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永久の勇者アヴァロン  作者: アベワールド
第1章 勇者 VS バドラ
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第一話「序章」

 深夜十二時。

 東京都渋谷区宇田川町センター街。

 ――二人の勇者が敵である化け物を睨み付けていた。

 不意打ちを狙い、センター街の雑居ビルに身を隠し、息を殺している。

 不眠を誇るこの街が、今だけは水を打った様に静まり返っていた……ネオンサインが煌々と灯るこの街にいる人間は、彼等以外誰もいないのだ……

 二人が潜伏しているのは、センター街入口から二〇メートル程入った十字路の一角。前方には世界的に有名な魔のスクランブル交差点……更にその先では、忠犬ハチ公の銅像が永久(とわ)に戻らぬ飼い主を静かに待ち続けている筈だ。

 一切の通行が途絶えたこの街で、信号機が規則的な点滅を虚しく繰り返していた……


 化け物はどす黒い醜悪な殺気を撒き散らし、東急デパートの屋上に鎮座していた。推定一五メートル、体重四〇トンは下らない正に言葉通りの化け物だ。 

 雲の切れ間から、月明かりが化け物の異形を照し出した……

 全身を覆う赤光りした鱗、両手両足に生える鋭利な(かぎ)(つめ)、尻から延びる見るからに強靭な尾、加えて背中から突き出た鋭角的な形態の羽……化け物は神話の世界に君臨する邪神――ドラゴンそのものだった。

 勇者の所属する組織デュランダルは、この化け物を《バドラ》と命名しマークしていた……

 そして再び現れたのだ……池袋を壊滅させた三日後の今日。デュランダルは勇者に出動を命じ、二人に討伐を確約させていた。

 一方当の勇者は戦う以前に敵のそのでかさに呑まれていた……

 余程の阿保か自殺志願者でもなければ、誰もが尻尾を巻いて逃げ出すだろう。彼等も逃げることを勧めるし、その人間を咎めたりはしない……

 しかし……勇者である彼等は決して逃げられない。

 そう――どんな敵とでも戦うことが義務付けられているのだ。


 真夏の熱帯夜。

 汗が滝の様に流れ落ちて来る。

 今日は厄日だ……と直人は思った。

 改めて雑居ビルの陰から敵を繫々と観察する。

 その化け物――バドラは勇者を正業とする二人が出会った中で、最凶と呼ぶに相応(ふさわ)しい己の死を予感させるに十分な相手だった。

 例えばあの鉤爪、あれが掠っただけで人体など一溜まりもないだろう……皮膚は一撃で裂け、骨は複雑にねじ曲がり、体外に臓器が飛び出すこと請け合いだ。

 そして奴の鱗……刀は通るのか!? 全く自信が持てない。

 更に奴が口から吐く業火は、全ての物質を塵に変えるとまで言われているのだ……二人の勇者はバドラに関する調書を思い出し、額の冷や汗を手で拭った。

 彼等が凝視する怪物の背後では、カメラを内蔵した複数台のドローンが、ハエの様に(せわ)しく飛び交っている。

 勇者の戦いの模様は世界中継され、地球規模の視聴者に映像が配信されるのだ。

 その収益は勇者のファイトマネーや、死傷者や負傷者への慰謝料、壊滅した街の修繕費などに回されるという話だ……

 早速、ドローンの撮影したカメラによって、凶暴なバドラの異形がスクランブル交差点の大型テレビ《渋ビジョン》に放映されていた。

 市民が退避して無人都市と化した渋谷を生暖かい風が吹き抜けて行く。誰かが捨てたコンビニのビニール袋が、風に煽られて二人の前を足早に通り過ぎて行った……

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