

「玉を掴まれたまま一歩も動けなかった奴が良く言うな!」

 ……果たして玉を掴まれた状態で動ける奴などこの世にいるのだろうか!?

 玉は着脱自在なファスナー付きのフードとは訳が違うのだ。

「上等だクソガキ! その勝負受けてやろう!!」

 マサラが自身の穿った大穴の前で吠えた。

 直人がそれに応える。

「これで決まりだ! スライム戦の前に俺達の戦いをブッキングしろ! デュランダル!」

 ……玉の恨みを晴らしてやる。

 直人はマイクに拾われない様に小声で呟いていた。

「但し、条件がある」

「その条件を聞こう!」

「仮にこの私が負けた場合、貴様等にスライム戦の権利を譲ってやる……まあ万が一にも無いがな……」

「そしてここからが本題だ」

 邪悪に歪んだ表情でマサラが言う。

「私が勝った後で、今度こそ貴様の“玉”を公衆の面前で握りつぶす!」

「両方だ!!」

「は…………はい!?」

 直人は予想だにしなかったその条件に間抜けな返事をした。

 観客は皆が皆、悪の権化と化した直人が、この条件を受けることを待ち望んでいる様に見えた……彼等の浮かべる薄笑いがこの上なく不気味だ……

 そして当のマサラは、獲物を前にしたワニを思わせる冷徹な眼で直人のことを見据えている。

 ――直人の顔面から一瞬で血の気が引いて行った。

 まるで全身の血が逆流して行く様だった……その大逆流現象は、アマゾン川で年に数回のみ発生するポロロッカを彷彿とさせた。

 この極限の状況で直人は思った。

 ……スイカでもブドウでもミカンでも……種が無くて幸せなのは果物ぐらいではないだろうか!? つまりだ……動物には……何はなくとも男には“種”は有って然るべき物なのだ!! 俺は人工的に……そして物理的に種無しの変種へ成り果てようとしているのか!?

 直人の顔面は人間ポロロッカ現象により、一瞬で真っ青になって行った。


「さっきまでの威勢はどうしたっ? オイッ? クソガキ!」

「種無しの生活も案外快適かもしれないぞ……貴様が思うよりずっとな!」

 そう言うとマサラは直人を見据えながら、右手で何かを握り潰す動作を繰り返した……

 彼女が右手を閉じる毎に、バキ、バキ、バキ、バキ、バキイイイッ! という世にも恐ろしい音が会場中に反響する。直人は男性客の何人かが両手で玉を押さえたのを見逃さなかった。

 ……こいつはきっと頭の中で、俺の“エア黄金ボール”を何度も何度も繰り返し握り潰しているに違いない。直人はその世にもおぞましいイメージトレーニングについて想像し、玉が原子核並みに縮み上がることを止めることができなかった……

 口がからっからに渇く……全身に鳥肌が立っている……全細胞が恐怖を感じているのだ……

 それにしても何故この女勇者は俺の玉を潰すことに固執しているのだろうか!? きっと俺の知らない未知の変態に違いない……恐らく変態の世界は、誕生以来膨張を続けている宇宙の如く横方向に広く、加えて奈落の底以上に、どこまでも縦方向にも深いのだ……直人は眼前の未知の変態を前にして、謎の変態理論を展開させた。

 そこでデュランダルの司会者・田口は何とか理性を取り戻し、マイクを握り締め、二人の会話に割って入ろうとした。

 “あなた方に試合をブッキングする権利はありません!” と言おうとしたのだ。これはデュランダル管理層の領分だ!

 そう――勇者自身には、試合を組む裁量は一切任されていないのである。

 田口がマイクを口元に持って言った正にその時だった……

 突如、懐に入れた携帯のバイブが鳴ったのだ。

 ……これは社用の携帯だ……こんな時に携帯を鳴らすのは、私が考えられる限り一人しかいない……田口は急ぎ携帯のディスプレイを確認した。

 そこには“社長”の二字があった。

  田口が携帯を耳に当て、恐る恐る着信のボタンを押すと、受話器の向こうの相手が一言だけ手短に要件を告げた。

『やらせろ――』

 その時直人は、全身で言葉を絞り出そうと藻搔いていた……獅子ノ目マサラの条件に対する返答をしなければならないのだ……

 ……逃げたいのは山々だ……何よりも全てを出し切るその前に、種無しにだけは成りたくない……しかし。

 逃げ様が無い状況では……

 前に出るしかないじゃないか!?

「その…………その条件を呑もう…………」

 その瞬間、フラッシュが一斉に瞬いた!

 ――ここにスライム戦を前にして、桐生直人 VS 獅子ノ目マサラの対戦が決定したのである。

……なお謝罪会見で不祥事を起こした唯は、自宅謹慎中の為試合への参加が認められることはなかった……つまり直人と直人の大切な下腹部は、この会見の後絶望的な窮地……否、ほぼ撃沈の状況へと一気に追い込まれたのである。

 翌日、かの“東京日報”の報道では、事の顛末が悪意と共にこう報じられた……

《新人勇者・桐生直人、終末には種無し確定!?》

《最後の性春は妹とハッスル!?》


 ――三日後、代々木サッカースタジアム。

 スタジアムには特設ステージが組まれていた。渇いた砂塵が吹き荒れる西部劇風のセットだった。

 ディテールに無駄にこだわったセットには酒場もあり、ウエスタン調のドアを一度ひとたび開けると、そこにはうらぶれた感のあるバーカウンター、丸テーブル、足の欠けた座れない椅子まで置いてあった。カウンターの中には直人のトラウマに成りつつある年代物の“ジャックダニエル”までボトルキープされている。

 最もせっかく作られたこのセットも、これから行われる勇者二人の決闘に巻き込まれ、粉微塵に砕け散る運命に違いない……

 ――一五時丁度。

 五月の太陽がグラウンドの中央で対峙する二人を照らしていた。

 互いの距離は一〇メートル丁度。

 彼等はそれぞれ頭にハチマキを結び、手には樫の木刀が握られている。

 睨み合う二人を他所よそに、周囲をドローンがハエの如く飛び回っていた。

 二人供怪物と戦う時と同じ勇者の装備を身に纏っている……機動性を保ちつつ急所は鎧で身を固めているのだ。

 直人の頭には、自分同様と本人が固く信じている汚れ無き純白のハチマキが、そしてマサラの頭には血の色を思わせる鮮やかな赤いハチマキが巻かれている。

 ……ちなみに謝罪会見で“不祥事”を起こした唯はこの場所にはいない……レンとデュランダル営業部が被害者の東京日報記者・田坂と交渉を重ねた結果、何とか起訴は免れたものの今はデュランダルから自宅にて謹慎中を言い渡されているのだ。

 しかし結果的に直人は、この戦いに唯を巻き込まなくて良かったと思っている……一つはスライム戦に向けて唯のヴリルを温存する為、そしてもう一つは玉の恨みを晴らす為である……

 兄の玉の恨みを晴らすために、可愛い妹を巻き込む訳にはいかないのだ。


『よく逃げずにやって来たなクソガキ! 最後に女を抱いてたっぷりと楽しんで来たか!?』

『…………………………』

『二度と……使い物にならなくしてやるからな!』

 そう言うとマサラは樫の木刀で直人の股間を真っ直ぐに指した。

『案外風通しが良くなって快適かもしれないぞ! ハーハッハッハッハッハ―――――――――――――――――――――――――――――ッ!!』

 マサラの声は彼等の周りをハエの如く周回するドローンによって集音され、競技場に設置されたスピーカーから立体的に放送されていた。

 男の玉を潰すことが何故にそれ程愉快なのかは見当も付かないが、マサラはステレオで高笑いを繰り返している。

 ……まるで既に勝負が付いているかの様な口振りだった……しかし直人にとってはそここそが付け入る隙に違いない。

 勇者ランキング六位の中堅勇者 VS 勇者ランキング一〇位の新人勇者……普通に考えれば勝負は戦う前から既に付いていると思う筈だ。

『その必要はないな!』

 直人がマサラの目を真っ直ぐに見つめながら切り返す。

『何…………だと? クソ餓鬼!』

『その必要は無いと言ったんだよ、このゴリラ女! この俺が勝つからな!』

 玉を掴まれて何もできなかった前回とは違う……それに今回は舌戦(ぜっせん)においても負ける訳には行かないのだ……

 ここで直人はコーディネーターのレンと良く良く話し合った作戦を決行することにした。

『おいっ! 獅子ノ目マサラ! よく聞きやがれ!!』

 そう言うと直人はお返しとばかりに、マサラの股間を樫の木刀で指し返した。

『貴様が玉を潰すことに拘る理由は一つしかないっ! 男にモテなすぎるからだ!!』

『……………………………………!!』

『それどころかだっ! 貴様には友達一人いやしない! 生まれてこの方一度もな。貴様は心も身体も渇きまくっている! 日照り続きの人間砂漠野郎だ!』

 ……直人は啖呵を切りながら、レンが極秘ルートで入手したマサラのプロフィールを思い出していた。


 ――獅子ノ目魔更。

 怪物討伐体数二三体。

 戦歴は現時点で一〇ヶ月と一〇日。

 魔法・身体強化。“怪力”が主要武器。

 一方で治癒魔法は全く持って得意ではない……戦闘中の怪我はもっぱらポーションで凌いでいる。なお洗練されたクレバーな戦い方も苦手である。

 その荒くれ者を思わせるパワーファイトと狂暴な戦い方で主に子供達から人気を博す。

 そんなマサラは幼少の頃両親に捨てられて、止む無く孤児院で過ごしている……しかしそこで早くも一匹狼の体質が発現、周囲の子供達と馴染めず軋轢を生み、喧嘩を吹っかけては相手を大怪我させるという問題行動を繰り返していた……やがて施設からも追い出され浮浪児となるのは時間の問題だったのだ。

 ――そんな彼女が街のギャング団に入ったのは僅か八歳の時だ。

 生き残る為にボスの命じるまま、ありとあらゆる悪事に手を染めたと言う噂だ……

 そして幸か不幸か? 街で荒くれファイトを繰り広げているのがデュランダルの目に留まり、特待生として迎えられ同組織の寮に居を移す……ここでギャング団と手が切れたことは幸いだったのかもしれない……

 デュランダルの特待生として、勇者としての実力を着実に付けて行った彼女だったが、身に沁み付いた一匹狼気質……つまり群れを嫌う性格は遂に変わることがなかった……マサラが親し気に人と話しをしている姿を見た人間は、誰一人としていないという……


 ――直人の挑発はマサラのツボに一〇〇パーセント嵌っていた!

 無論、怒りのツボだった。

 それもその筈だ!

 直人とレンは彼女のプロフィールを熟読し、FBIの心理分析官の如く性格を分析、この試合の為に綿密な作戦を立てたのだから……

 言葉による精神攻撃……直人のプランAは進行中だったのだ。

『貴様に何が分かる――!?』

 マサラは魔法を起動させる為の、生命エネルギーたるヴリルを燃焼させた。

 白昼にマサラの身体から暗黒のオーラが迸る……オーラの色はそれを発現させる人間の特徴を物語っているのだ。マサラのそれは、ブラックホールを思わせる底の見えない暗黒色だった……近付く者は容赦なく食らい尽くし、脱出は永久に叶わない……

『身体強化三〇パーセント!』

 マサラの言葉と共に彼女の筋肉が肥大――身体はボディービルダーを凌駕する鎧の身体へと数秒で変貌を遂げていた……それに伴いマサラが身に纏う伸縮性のある装備が一回り膨らみを見せる……

 身体強化魔法――直人は初めて肉眼で見るその異様な光景に思わず息を飲んだ。

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